第11話
結局現場を見てもリリーナは何一つ手掛かりを掴む事は出来なかった。
捜査のプロの騎士団が見ても何も無いのだから、当たり前と言ったら当たり前の話だ。
僕は微弱な魔力の残りを感じとったから、追う事は出来るけどね。
今晩でも追ってみるか。
「グラハムも失礼よね!
私が国宝を盗むわけ無いじゃない!」
ルナは犯人扱いが相当気に食わなったのか、大層御立腹である。
僕は一国の王女であっても特別扱いしないグラハムに敬意を表するね。
「全くよ。
それに事件現場に居たからって、あんなに怒らないでもいいと思わない?」
事件現場を好き勝手に物色している所をグラハムにこっ酷く怒られた。
そして僕達は昨日来館してたのもあって、取調べを受ける事になった。
今は三人で美術館の一室で待機している。
リリーナは怒っているけど、これは自業自得だと思う。
「それもこれも全部ドーントレスのせいだわ!」
「そうよ!
あいつらのせいで怒られたじゃない!」
「リリーナは自業自得だよね?」
「うるさい!
正論はいらないの!」
自分でもわかっているんだ……
「失礼します」
部屋に入って来た女性の騎士は、トレインと同じような上等な軍服を着ている。
どうやら彼女も位が上の騎士のようだ。
「リリーナ様、グラハム総長がお呼びですので、御足労願います」
「はい、わかりました」
相変わらずの変わり身で騎士に着いて出て行った。
「それでヒカゲ君は現場を見て、何か掴めましたか?」
リリーナが出て行くと、ルナが僕に話しかけてきた。
「僕?特に何も」
「本当ですか?」
「プロの騎士団が調べた後だよ」
「それでも、ヒカゲ君なら何か見つけられると思いまして」
「煽てても何も出ないよ」
「リリーナから今だに聞きますよ。
あなたが前コドラ公爵の企みを逆手に取って失脚させたのでしょ?
しかも、あのリリーナを利用して」
箝口令が出ているのに、ルナには喋ったんだ。
リリーナは案外彼女を信頼しているみたいだ。
それかただのおしゃべりだ。
「まだ怒ってるの?
いい加減勘弁してくれないかな?」
「フフッ。
あの子がやきもきするわけね」
「失礼します」
また違う女騎士が入って来た。
今度は普通の軍服だ。
「ヒカゲ様、お待たせしました」
僕は騎士について部屋を出る。
しばらく歩いた所で僕は前を歩く騎士に声をかけた。
「一段と変装が上手くなったね」
「やはり主の目は誤魔化せませんね」
騎士はずっと見ててもわからないほど、自然に姿を変える。
「久しぶり、主」
口調も変わる少女。
その光が無い目が僕を真っ直ぐに見つめる。
「久しぶりだね、ミカン」
彼女はミカン。
スミレが拾って来た悪党の一人。
元々某国のスパイで変装の名人。
見た目どころか、身長、体重、声質、性別すら自由自在。
もはや変身だ。
そんな彼女の素は無表情で無関心。
口数も少ない。
今も僕の言葉に「ん」の一言で頷くだけだ。
そして、じっとこっちを見たまま何も言わない。
「……えーと、何か僕にようかな?」
「ん」
「……」
「……」
何も言ってこない。
頷いたから用はあるはずなんだけど……
「用事はなに?」
「まだ言わない」
「なんで?」
「言ったら話終わる」
「そりゃ終わるね」
「だから言わない」
良くわからない。
「……」
「……」
なんだろうこの時間?
ひたすら無表情で見られるだけの時間。
いや、いいんだよ。
ミカンは可愛いから見てても飽きないし。
でも無表情で見られ続けるのは、なんというか少し心配になる。
もしかして、僕って口をききたくない程嫌われてる?
「そろそろ言う」
ミカンは凄く残念そうに呟く。
やっぱりそうなのか。
口をききたくない程嫌われてるのか。
そこまで嫌われる心当たりは……あるわ。
むしろ心当たりしかないわ。
ミカンはスパイ任務に失敗して、某国に帰れなくなった。
その失敗の原因は他ならぬ僕だ。
だから彼女は仕方なくナイトメア・ルミナスにいる。
嫌われて当然だな。
「ボスー!!」
ミカンが口を開こうとした時、ヨモギが僕に突進して来て、その勢いのまま飛びつかれた。
「ボス!手紙読んでニャい!
ベットに置きっぱなし!」
ヨモギが手紙を僕に突き出しながら言う。
そういやリリーナのせいですっかり忘れてた。
「読んで!早く読んで!今すぐ読んで!
そうしないとまたニャーが怒られる〜」
今にも泣きそうになりながらヨモギが訴える。
確かに三日連続は嫌だろうな。
僕のせいでこれ以上怒られるのも悪い。
「ごめんごめん。
今すぐ読むから」
僕は手紙をヨモギから受け取った。
「ネコちゃんナイス。
いい子いい子」
「ニャんで!?」
ミカンがヨモギの頭を撫でて褒める。
ヨモギは訳も分からず困惑して僕を見る。
僕も良くわからない。
でも無表情の中に微かな笑みが垣間見えた。
そうか。
ミカンはネコ好きなんだ。
そんな微笑ましい光景を横目に手紙に目を通す。
『王立美術館のロビンコレクションはあなたがきっと気にいるわ。
それをドーントレスとか言う組織が狙っている。
あんな芸術の価値がわからない連中には勿体ないわ。
あなたなら奪ってしまうのでしょ?
必要無いかもだけど、連絡係にヨモギとミカンをつけるわ。
何かあったらすぐに言ってね。
ナイトメア・ルミナス第一色
寛容のスミレ』
流石スミレだ。
よくわかっている。
だけど、この2人を連絡係にするのは間違いだと思うよ。
「今回のお勤めは君達2人が手伝ってくれるんだね」
「ん」
「そうニャ。
じゃんけんで決めたニャ」
そうか、じゃんけんか〜
可哀想に。
君達2人が負けたんだね。
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