表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
12章 悪党は過去の悪事からに逃れられない
275/285

第28話

満月が傾く夜明け前。

アンヌはホテルの一室で1人ホットミルクを飲んで寛いでいた。


その前の席に柔らかい光が集まってヒト型を成した。


「やあ、ロビン。

会いに来てくれたんだね」


「もちろんだよティオネ。

おいらは君に会いたかったんだから」 


「私も会いたかったよ」


「そんな無表情で良く言うよ。

少しぐらい笑顔を見せてくれたっていいのに」


「それはダメだね。

この子の笑顔はこの子の大切な人達の為だからね。

それに……」


「それになんだい?」


「この子の笑顔は素敵だから君が惚れてしまったら私はヤキモチを妬いてしまうよ」


「まったく君って奴は、よくもそんな心にも無い事を」


ロビンは苦笑いを見せながらも、どこか嬉しそうにしていた。


「それで、首尾はどうなのかな?」


「今の所は順調だ。

と思う」


「なんか含みのある言い方だね」


「ちょっとね。

彼の言い回しが少し気になってね」


「と言うと?」


「彼は思想を奪うと言った。

あの時はただの言葉のあやだと思った。

でも彼には明確なビジョンがあるのかもしれない」


「それはいい事ではないのかな?」


「もちろんいい事さ。

だけどその結果が彼にとっていい物なのかどうか……」


難しそうな顔をするロビンにティオネは目を丸くして驚いた。


「まさかとは思うけど、今頃になって良心の呵責に耐えられなくなったのかな?」


「まさか。

おいらにそんな愁傷な感情なんて無いさ。

ただ、彼にとっていい結果になるとは到底思えないんだ。

なんたって彼とおいらは似た者同士だからね」


「確かに彼もロビンも人の好意を素直に受け取れ無いからね」


「そうかな?」


「そうだよ。

だってロビンは私の好意を素直に受け取ってくれないじゃないか」


「またそうやっておいらを揶揄うんだから」


ロビンが笑って流した。

もちろんロビンはそう言われて嬉しかったが、本気だとは全く思っていない。


「本当にそっくりだよ」


ロビンの反応にそう呟いてティオネはため息を漏らした。


「あと、ヘマイト文明の遺物が現れた。

彼を襲ったそうだ」


「さしづめ滅ぼされた復讐って所だね」


「そうだと思う。

だから彼を襲ったのかも」


「あとは彼はロビンが呼んだ男だからかな?」


「え?

なんでおいらが関係あるんだい?」


ロビンは訳が分からず首を捻った。


「だってあの文明はカラット・ヘマイトが作りあげた文明だからね。

ロビンへの敵対心は大きいだろうよ」


「確かに彼とは腕を競い合ったライバルだ。

何故かおいらの弟子として語り継がれているけどね。

でもそれはおいらのせいじゃ無いし。

だいいち、彼は僕の大切な友人だよ」


「好意だけで無く、悪意にも鈍感なのは致命的だよ」


「そんな事は無いよ。

だっておいらは悪党だよ」


そう言うロビンは全くわかっていない様子だ。

もういつもの事なのでティオネも呆れ果てて気にしない事にした。


「なんにせよ、問題はカラットはもちろんヘマイト文明の者達も確実に死んでいるって事だよ」


「そうなんだ。

なのにヘマイト文明の対魔力兵器が動き出した。

それがただ遺物が残っていて、たまたま動き出しただけなら問題無いんだけどね」


「そんな楽観視出来ないと私は思うよ」


「残念ながらおいらもそう思うよ」


「となると……」


「死霊術」


2人の間に沈黙が流れた。

その2人の頭の中には同じ相手が浮かんで来た。


大いなる厄災。

遥か昔ティオネが八英雄の1人として戦った相手。

八英雄が死力を振り絞っても封印するのがやっとだった相手。

そいつが最も得意としていたのが死霊術だったのだ。


「ロビン。

いざとなったら私は刺し違えてでも奴を止める。

その時はこの子の事を頼むよ」


「それは出来ないね。

その時が来たらおいらも一緒だから。

もうみんなはいないけど、おいらだけでも最後まで君の側に居させてよ」


「そう言う所だよ」


だから私はロビンが好きなんだ、と言う言葉をティオネは必死に呑み込んだ。


朝日が昇り始めて、日光によりロビンの体が透けて見える様になって来た。


「そろそろ時間みたいだね」


「次はいつ会える?」


「一緒さ。

彼がおいらの所に辿り着いた時」


「その時が今から待ち遠しいよ」


「君はそうやって僕の心を躍らせる」


「何言ってるの?

本気に決まってるでしょ」


「君は相変わらず魔性の女だね」


「ロビンこそ相変わらずね」


2人の間に少しの沈黙が流れる。

まるで別れを名残惜しむように。


「さようならティオネ。

また会える日まで」


「さようならロビン。

また会える日まで」


ロビンは光の結晶となり、登って来た朝日にかき消された。

ティオネはベットに横になって目を瞑る。

少しして再び目を開けた。


「もう朝ですか?

んー」


アンヌは体を起こして大きく伸びをした。

それからベットから降りて化粧台に座る。

そして鏡に映る自分に向かって話かける。


「昨日はいろいろありました。

式典の初日を楽しめなかったのは残念でしたけど、少し心躍る大冒険をした気分です」


クスッと笑ったアンヌは化粧台の上に置かれている新品の化粧品セットに視線を落とす。


「今日はヒカゲ君を誘って式典を見て周ろうかしら?

ヒカゲ君は付き合ってくれますかね?

昨日の今日ですからね」


そう言いながらアンヌは化粧品セットを嬉しそうに指でツンツンした。


「本当にヒカゲ君ったら。

お姉ちゃんは偉大なんですよ。

あんなに近くで私が気が付かない訳無いじゃないですか」


アンヌは再び鏡の自分を見て微笑みかける。


「そう思いませんか?

ティオネさん」


鏡に映るアンヌは当然なにも言わない。

それでも気にせずアンヌは立ち上がって、窓から差し込む朝日を見る。


「いつか本当に私を奪いに来てくださいねヒカゲ君」


少しでも面白かったと思ったら下にある☆ ☆ ☆ ☆ ☆から、作品の応援をお願いします。


1つでも構いません。


ブックマークも頂けたら幸いです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ