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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
12章 悪党は過去の悪事からに逃れられない
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第23話

穴を抜けてそのまま空まで飛び上がった。

気付けばお日様が赤くなり夕日に変わっていた。


「放してください!」


アンヌが僕の腕の中で暴れる。

そんなアンヌ落とさないように、尚且つ痛く無い程度に強く抱きしめる。


「あまり暴れると落ちるぞ。

下を見てみろ」


アンヌは下を見て暴れるのを辞めてくれた。


「なら下ろしてください」


アンヌが僕を仮面越しに睨む。

本人は凄く怖い顔のつもりなんだろうけど可愛いさが勝っている。


「ダメだ。

もうお前は俺の物だ」


「私は誰の物でもありません」


「だから奪ったんだ」


「なにが奪ったですか。

ただ私を無理矢理捕まえてるだけじゃないですか」


「そうだ。

今お前は俺の手の中にいる。

これを奪ったと言わず何と言う」


「こんな事では私の何も奪えてなんていません!

現にあなたが手を放せは私は溢れ落ちてしまいます」


「ならばずっと抱きしめているだけだ」


僕は少しだけ強く抱きしめて顔を近づける。

近くで見ると更に可愛い。


ふと僕を睨んでいたアンヌの表情が柔らかくなった。

あまりの可愛さの不意打ちにドキッとしたよ。


「そんな事出来ない事ぐらいわかっているのでしょ?」


アンヌは急に優しく語りかけて来た。

そのせいで僕は言葉に詰まってしまった。


「アンヌ!」


下でようやく追いついたツバキが僕達を見上げる。

だけど飛べない彼女は見てる事しか出来ない。


「ツバキさん。

私は大丈夫です」


アンヌは下にいるツバキにそう言ってから、また僕の顔を真っ直ぐに見た。

その表情からは恐怖が完全に消えていた。


「どうしてそんな風に悪ぶるのですか?」


「何を言っている?」


「奪うと言いながら、本当は私を助けてくれたのでしょ?」


「違う。

俺はお前を奪ったんだ」


「なら早く連れて行ってください。

あなた以外誰にも見つからない所に」


「それは……」


「出来ないのでしょ?

だから今こうやってここで止まっている。

どうにかして自然に私を下に降ろす方法を考えている。

違いますか?」


「ああ、違うな。

俺は今お前と言う美しい物を堪能しているんだ」


「そうやって私の怒りを買おうとして私が怖くならないようにしてくれている」


「違う」


「私が痛く無く、それでいて不安定にならない程度に抱き抱えてくれている」


「違う」


「あなたは優しい人なんですね」


それはアンヌが優しいからみんな優しく感じるだけだよ。

だって僕は――


「俺は大悪党ナイトメアだ」


「優しかったら悪党では無いのですか?」


「なに?」


「確かにあなたがしてる事は悪い事です。

でもあなただって人です。

人はみんな優しい心も酷い心も持っています。

それが大きいか小さいかだけ。

あなたは大きな優しい心を持っている大悪党のナイトメアさんです」


「お前は自分でおかしな事を言ってると思わないのか?」


「ええ、思いませんよ」


アンヌは最高の笑顔を見せた。

その笑顔に夕日が良く似合う。


「夕日が綺麗ですね」


突然アンヌが夕日を見て言った。


「今度は何を言っている?」


「私、空なんて初めて飛びました」


「は?」


「風が凄く気持ちいいですね」


そう言うアンヌの顔は幼い少女のように無邪気な笑顔だ。


「ここから見る夕日は更に綺麗に見える気がします」


「さっきから本当に何を言っているんだ?」


アンヌの考えている事が僕には本気でわからない。

でもそんな事はアンヌは全く気にしていないみたいだ。


「ナイトメアさんはこうやって自由に空を飛べるのですね」


「あ、ああ」


「凄いですね。

それは気持ち良さそうです。

私なんて何も出来ません」


「お前には素晴らしい物を生み出す事が出来る」


「ありがとうございます。

でもそれは偶々みんなが評価してくれているだけです。

私はただちょっと手先が器用なだけ。

私の周りには凄い人が沢山いるんです」


アンヌは夕日を見つめながらとても嬉しそうな顔をした。


「シンシア、ヒナタちゃん、エルザ、ツバキさん。

そしてヒカゲ君。

みんな優しくて強い人ばっかり。

そしてみんな私を助けてくれるんです。

私はとても幸せ者です。

でも――」


アンヌは一度言葉を切った。

そしてまた僕を真っ直ぐに見る。


「全てはヒカゲ君の優しさから始まったんです」


僕の優しさ?

一体何の話なんだ?

僕はアンヌの優しさに甘えて困らせた記憶しかないよ。


「ヒカゲ君がシンシアを助けてくれました。

ヒカゲ君が居なければシンシアは自分の選択を悔いたまま死んでいたと思います。

そして私もアークム家に行く事はありませんでした。

ヒカゲ君が居なければ私は優しい人達に会う事すらありませんでした。

そして今日、優しいナイトメアさんに助けられる事も、こうやって空を飛んで綺麗な夕日を見る事もありませんでした」


「だから何度も言うが俺はお前を――」


「ならいつか本当に私の全てを奪ってくださいね」


アンヌはとても優しい笑顔で僕の仮面に優しく触れる。


「でもその時はその仮面を外して、本当の素顔で奪いに来て下さい。

その時を楽しみにお待ちしています」


その言葉に僕は何も答えられなかった。

この仮面を外している時は僕はヒカゲ・アークムとしてアンヌの前にいる事しか出来ない。

ポンコツで甘えたで何も出来ないヒカゲ・アークムとして。


ふとアンヌは下を向いてツバキに手を振った。


「ツバキさーん」


「な、何だい?」


ずっとこっちの様子を伺っていたツバキが急に呼ばれて慌てて返事をした。


「行きますよー」


「え?何が?」


アンヌはクスッと笑ってまた僕を見る。


「放してくれて大丈夫ですよ」


「え?」


「ツバキさんがちゃんと受け止めてくれます」


アンヌの笑顔に一切疑いも迷いも無い。

本当に信じ切っている。


「あっ、でも万が一の時は助けてくださいね」


「ああ」


イタズラっ子ぽく言うアンヌの可愛さに思わず返事をしてしまった。


「ありがとうございます。

ナイトメアさんのおかげで空を飛ぶ貴重な経験が出来ました。

さようなら。

また近いうちにお会いすると思いますけどお元気で」


僕はゆっくりと名残惜しい気持ちを感じながらも右腕を緩めた。

アンヌが僕の腕から溢れ落ちて行く。


「え!?

まさか行くってそう言う事!?」


下でツバキが慌てて走り出した。

あれなら充分に間に合うだろう。


それでも僕はツバキがしっかりアンヌを受け止めるのを確認してから呟く。


「グッド・ナイト・今夜は良い夢を」


夕日が沈み暗い夜が訪れる。

その闇に溶け込むように僕は姿を消した。

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