第21話
アンヌは再び目を覚ました。
そこは見知らぬ部屋だった。
「あら?
ここは何処かしら?
確かマイカ王女さんとお食事をして……
急に眠くなったのでした」
アンヌはベットから降りて軽く身だしなみを整える。
「どうしましょう?」
アンヌはナチュラルに首を傾げる。
「とりあえず外に出てみないとわかりませんね」
アンヌはそっとベットルームの扉を開けて覗いてみた。
その先には扉の隙間からでも分かるほど豪華な部屋が広がっていた。
「あらまあ。
こんな豪華なお部屋は見た事ありません」
アンヌは物怖じしながらもゆっくりと扉を開けてベットルームを出た。
「お目覚めになりましたか?」
「きゃ!」
突然声をかけられたアンヌは驚いて可愛い声を上げた。
「ビックリさせないでくださいマイカ王女」
アンヌは自分の声に恥ずかしながらマイカの方を向いた。
「ビックリさせてしまって申し訳ありません。
お詫びに紅茶でもお淹れしますので座ってください」
「あの……
ここは?」
「ゆっくりご説明しますので、どうぞそこのお席にお座りになってください」
「はあ……」
アンヌは訳が分からないままだったが、今の自分に出来る事が他に無いので大人しく座る事にした。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
目の前のカップに紅茶が注がれる。
いい香りが広がる紅茶をだったが飲む気にはなれなかった。
それをみてマイカがクスッと笑う。
「別に変な物は入っていませんわよ。
何かする気なら寝ているうちにしていますわ」
そう言って、マイカは自分のカップにも注いで一口飲んだ。
「それでマイカ王女。
ここは一体何処なのですか?」
「ここは私専用の地下シェルターです」
「地下シェルター?」
「はい。
何かあった時の避難場所ですね」
「はあ?
それで何故私がここにいるのでしょうか?」
「今モンドーではあの極悪非道のナイトメアが暴れております。
また彼の部下であるナイトメア・ルミナスと革命派の組織八角形のクチナシが交戦しております。
ですので上は今大変危ないんですよ」
「それは分かりました。
しかし何故私がここにいるのかが分かりません」
「ごめんなさい。
急を要する事だったのでお食事に薬を混ぜておやすみして頂いてる間にお運びさせて頂きました」
「そうじゃなくてですね。
いえ、それも決して無視出来る事ではないのですが……」
アンヌはなかなか思った回答が出て来ない事に少し困り始めた。
それをわかっているかの様にマイカは微笑んでいる。
「どうして私がマイカ王女と一緒に地下シェルターに避難しているのですか?」
「私がそう命じたからです」
「だから何故?」
「アンヌさん。
人は平等では無いのですよ」
「はあ……」
急に関係無い話をされてアンヌの頭の中にハテナマークが浮かんだ。
「私はこの国の王女です。
現国王の唯一の子供です。
もし現国王が亡くなれば私が国王となるのです。
私にはこの国を背負うと言う責任があるのです。
だから私は死ぬ訳にはいかないのです。
この国に生きる誰よりも私の命が優先されます。
私にはそれだけの価値があります。
私の代わりなどいないのですから」
「それがマイカ王女が避難している理由ですか?」
「はい、そうです」
マイカは一点の躊躇いも無く強く頷いた。
「それは分かりました。
では何故私も一緒にいるのですか?」
「アンヌさんも代わりがいない特別な人だからですよ」
「私が?」
「はい。
アンヌさん程素晴らしい芸術家はいません。
あなたの様な作品を作る人を失うのは世界の損失です。
危険に晒すなどあり得ません」
「だから私もここに避難させたと言う事ですか?」
「はい。
私はあなたの大ファンですから」
アンヌはマイカが冗談で無く本気で言っている事がわかった。
同時にこの行い全てが善意だと言うことも理解出来た。
それでもアンヌは言った。
「私をここから出して下さい」
その言葉にマイカは微笑んで返す。
「それは出来かねます」
「どうしてですか?」
「それは先程説明した通りです」
アンヌは一息入れる為に紅茶で喉を潤した。
「あなたにそう言って頂ける事はとても光栄です。
でもこれは良くありません」
「良くない?
何がですか?」
マイカは本気で分からない様子で、キョトンとしていた。
その様子にアンヌは何故か親近感を抱いた。
「マイカ王女。
私には人の価値なんて分かりません。
だけど、マイカ王女がこの国にとって大切な存在だと言う事はわかります。
このシェルターを用意されてる事も理解出来ます。
でもここはマイカ王女の為に国民の税金が使われているはずです。
それをマイカ王女の一存で私を匿うのは間違っています。
私はここの国民ですら無いのですから」
「でもアンヌさんの作品程素晴らしい物はありません」
「それも間違いです」
「間違い?」
「芸術と言うのは人によって見方が変わる物です。
マイカ王女の様に素晴らしいと言って下さる方もいれば、なんだこれと言う人もいます。
正解が無いからこそ新しい物が産まれるのです。
だから私の作品が素晴らしいとマイカ王女が言うのも私感でしかありません。
この国を背負うと言う責任があると言うのなら、ここを私物化する様な事をしてはいけません」
「そういうものなのですか?」
「はい」
「そうですか……」
マイカはまだ腑に落ちずに首を傾げる。
それを見たアンヌは思わずクスリと笑ってしまった。
「ごめんなさい。
あまりに弟と似てた物ですから」
「弟と?」
「はい。
あの子も私がどれだけ説明してもわかってくれないんです」
アンヌは困った顔をしながらも何処か嬉しそうである。
「それは弟さんにも譲れない物があるからではないでしょうか?」
「ええ、そうですね。
今のマイカ王女と同じです。
でも私も譲るつもりはありません。
私をここから出して下さい」
2人の間に沈黙が流れる。
長い沈黙の中、真上から大きな音が響く。
「上はかなり危険みたいですよ」
「そうみたいですね」
「それでも出して欲しいですか?」
「はい」
アンヌは強い意志で頷いた。
「平行線ですね。
でも、それも終わりみたいです」
マイカの言葉の意味をアンヌが聞く前に入り口が破壊されてナイトメアが現れた。
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