第18話
昨夜からアンヌが戻って来ていない。
その為今朝からオオクルとシャノンは町中を探し回っていた。
しかし城の周りは人がごった返しており、人1人を探すのは至難の業。
2人は一度合流する事にした。
「オオクルいた?」
「全然。
シャノンは?」
「こっちも全然。
一体何処に行っちゃったんだろう?」
「とりあえずガイアさんと合流しよう」
「うん」
2人は合流場所に向かった。
人が城を中心に集まっているので、少し外れると普段よりも人が少なくなっていた。
その2人にケイマとフヒョウは影からチャンスを伺っていた。
「おいケイマ。
女の方は俺の獲物だからな」
「我々の任務は2人の抹殺だ」
「わかってる。
ちゃんと殺すさ。
ただその前にちょっと遊ぶだけだ」
「お前はこの任務が何の為に――」
「お国の為だろ。
わかってるよ。
だからちゃんとこなすさ。
じゃあ手筈通り2人を分断させるぞ」
「足元掬われるなよ」
そう言ってフヒョウはケイマと別れた。
「あの下衆が。
崇高な行いをしている自覚がないのか」
ケイマはフヒョウが見えなくなると悪態をついた。
「あんな奴を幹部しざる負えないなんて、八角形のクチナシも末期かもしれんな」
「その考えには賛成ね」
ケイマは驚き声の方を向く。
「そして今日壊滅するわ」
「お前がナイトメア・ルミナスか?」
「ええ。
ナイトメア・ルミナス第一色、寛容のスミレ」
「スミレだと」
ケイマはその名前を聞いて高揚した。
すぐさま三節棍を構えた。
「その名前はナイトメア・ルミナスでもトップの強さを誇ると聞いている。
そんな者を叩きのめせるとは光栄だな」
ケイマの三節棍が音を立てながら舞う。
「そう?
私はあなたの事なんてどうとも思わないけど」
「構わん。
死にゆく者に覚えてもらう必要はない」
三節棍がスミレの足に迫る。
スミレは軽く剣で弾こうとした瞬間、違和感を感じて後方へ大きく飛び退いた。
それでも余裕があって避けたのに、太腿に微かに掠った痛みを感じた。
「いい判断だ。
噂通りの実力と言うことだな」
スミレはケイマの手元で舞う三節棍を観察する。
そして違和感の正体に気付いた。
「なるほどね。
武器の周りの空気の密度を操作してるのね」
それがケイマの能力。
三節棍の周りの空気の密度を変える事で光の屈折を生み出す。
それによって実際に見えてる三節棍より一瞬遅く見えているのだ。
そもそも高速で動いている三節棍を肉眼で捉えられる者は少ない。
しかし捉える事の出来る者との戦闘では一瞬の差が勝敗の差に直結するのだ。
「流石だスミレ殿。
初見で見破られるとは恐れいった。
だがわかっていても対処出来やしない」
再び三節棍がスミレを襲う。
それを今度は確実に剣で弾く。
休み無く来る追撃も完璧なタイミングで弾き返していく。
そして隙を見て三節棍の関節部分を切断した。
「何故だ?
何故見えている?」
「別に三節棍を見る必要なんて無いじゃない。
身体全体の動きで来るタイミングなんてわかるじゃない」
「あっぱれ。
完敗だ」
スミレの剣がケイマの首を切り落とした。
◇
「何やってるんだケイマの奴」
ケイマと離れてオオクルとシャノンを襲うタイミングを待っているフヒョウはイライラとしていた。
「チッ!
もう2人共やっちまうか!」
痺れを切らしたフヒョウは数体の紙人形を取り出した。
「ルージュ、あの子サンドイッチくれたから好き」
眠そうな声にフヒョウは驚いてルージュの事を見ると、抱き枕を抱きしめたまま浮いてるルージュに再び驚きを隠せない。
「浮いてるだと……」
「お前あの子いじめるってスミレが言ってた。
だからお前嫌い」
見開いたルージュの目がフヒョウを捉える。
フヒョウは得体の知れない恐怖に呑まれて、紙人形を投げて分身を数体生成する。
しかし次の瞬間には抱き枕を残してルージュの姿は無かった。
そしてルージュが分身の1人が捕まえた。
その事にフヒョウが反応する前に引きちぎる。
そのまま空中を滑る様に移動して二体目を引きちぎって、三体目をその両目がロックオンした。
あまりの恐怖にフヒョウは逃げ出した。
逃げ出してすぐに分身が全滅した事がフヒョウにはわかった。
「逃がさない」
ルージュの声が後ろから聞こえてくる。
フヒョウは振向きもせず、持ってる紙人形をばら撒く様に次々と投げる。
だけどそんな物は一瞬で引きちぎられて行く。
「なんなんだ!
一体なんなんだよあいつは!」
ひたすらに逃げるフヒョウの耳に分身が引きちぎられる音だけが聞こえる。
それが更に恐怖を引き立てる。
その音がだんだん近づいて来る。
ついに耳元で聞こえた。
それは自らの左腕が引きちぎられる音だった事に遅れて気付く。
痛みに身体が反応する前に右脚がもがれてその場に倒れ込む。
叫び声を上げる前にルージュに頭を鷲掴みにされる。
「次はこれにする」
フヒョウが最後に聞いたのは、無邪気で無慈悲なルージュの声だった。
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