第9話
目が覚めると上にルージュの抱き枕が浮いていた。
つまり現在僕自身が抱き枕となっている。
せっかく安眠してるのを起こすのも悪いので、超ゆっくりとルージュの拘束から抜け出して抱き枕を抱かせた。
「ん〜」
ルージュがなんか可愛く唸ったけど、起きる事無く熟睡していた。
しかしルージュを呼ぶって事は彼女の戦闘力が必要になるって事なのかな?
スミレの判断に間違いは無いはずだ。
つまりはそう言う事なんだろう。
まあ彼女達の仕事の事をどうこう言える立場でも無いし静観しておくとしよう。
さて僕は大仕事前のギャンブルに行こう。
この町には何か面白いギャンブルがあるといいな〜
とりあえず僕は町へと繰り出した。
「ボスみっけ!」
ホテルから出た所で後ろからカナリアが飛びついかれた。
「やあ、カナリア。
仕事?」
「そうだよ。
でもまだ時間あるからボス遊ぼうよ」
「いいけど、何して遊ぶの?」
「僕とボスが遊ぶって言ったら決まってるよ。
ギャンブルだよ。
今回は1対1の一発勝負といこうよ」
それは丁度良かった。
今回の大仕事前のギャンブルはカナリアとの勝負といこう。
「どんなギャンブルする?」
「コイントスにしようよ」
カナリアにしては珍しくシンプルなギャンブルだ。
でもたまにそれも面白いかもしれない。
「いいよ」
「じゃあ早速邪魔の入らない所に移動だね」
そうだね。
速く移動しよう。
可愛い女の子を背負っているのは目立って仕方ないからね。
◇
僕達は町外れの広場へと向かって移動することにした。
何故かカナリアを背負ったままの移動する事となった。
おかしいなとは思ったんだけどね。
僕の背中でニコニコしてるカナリアに何も言えなかった。
きっと僕の上に乗る優越感が良かったのだろう。
「それでギャンブルは何を賭けるの?」
「そうだね。
ただ金貨だけ賭けても面白く無いよね。
僕が勝ったらボスはまた僕の尻尾を全部ブラッシングね」
「じゃあ僕が勝ったらカナリアの尻尾をモフモフさせてね」
これでどっちに転んでもお得だね。
もうこの勝負は貰ったも同然だ。
「そんなのでいいの?
なんか僕どっちでもお得な気がするよ。
まあ、やるからには負けないからね。
今日こそボスに勝つんだから。
さあ、ボスが裏表選んでいいよ」
「裏」
「じゃあ僕は表ね。
では早速」
「待った」
僕はカナリアがコイントスをする前に止めてコインを奪った。
「これ両方表のコインだよ」
「テヘッ、バレちゃった。
流石にこんな手には引かからないか」
「もう仕方ないな〜」
僕はそう言って徐にコインを取り出して自然な流れでコイントスをしようとした。
「待った」
そのコインを今度はカナリアが奪う。
「ボス。
これ両方裏のコインだよ」
これこそお約束だ。
イカサマ同士の様式美ともいえる。
「自然な流れでいけると思ったんだけどな〜
よし、ならこうしよう」
僕は金貨のいっぱい入った袋を取り出した。
「ここにはみんな本物の金貨が入ってる。
ここからカナリアがランダムに取ってトスする。
どう?」
「わかったよ」
カナリアは中から一枚取り出して入念と確認した。
もちろん本物だ。
いよいよスタートだ。
「不正が無いように地面落とすね」
「さあ来い」
カナリアがコイントスをする。
回転したコインが宙を舞って地面にバウンドする。
回転数と落下スピードからしてこれは裏になる。
どうやら僕勝ち。
っと思った瞬間コインの回転スピードが少し上がった。
カナリアが超能力で調整しているんだ。
僕も負けじと超能力で回転スピードを上げる。
お互いの超能力が重なりあってコインスピードがぐんぐん上がっていく。
「えい!」
カナリアが表になるようにコインを踏んで地面に抑えつけた。
カナリアは勝利を確信した笑顔だ。
「今度こそ僕の勝ちだね。
ボス、ブラッシングの準備は出来てる?」
「甘いね。
勝負は最後までわからないよ」
「負け惜しみだね」
カナリアが盛大なフラグを立てて足を上げる。
「ほら、表ってなんで!?」
コインは裏だった。
僕がカナリアが足を少し上げた瞬間に超能力でひっくり返したからだ。
「そんな〜
また負けたよ〜」
カナリアは残念そうに崩れ落ちた。
これでカナリアの尻尾のモフモフ権は僕の物。
ついでにブラッシングもさせてもらおうっと。
◇
カナリアの尻尾をしっかり堪能してから別れた僕は人気の無い路地裏を進んでいた。
「ヒィー!」
突然悲鳴が聞こえて曲がり角から男女2人が転げ出て来た。
その1人から何かこちらに飛んで来て地面に転がる。
なんだろう?
僕はそれを拾い上げると八角形の木のバッチみたいな物。
中の柄はクチナシの実かな?
「退きなさい!」
女の方が慌てた様子で突っ込んで来る。
僕は横にずれて道を開ける。
だけどつい足を出しちゃう。
見事に引っかかって前向きに派手に転けた。
転ける時にどさくさに紛れて胸を揉んだのは内緒。
残された男を見ると、幼児に首筋を噛まれて干からびていた。
「あっ!主!
捕まえてくれたんだ。
ありがとう」
そう言って幼児、もといソラが転けた女に飛び付いて馬乗りになる。
「お前たちの血美味しい!」
「辞めて!
お願いだから辞めて!
私達が何をしたって言うのよ!」
「いっただきまーす!」
そう言ってソラは容赦無く首筋に齧り付いた。
みるみる女は血を吸われて干からびていく。
それに比例してソラはみるみる成長していく。
「ぷは〜美味しかった。
お腹いっぱい」
すっかり妖艶な姿にまで成長したソラは満足した顔をこっちに向ける。
「主、久しぶり」
「そうだね。
ソラも仕事?」
「そうだよ。
スミレに呼ばれたの」
そう言ってソラは僕の持っているバッチを指刺した。
「それ持ってる奴は血飲んでいいって言われた」
なるほど。
これはその名の通り八角形のクチナシの証みたいな物なんだね。
わかりやすーい。
「だからそれ持ってる主の血飲んでもいい」
なんでやねん。
「これは今拾ったんだよ」
「でも今持ってる」
「持ってるってそう言う意味じゃないよ」
「知ってる。
けどいけるかなって思って」
「……」
「……ダメ?」
ソラがあざとく首を傾げる。
思わずOKしてしまいそうなあざとさだ。
「ダメ」
「ブー!」
ソラは口を尖らせた。
その姿も何処かあざとい。
「お腹いっぱいなんでしょ?」
「主の血は別腹」
「飲み過ぎは良くないよ」
「チェー。
仕方ないから夜まで我慢する」
「待て待て。
夜ご飯ならいいって意味じゃないよ」
「えー!!
話が違うー!!
今晩は主の血飲んでいいって言われたから急いで来たのにー!!」
おかしい。
そんな事言った覚えはこれっぽっちも無い。
「誰がそんな事言ったの?」
「スミレ」
おーい、またかよー。
昨日のルージュと引き続きスミレの仕業かよ。
スミレの奴、僕を餌にしてるな。
……流石だ。
利用出来る物は全部利用する。
それが悪党という物だ。
でも僕もそう簡単に利用される悪党じゃない。
「それでもダメな物はダメ」
「いーやーだー」
「駄々捏ねてもダメ」
「いいじゃん!いいじゃん!
減るもんじゃないのに!」
「いや、間違い無く僕の血は減っているよ」
「……確かに!
でも私は飲みたいの!」
「ダメな物はダメ」
「う〜、わかった。
今晩は我慢する」
凄く残念そうな顔してるけど、チラチラこっちを見てるのバレバレだよ。
「ダメな物はダメ」
「これでもダメかー。
仕方ない。
仕事の後まで我慢する」
「仕事の後ならいいとは言って無いよ」
「えー!
いっぱい頑張ったらご褒美欲しい!」
「それはわからないでも無いけど……」
「やったー。
主の血飲み放題だー」
「いや、それは……」
行っちゃったよ。
まだ僕はいいって言って無いのに。
あれは絶対わざとだな。
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