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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
12章 悪党は過去の悪事からに逃れられない
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第8話

モンドーで行われる式典はカルカナ王国では大きなイベントの一つである。


当然そこに向けて各地から物資が集まって来る。

そして今回はホロン王国で急成長しているエミリア製薬も、化粧品販売の特別販売の為にモンドーへと向かっていた。


この特別販売に成功するば、カルカナ王国での支店展開に大きく近づく。

正に正念場。

代表であるエミリアも直接出向く力の入れようだ。


ただ会社の立ち上げからまだ期間が短いエミリア製薬はこのイベントに割ける人員が少ない。

その為エミリアを含む綺麗所の女性3人と選りすぐりの商品だけに絞り、馬車一台での移動をしていた。


最近名を上げて来たブランド。

護衛は無し。

そして綺麗な女性3人。


盗賊からすればカモがネギを背負って鍋まで持参して来てる状況である。


当然のように人気の無い道に差し掛かると同時に盗賊に囲まれてしまった。


「護衛もつけ無いとか誘ってるとしか思えねえな。

大人しくしていたら命までは取らないでやるよ。

命だけはな」


馬を操っていた2人は大人しく馬車から降りた。

盗賊達のいやらしく下品な笑い声が響く。

馬車の中でエミリアは大きなため息を吐いた。


「露骨過ぎてどう考えても怪しいのに、そこまで頭の回らないバカに当たるとは不運でした」


その言葉が終わると同時に馬車の入り口が盗賊達に開かれた。


「おー」


盗賊達から思わず声が漏れた。

それもそのはず。

エミリアはナチュラルメイクだけで充分な程整った顔。

体の線がはっきり分かるドレスを着こなせるスタイル。

そしてドレスの上からでもはっきり分かる豊満な胸が一際目立っていた。


「今日は大当たりだな」


盗賊達は無意識に舌舐めずりをして馬車に乗り込もうとする。

エミリアは冷ややかな目で盗賊を見て後ろ手でナイフを生成した。

その時。


「ぎゃー!」


外で盗賊の悲鳴が聞こえた。


「なんだ!?」


乗り込もうとした盗賊達が外を覗く。

それと同時に外へと吹き飛んで行った。


盗賊達の代わりに女性が馬車を覗く。


「いくらなんでも無防備過ぎないかい?

もう少し気をつけた方が……

君は!」


「勇者ツバキ様。

助けて頂きありがとうございます。

お初にお目にかかります。

エミリア製薬代表のエミリアです。

会社を代表してお礼申し上げます」


驚きを隠せないツバキに何食わぬ顔でエミリアは丁寧に頭を下げた。

ツバキはいろいろ言いたい事があったが、全てを飲み込んで笑顔で答えた。


「初めましてエミリア。

間に合って良かったよ」



物資が集まれば当然人も集まって来る。

貴族達だけで無く平民達も式典を楽しみに集まって来ていた。


貴族は基本専属の馬車でモンドーへ向かうが、平民達は乗り合い馬車を利用するのが殆どだ。


なのでこの時期は乗り合い馬車は稼ぎ時。

どの馬車も満席となる。

中には屋根も無い荷車のような臨時の乗り合い馬車まで走っている。


その一台に2メートルを超える長い剣を抱えた青年が乗っていた。


「お兄ちゃん。

その剣長いね」


乗り合わせた男の子が剣をマジマジと見上げた。

お母さんが慌てて男の子に注意する。


「コラ!辞めなさい!

すいません、ウチの子が迷惑かけて」


「いえ。

迷惑だなんてとんでも無い」


青年はにこやかに応えて男の子を優しい目で見る。


「ボウズ。

剣は好きか?」


「うん、好き。

でも僕とても弱いんだ。

お兄ちゃんは強いの?」


その発言に慌てた母親を青年は手で静止した。


「お兄ちゃんは強いぞ。

とってもな」


「本当に!

どうしたら強くなれる?

僕、強くなってみんなを助ける正義のヒーローになりたいんだ!」


青年は男の子のキラキラ輝く真っ直ぐの瞳が眩し過ぎて直視出来なかった。


何故なら青年が強くなろうとした理由が、惚れた女性に振り向いて欲しいと言う邪な理由だったからだ。


「そうだな。

お兄ちゃんには先生がいっぱい居るんだけどな。

初めの先生が言ってたんだ。

良く食べて、良く寝て、良く学んで、良く鍛錬する事。

そうすれば必ず昨日よりも今日、今日よりも明日。

君は強くなっている。

それが地味だが確実に強くなれる方法だって」


「そうやったら僕も強くなれるかな?」


「もちろん。

お兄ちゃんも小さい頃は弱かったんだぞ。

でもこの剣を見てごらん」


青年は男の子に剣の鍔の部分を見せる。

その剣は鍔を跨いで柄と鞘の部分を布のような物でグルグル巻きになっていた。


男の子は不思議そうに尋ねる。


「それだと剣が抜けないよ」


「剣が抜けなくてもいいぐらい強くなったんだ」


「本当に!?

すげー!」


男の子は再びキラキラした目を青年に向ける。

それを優しく見ていた青年の顔にキリッと緊張が走る。


「運転士さん。

ちょっと馬車を停めてくれ」


青年に言われて運転士は馬車を停める。


「お兄ちゃんどうしたの?」


「シー」


青年は男の子に静かにするように人差し指を口に当てる。

馬車内に沈黙が走った。

風が吹き抜ける音だけが聞こえてくる。

青年の耳にはもう一つ地面の中を巨大な何かが進む微かな音が聞こえていた。


青年はタイミングを見計らって大きく跳んだ。

そして剣を地面に向かって投げる。


鞘の先が地面に深く突き刺さり、何か硬い物に当たって止まった。

その地面が盛り上がって、人を丸呑み出来る程の大蛇が飛び出して来た。


「シャー!!」


脳天に一撃を食らった大蛇は怒りのまま威嚇の鳴き声を発する。


宙に舞った剣を青年はキャッチして地面に着地。

それと同時に大蛇に突っ込む。


「恨みは無いが、餌になるつもりは無いのでな」


大蛇の口から吐き出された毒液を、もう一段階スピードを上げて潜る抜けて首の真下に潜り込む。

そして真上に跳んで2メートルを超える剣を軽々と振り抜いた。


大蛇の首は地面に落ちる。

青年は鞘のまま大蛇の首を切断したのだ。


別に鞘が特別な訳では無い。

至って普通の鞘だ。

強いて言うなら、ちょっと頑丈で重たいぐらい。

特に魔力も使っていない。


青年はただただ速く振り抜いただけだ。

そのスピードと鍛え抜かれた技だけで、普通の剣以上の切れ味を出したのだ。


この青年こそが人間最強と言われる男。

剣聖ミツルギである。

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