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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
3章 悪党は美術館がお好き
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第8話

支払いは既に済ませているようで、リリーナはすっと店を出て行った。


僕も後から出ようとすると店員達が、


「どんまいです」


「まだ若いから大丈夫です」


「チャンスはまたきっと来ます」


「心の準備が出来たらとき、また当店でお待ちしてます」


と、口々に慰められた。


全く意味がわからん。


「フフフフ。

アッハハハハハ。

おっかしい〜」


しばらく黙って歩いていたリリーナが、店が見えなくなった頃に突然笑い出した。


「あの雰囲気最高ね」


「楽しそうで何よりだけど、残念ながら僕にはわからないよ」


「店の人も、周りのお客さんも、あなたが私にプロポーズすると思っていたのよ」


「は?プロポーズ?

なんで?」


意味がわからん。

そんな事あるはず無いのに。


「あの店では、あのコースで、あの席で予約すると言う事はそう言う事なの。

通称プロポーズコースって言われるわ」


「でも、予約したのは君だろ?」


「もちろん、あなたに名前で予約したわよ。

今頃お店ではあなたがヘタレだって話で持ちきりね」


そう言い終わると、リリーナは再び声を出して笑い出した。


なるほどようやく合点がいった。

だから最後店員さんが励ましてくれたのか。


こいつ一体何人巻き込んでイタズラしてるんだよ。


「君は一体何をしたいんだ?」


「そんなの決まってるでしょ。

あなたにプロポーズして欲しいのよ」


「はいはい」


本当にこの子はそう言う冗談好きだね。

もう呆れて怒る気もしないよ。


「ねえ、ヒカゲ」


穏やかな声で胸ぐらを掴まれる。


「その優しい顔で良く胸ぐら掴めるね」


「茶化さないで聞いて。

私があなたに黙ってたのはね、あなたに勘違いして欲しく無かったからよ。

さっきも言ったように、あなたの価値が上がったのはここ最近の話」


今度は真剣な表情になったリリーナが、僕の顔を自分の顔にグッと引き寄せる。


「でも私は違う。

初めて会ったあの日からあなたが欲しかった。

アークム男爵の評判なんて関係無い。

ヒカゲ、あなたが欲しかった。

だから、あなたは私の物よ。

誰にも渡さない。

わかった?」


「うん、わかったよ」


僕の答えに満足したようだ。

僕を放したリリーナは足早に寮のエントランスへと向かった。

そして最後にこっちに振り向いて笑顔を手を振った。


「おやすみなさいダーリン」


そのまあ寮の奥へと消えて行った。


彼女の気持ちは良くわかった。

前世で僕も同じ経験をしたからね。


全く評価されてない絵画に一目惚れして、その画家の絵を盗みまくったんだよね。


そうしたら怪盗ナイトメアが盗む画家とか言い出して価値が一気に上がって。

急に評論家達が手のひらを返したように評価し始めたんだ。


あの時思ったね。

お前見向きもしなかったのにって。

全部僕の物だぞって思ったね。


彼女も僕と一緒で独占欲が強いんだな。

人を物扱いするのはどうかと思うけどね。



帰宅してから味の決まらないココアで一服していたら、僕の部屋に侵入者が現れた。

抜き足差し足で僕の背後から迫り来ている。


「どうしたのヨモギ?」


「ニャんで!」


僕が背中越しに声をかけると、後ろでヨモギが驚きの声をあげる。


今日は魔力で作ったボディスーツに身を包んでいる。

きっと、音が出ないようにしたつもりかもしれないが、


「まだまだ甘いね」


「う〜、まだまだ甘かったニャ」


「それで、何かよう?」


肩を落として項垂れたヨモギに声をかける。


「ボス!聞いて欲しいニャ!」


「どうしたの?」


「昨日スミレ様に怒られたニャ」


ヨモギはまたいっそう肩を落とした。


本当にショックみたいだ。

スミレは怒ったら怖そうだもんな。


「そっか〜

怒られたのか〜」


「ニャぐさめて欲しいニャ!」


ヨモギがソファーと僕を飛び越えて、僕の膝にダイブする。


「おーよしよし。

それで、なんで怒られたの?」


「……」


撫でて喜んでいたヨモギが固まった。


「あの……ヨモギ。

どうして怒られたの?」


「忘れたニャ!」


「忘れちゃったの?」


「ニャー」


僕が昔披露してあげた可愛い猫のポーズでヨモギが誤魔化す。

完全に忘れてしまったやつだ。


「それまたスミレに怒られない?」


「そうだニャ!

マズイニャ!

ボス、ニャいしょにしといて!」


「そうだね。

内緒にしておこう。

忘れた物は仕方ないからね」


「仕方ニャい!」


それに怒られた事をずっと覚えておいてもいい事なんて何もない。

なんたって僕達悪党は今を生きているんだから。


「それで今日は何の用事?」


「ボスにスミレ様から手紙を預かってるニャ」


「手紙?」


一体なんだろう?


「あ!」


「どうしたの?」


「思い出したニャ!

昨日ボスに手紙渡すの忘れたから怒れたニャ!」


「そうか、思い出してえらいね」


「えへへ。

褒めて褒めて」


「よしよし偉いぞ」


頭を撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らしている。

獣人って不思議だよね。

見た目は殆ど人間なのに、生態は猫そっくり。


「ねえ、ボス。

ニャに飲んでるニャ?」


ヨモギがふと僕の飲みかけのココアを指差す。


「ミルクココアだよ」


「ミルクココア?

ニャーはミルク好きニャ。

欲しい!頂戴!」


「いいよ。

今新しいの作ってあげるね」


「嫌!

ボスのが欲しいニャ!」


わかる。

人の物って何だか欲しくなるよね。

これぞ悪党だ。


「いいよ」


「ニャったー!」


コップを持ったヨモギは一気にココアを飲み干した。


「美味しい!

だけど、ニャにか勿体無い感じがする」


「ヨモギもそう思う。

なんか味が決まらないんだよね」


「ミルク感がもっと欲しいニャ」


「なるほど、水じゃなくて牛乳で割ったらいいかもしれない」


缶に書いてある作り方にこだわり過ぎていたな。

他の人に意見を聞くと新しい発見があるな。


「お手柄だぞヨモギ」


「ニャんだか知らないけどボスに褒められた!

ココア貰って、褒められて、今日は最後にいい日だったニャ」


「そうだね。

終わり良ければ全て良しだね」


「じゃあ今日はボスと一緒に寝るニャ」


「ダメ。

自分の部屋に帰って寝なさい」


「ガーン。

ニャがれでいけると思ったのに……」


「そんな流れは無かったよ」


「わかったニャ。

今日は諦めるニャ。

ボスおやすみ!」


「おやすみ」


ヨモギは風のように消えた。

あんなにハイテンションで寝れるのだろうか?

……そう言えば、なんか忘れてる気がする。

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