第21話
僕はサバンナに投げ飛ばしたガオの前に降り立った。
土煙が収まってガオの姿がはっきりと見えた。
「どうだ皇帝。
お望み通りここなら誰にも邪魔される事無く、思う存分戦う事が出来るぞ」
「ガオー!!!」
雄叫びと共にガオの魔力が大きく膨れ上がる。
その膨大な魔力に空気が一気にピリついた。
「いいね。
では第二ラウンドと行こうではないか」
僕も負けじと魔力を放出する。
「『美学その11
芸術作品を汚してはならない
汚す奴を許してはならない』」
「は?」
「俺はな美しい物が好きなんだ。
あの町は最小限の設備だけで自然と調和されていて美しい」
「何が言いたい?」
「つまり――」
僕とガオは同時に動いた。
距離は一瞬で無くなり、拳同士がぶつかった。
衝撃で僕達を中心に砂の波紋が広がる。
今回は全くの互角だ。
「俺も手加減してたって事だよ」
第二ラウンドのガオはまるで別人だ。
その拳と空間を巻き込み、その蹴りは空間を引き裂き、その爪は空間を切り裂く。
まともに受ければ僕だってひとたまりもない。
これは人間と獣人の絶対に埋まらないフィジカルの差。
だけどガオ。
それじゃあ当たらない。
君は素直過ぎる。
僕の細かいフェイントに全て引っかかる。
身体能力が高いからこそフェイントに気付き反射的に動いてしまう。
故に当たらない。
そのかわり周りの地面には砕け、少ない草木はさらに間引きされている。
そして僕はガラ空きになったボディに打撃を与えていく。
これも天性の頑丈さで耐え続けているが、間違い無くダメージが蓄積している。
「どうした皇帝よ。
どれだけ攻撃が鋭かろうと当たらなけれ意味が無いぞ」
「うるせぇ!」
振り下ろされた爪を避けてボディに膝を入れる。
今までピクリともしなかったガオがほんの少しだけ揺らめいた。
もうかなり効いて来てる。
「人間である俺一人にこれだけ苦労しているのに人間を滅ぼすとは大きく出た物だな」
「舐めるなよ!」
更なる爪は僕のフェイントに釣られて空を切り裂く。
また空いたボディに拳を打ち込んだ。
「本当は分かっているのだろ?
計画は上手くいかないと」
「てめぇ。
どこまで知っている」
「知りはしない。
あくまで俺の想像の範疇だ。
だが、お前が暴君となって弟に打ち取られる事を望んでいる所まではあってるのではないか?」
「ガァ!」
図星を突かれて大振りした腕を避けて、ボディに思いっきり蹴りを入れる。
ついにガオは数歩後ろへと後退った。
「友好だけではダメ、恐怖だけでもダメ。
その考えは正しい。
友好は裏切りによって崩れる。
恐怖は薄れて行って忘れる。
でも二つがあっても未来永劫なんて無いぞ」
「裏切ればその度に喰らえばいい。
薄れでばその度に上書きすればいい」
ガオはまた果敢に攻めてくる。
ダメージが蓄積してるのか、心なしか動きが鈍くなっている。
「一体それを誰が……
そうかなるほどな。
お前は更に未来を見ているんだな」
君がそれを担う気なんだね。
レグロスに討たれた後も生き残って。
でも君が愚か者である事には変わらないよ。
「どうしてそんなくだらない考えに至るのか不思議な物だ」
「てめぇにはわからないだろうな」
「ああ、わからんな。
もしかしてお前は救世主にでもなるつもりか?
それは無理な話だ。
何故なら――」
ガオの爪を左手で受け止める。
右の拳を固めて振りかぶる。
僕には自己犠牲の精神なんて理解出来ない。
したくも無い。
僕は世界で一番僕の事が大切だから。
それに自己犠牲なんて迷惑なだけだ。
する方はいいよ。
好きな様にすればいいだけだから。
でもやられた方はたまった物じゃない。
余計な責任感を背負っていかなければならない。
そんなの呪いと一緒。
結局の所。
「自分すら救えない者に他人が救えるわけ無いだろ」
僕の拳がガオの鳩尾に突き刺さる。
ガオが踏ん張って耐え左手を突き出した。
それが僕に到達する前に右手の魔力を爆破させて吹き飛ばす。
ガオはまだ倒れない。
でもかなりキツそう。
肩で息をしている。
「誰になんて言われても俺様は突き進む。
この国は獣人が獣人らしく生きる事の出来る最後の地だ。
必ず守ってみせる」
「守るか……
フッ、笑わせる。
お前1人でこんな大きな国を守れるわけ無いだろ」
僕は空に魔力を展開していく。
オーロラのベールがアールニマ全土の空を埋め尽くす。
「俺ならこの国など一瞬で焦土に変える事が出来る」
「やめろ!」
ガオが突っ込んで来て右手を突き出す。
だけど僕の魔力の壁に爪は阻まれる。
「この国どころか世界全てを焦土に変える事も出来る」
「グルルルルル!」
「俺から言わせれば獣人も人間も関係無い。
この世界の全てが敵だ。
種族などくだらない。
むしろ潰し合ってくれた方が助かるな。
結局この世は敵か味方の二択しか無い」
「ガオー!!」
ガオの咆哮が魔力の壁を粉砕する。
壁を破った爪が僕の横腹を抉る。
僕は魔力の籠った掌底でガオを弾き飛ばした。
ガオの体は地面を転がって止まった。
「なかなかやるな皇帝よ。
やはりお前は俺の敵だ。
今回は素直に負けを認めて逃げさせて貰うとするよ。
だが次はこうはいかない。
次相見える時は戦争だ。
タイマンなど綺麗事などは無い。
自分一人で全てを守れるなどと言う驕りは捨てる事をおススメするよ」
僕は右手を真っ直ぐに上に向ける。
じゃあねガオ。
これは僕からへ君の皇帝就任祝い。
「グッド・ナイト・今夜は良い夢を」
オーロラが粉々に砕けて、カケラがキラキラと舞ってから溶けるように消える。
僕も同じように消えてゆく。
ガオは気付いてくれるな?
敵は人間で無く僕だと。
そして敵の敵は味方だと言う事に。
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