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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
11章 悪党はにわか悪党を認めない
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第20話

始まりは1年半前。

シーミュウのスパイがアールニマに出入りし始めた。


狙いはアールニマの豊富な資源。

その為にまずやろうとしたのは外交だ。


外交により信頼を勝ち取り交通のインフレを行う。

そしてそれを使って秘密裏に資源を持ち帰ろうと考えた。


しかしそれには大きな障害があった。

当時の皇帝レオンだ。


レオンはその目論見を全て分かっていた。

だから外交など絶対に開かないつもりだった。


だがそのレオンにも大きな懸念があった。

自身の寿命である。


当時レオンは不治の病に侵されていて余命幾許もなかった。


レオンは自分の死後のこの国の事を考えていた。


シーミュウの侵略はこれからも続く。

和平条約を結ぶ事も考えた。

しかし民主主義のシーミュウは政権が変われば反故にされる可能性もある。


レオンは結局人間を信用しきれなかった。


だから彼は未来永劫子供達が脅かされる事の無いように自らの残り少ない命を賭ける事にした。


そしてそれに同じく病により老い先短い先代皇帝とガオーンが協力する事になった。


それは国ぐるみの一世一代の大芝居。


まずはガオーンがダメな皇太子を演じる事で付け入る先を作る。


そしてレオンは自ら暗殺されて、それを暗殺されたと気付かないふりをする。


ボケてるフリをした先代皇帝に復位する事で、ガオーンに取り込む為の時間を稼ぐ。


仕上げに再び皇帝を暗殺させて、それを理由にシーミュウに攻め込む。


二代も皇帝を殺されたとなれば世界の世論は味方になる。


更にシーミュウは世界の貿易中継点。

そこを抑えればこれから人間との交渉に役立つ。


だがこれでは終わらない。

暴君となったガオーン皇帝は人間への攻撃を辞めない。


次の狙いはホロン王国。

そこでガオーン皇帝は返り討ちに会い生き絶える。

ホロン王国と手を組んだレグロス殿下によって。


最後はレグロスが皇帝となる。

ガオーン皇帝によりアールニマを怒らすのは危険だと知らしめ牽制しつつ、友好を築いたレグロス皇帝が守り続ける。


これが皇帝レオンが最後に書いた大まかな筋書き。


全てはレグロス以降が平和に暮らせる為に3人は命を賭けた。


「そんな馬鹿げた計画があるか……」


スミレから話を聞いたネズカンは素直な感想をこぼす。


「ええ、そうね。

馬鹿げた計画よね」


「そもそも国民全員がグルなんて出来るはずが無い」


「この計画を知らなかったのはレグロスだけよ。

アールニマの国民は全員この策に乗った」


「ありえん。

そんな事不可能だ。

第一どうやって知らせるのだ?」


「皇帝が持っていた王冠。

あれは魔道具よ。

被った者が伝えたい内容を一瞬で大勢の人にどんなに離れていても伝えられる」


その魔道具によって、国中を自由に移動している国民に有事を間違い無く伝える事が出来るからこそ国が成り立ってきたのだ。


「確かに穴だらけの馬鹿げた計画よ。

でもアールニマの国民はみんな同じ気持ちだった。

ただこの雄大な大地で誰にも邪魔されずに自分達らしく生きたい。

それだけだった」


ネズカンは脱力して大空を見上げた。


「何故言ってくれんなんだレオン。

もっといい方法があっただろう。

結局儂もあいつには信用されて無かったのだな」


「逆よ」


「逆だと?」


「レオンはあなた達なら必ず動いてくれる。

そう信じていたからこそ言えなかった。

自分が死んだ後にまであなた達に嘘という責任を負わせたく無かったのよ」


スミレの言葉にネズカンは胸を締め付けられる思いだった。

レオンならそう言うであろうと容易に想像が出来たからだ。


「チャップ雑芸団にレグロスを預ける事も計画の内だったみたいよ。

あなた達ならレグロスを守ってくれる。

そしてホロン王国ならあなた達がいる。

結局レオンはあなた達しか信じられなかったのね」


「それでも言って欲しかった。

共に戦った仲間なのだから背負わせて欲しかった」


ネズカンはうわ言のように呟いた。

スミレは何も無いサバンナを眺めながら言った。


「あなたには何が見える?

何も無い雄大なサバンナだけ?」


「あ、ああ。

そうだが?」


ネズカンはスミレの言ってる意味が分からなかった。

実際に丘の上からは何も無いサバンナしか見えなかった。


「私には精霊が見えるの。

精霊は何処にでもいる。

そしていろんな物を見聞きしている。

精霊に聞けば大概の事は分かるわ。

それこそ遥か昔の事だって。

でも人の心の中は想像する事しか出来ない。

だからこれは私の想像なんだけど」


スミレは言葉を切ってネズカンを見た。


「皇帝レオンは信じたかったんじゃないかしら?

あなた達の手を煩わす事無くても、こんな馬鹿げた計画を実行する事も無く平和なアールニマが続く事を」


「その想いは結局報われる事は無かったのだな」


「そうね。

残念ながら今のところは報われないわね」


「今のところ?」


突然サバンナに何かが落ちた。

大きな衝撃音と共に土煙が上がる。


「なんだ!?」


その落下地点から人影が立ち上がった。

ナイトメアに投げ飛ばされたガオーン皇帝だ。


遅れてナイトメアも対峙する様に降り立った。


「一体なにが起きておる」


「ヴァン・ホロン。

歴史にもしもなんて無いのよ。

だから過ぎた事を後悔してる時間なんて無いわ。

あなたはここで見届けなさい。

そして伝えなさい。

誰が悪党で誰が英雄なのかを」


スミレはゆっくりと真上に飛んでいく。

ネズカンはそれを見上げながら問う。


「どう言う意味だ?」


しかしスミレはその問いには答えずに遥か上空まで飛んで行った。


再びナイトメアとガオーンの戦いが始まる。

それを見逃すまいとスミレは上空から見下ろした。


「私もあなたの本当の想いは想像する事しか出来ない。

でも信じたいのよね?

この過酷で残酷で理不尽な世界。

だけどこんな世界でも正しい者が幸せになれる世界だと。

だからあなたは戦う。

悪党である自分が幸せな最後が来ないと証明するために。

私はあなたのその想いの為に全てを捧げるわ。

でもね、あなたは最後に身内の前から消えるつもりでしょうけどそれだけは認めない。

何人たりとも私からあなたを奪わせはしない。

例えそれがあなた自身だったとしても。

いいわよね?

だって私はあなたと同じ自分勝手で我儘な悪党なんだから」

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