第17話
墓参りを終えたチャップが戻って来て、僕達はいよいよアールニマを出立する時が来た。
「よぉしオメェら。
準備はいいか?」
「みんな団長待ちですよ」
すかさずゴーレツが返事をする。
トレーラーの周りで待機していた他のみんなも口々に同じような事を言っていた。
「そうだったな。
じゃあゴーレツ、次は西に向かえ」
「はいはい」
みんながトレーラーに乗り込んだ。
僕もトレーラーの上に登ろうした時、ライオネル全体にガオの声が響き渡った。
「アールニマの誇り高き獣人達よ!
皇帝陛下は殺された!
この地の資源に目が眩んだ愚かな人間によって!
私はただ今を持って皇帝となる!
そして敵を取る為にシーミュウを滅ぼす事を誓う!
更に二度とこんな悲劇が起こらぬよう人間を滅ぼす!
手始めにカトリーヌ商店の者を皆殺しだ!
誰一人として逃すな!」
「「「おー!!!!」」」
ライオネル全体から割れんばかりの雄叫びが地面を揺るがした。
まるでこの時を今か今かと待ち侘びていたような雄叫び。
ついにこの国がついていた嘘が牙を剥く。
「はあ〜
やっぱり歴史は繰り返すんだな」
チャップがため息を吐いてから独り言を呟いた。
「どう言う事?」
「獣人と人間の歴史は虐殺の歴史なんだよ。
新人は聖教の成り立ちって知ってるか?」
「なんとなくは習った気がするね」
「世界で好き勝手していた7人の超人を鎮めたティオネ。
彼女を女神と崇めたのが聖教の始まりだ。
だがそれには前日譚がある」
「前日譚?」
「そうだ。
ティオネと言うのはそもそもただの人間。
世界を滅ぼす大いなる厄災から世界を救った八英雄の一人。
八英雄はいろんな種族の者達の集まりだ。
そして残りの7人ってのが」
「さっき言ってた超人だね」
「その通り。
新人はなかなか頭いいな」
まあ、話の流れ的にそうなるよね。
「いざ大いなる厄災の脅威が無くなった時、人間達は次にその超人達を恐れたんだ。
だから唯一人間だったティオネを女神に祭り上げて他の種族を迫害した」
「そんなの他の種族が黙って無かったんじゃない?」
「まあな。
でも大いなる厄災との戦いでティオネ以外の八英雄はもう戦う力を失っていた。
唯一力が残っていたティオネ自身も深い眠りについていたんだがな。
でも他の種族はティオネの力を恐れて受け入れるしか無かった。
その中で一部の獣人が人間を虐殺する事で抵抗をした」
確かに歴史は繰り返してるね。
でも、そりゃそうなるよね。
僕だって納得出来なかったら徹底的にやっちゃうね。
「それでどうなったの?」
一緒に話を聞いていたヒメコがチャップに尋ねた。
「最後まで抵抗したのが八英雄にもいた妖狐族と幻猫族。
そして奇しくも当時の長は両方八英雄の親族で、九本の尻尾を持つ妖狐族と緑髪の幻猫族だった。
結局数で圧倒的に負けていた二つの部族は敗北した。
部族の存続の条件にルールが決められた。
妖狐族は9本の尻尾を持つ者の尻尾を全て切る事。
幻猫族は緑髪の者が産まれたら殺す事。
それによって人間はティオネと同等の力を持つ者の誕生を阻止しようとした。
そしてそれを見せしめる事で他の種族も牽制したんだ」
僕はモグちゃんの言っていた事を思い出した。
そして僕は今も同じ事を思う。
でもそんなの関係無い。
僕は身内の不幸は全て排除するだけだ。
「そして人間は爆発的に増えて、この世界の殆どの土地を埋め尽くした。
それによって世界は発展していった。
だが増え過ぎた人間達は遂に他種族がひっそりと住む土地にまで手を出そうとしたんだ」
「それはまた欲深いね」
人の欲は無限大だ。
その時は満足しても、また新たな欲が生まれてくる。
決して収まる事は無い。
それがあるからこそ日々生活が豊かになっていく。
こればっかりは仕方ない事なんだ。
「そうだな。
だが、それを阻止する為にあるバカが必死に世界中を駆け回った。
それによってギリギリ戦争は免れたんだけどな」
チャップは染み染みと言った。
その言葉には悲しみが滲み出ていた。
「そのバカはとても強かったんだね」
「いいや。
弱かったぞ。
人間の中でも弱かった方じゃないか」
「え?でも戦争を止めたんでしょ?」
「だからバカなんだよ。
バカな程お人好しだったんだ。
そいつがしたのは間に入ってお互いの線引きをしていった。
それだけだ」
「えー。
そんなのすぐに殺されない?」
チャップはフッと短く笑った。
「普通はな。
だがあいつには思わず助けたくなってしまう魅力があった。
あいつが言うならいいかと思える程お人好しだった。
それだけだ」
不思議な話だ。
でも世界にはそんな不思議が人間がいる。
それも才能なのだろう。
「まあそれも結局50年しか持たなかったか……
短かったな。
オメェら。
先に行っといて――」
「団長!」
チャップがトレーラーから降りて何かを言い掛けた時、グラが叫びながらこっちに走って来た。
その手には泣きじゃくるレグロスが抱えていた。
「どうした?
オメェは打ち上げには参加しねぇんだろ?」
グラはレグロスを下ろしてから団長に土下座をした。
「団長!
お願いしやす!
レグロス殿下を一緒に連れて行ってくだせぇやす!」
「はあ?」
チャップは泣きじゃくるレグロスを見る。
そしてグラを睨みつけた。
「まさか最初からこのつもりだったのか?」
「お願いしやす!
何も言わずに今すぐ連れて行ってくだせぇやす!」
グラはそれをひたすらに繰り返す。
「団長大変だ!」
今度はゴーレツがチャップを呼んだ。
「今度はなんだ?」
「ジュニアが!」
そっちを見るとジュニアが助手席から降りて低い唸り声を上げていた。
その目は光が失われている。
「マジかよ!
こんな時に!
リンリン!ランラン!
ジュニアを取り押さえろ!」
「「はい!団長!」」
二人は素早くトレーラーから降りて、ロープでジュニアをグルグル巻きにする。
まだ抵抗するジュニアをどうにかしてトレーラーに引きずり込もうと必死になっている。
「団長!お願いしやす!」
こっちではグラみたいな大男がひたすら頭を下げている。
なんてカオスな空間なんだろう。
僕はさっさとトレーラーの上で風を感じながら寝たいんだけどな。
さて、どうしたものか?
そんな事思っている僕のズボンをレグロスが引っ張る。
「ねえ、ヒカゲお兄ちゃんは兄様の友達なんどよね?」
レグロスはしゃっくりをしながら必死に喋る。
「まあ、ガオは僕の事をブラザーとは呼ぶね」
「兄様を助けて。
兄様は何かおかしいの。
こんな事するの兄様じゃない」
「確かにガオらしくは無いね」
嘘の反対って真実って思うよね?
でも実際は嘘の反対は嘘だって事は良くある。
嘘を辞めた後に更に嘘を吐く。
正しく今のこの国その物だ。
「ごめんねレグロス。
僕にはガオを助けてあげる事は出来ない」
「そんな……」
「レグロスはガオを助けたい?」
「うん」
「なら僕と約束出来る?」
「何を?」
「本当のガオを信じてあげるんだ」
「本当の兄様?」
「そう。
レグロスが知ってる強くて優しい本当のガオ」
「うん」
レグロスは力強く頷いた。
その腫れ上がった目には幼いながらも強い意志が見えた。
きっとこの子は本当にガオが好きなんだろう。
「なら今のガオは嘘のガオ。
にわか悪党のガオだね」
「嘘の兄様?」
「そうさ。
にわか悪党は悪党には決してなれない。
明日には本当のガオになってるよ」
「本当に?」
「その代わりレグロスが信じてあげないといけないよ。
何があっても。
何と引き換えにしても。
僕と約束出来るかな?」
「うん!
僕は兄様を信じる!」
僕はレグロスの頭を優しく撫でる。
これで契約成立だね。
「なら大丈夫。
だって悪夢は目が醒めた時に終わるから」
「悪夢?」
『おやすみ』
僕は言霊でレグロスを寝かした。
「ねえチャップ」
「今度はいってぇなんだぁ?」
もうチャップは完全に混乱している。
リンリンとランランはなんとかジュニアをトレーラーに引きずり込んだ所だ。
「レグロス寝ちゃったよ」
「はあ!?
あーもう!
仕方ねぇ!」
そう言ってチャップはレグロスを抱き抱えてトレーラーに乗り込んだ。
「新人乗れ!
とりあえずライオネルから出るぞ!
話はそれからだ!」
「先に行っててよ。
ちょっと買い物があるんだ。
後で合流するから」
「何言って――」
チャップは僕の顔を見て言葉を途中で辞めた。
そして深呼吸してから続けた。
「真っ直ぐ西に行ってるからな」
そしてトレーラーは走り出した。
それが完全に見えなくなってからナイトメアスタイルに変身する為に魔力を身に纏う。
「レグロス。
それが君の悪党と契約してでも叶えたい願いなら、今回はサービスしてあげるよ。
ガオにはいっぱい奢って貰ったからね」
それに僕はにわか悪党は嫌いなんだ。
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