第14話
肉を食え!!!の事務所でグラとキラーが話し合いをしていた。
「もうすぐ公演ですね」
「はい。
予定通りに開催されやす」
「今回も次の日に雑芸団は出立ですか?」
「はい。
参加メンバーは午前中に出立して先に打ち上げの場所取り、団長は最後に墓参りするとの事で午後からの出立になりやす」
「それも予定通りですね。
では計画通りお願いします」
「わかりやした」
「失敗は許されません。
この国の未来はこの計画にかかっています」
「わかってやす。
お任せください」
2人は神妙な面持ちで頷き合った。
「キラー。
お話は終わりましたか?」
そこに手と口の周りをギトギトにしたレグロスが入って来た。
「ええ、終わりましたよ」
キラーは優しい笑顔になってレグロスの口と手を吹いた。
「聞いてキラー。
僕いっぱい食べたんだ。
こんなおっきいのも食べれた」
レグロスは両手をいっぱいに広げてキラーに報告した。
「それは凄いですね。
美味しかったですか?」
「うん!
とっても!」
「そうですか。
ではきちんとお礼を言いましょう」
「うん!」
レグロスはグラの方を向いてぺこりと頭を下げる。
「グラのおじちゃん。
ありがとうございます。
とっても美味しかったです」
「そうでやすか。
よろこんでくれて嬉しいでやす。
またいつでも来てください」
グラもぺこりと頭を下げた。
「では私達はこれで」
「バイバイ」
キラーとレグロスは肉を食え!!!を後にした。
グラはその背中をサングラスを外して見送った。
「レグロス様。
この国は好きですか?」
キラーは帰り道で尋ねた。
「うん!
大好き!」
レグロスは元気良く答える。
それを見てキラーは優しい微笑みを浮かべる。
「では、この国の為に誰よりも強く、誰よりも優しい皇帝になってください」
「でも兄様がいるよ。
兄様は強くて優しいよ」
「レグロス様が皇帝になる事を私は望んでいます」
「キラーは兄様が嫌いなの?」
レグロスの無邪気な言葉にキラーは曖昧な表情で答えずに誤魔化す。
「僕は兄様もキラーも好きだよ。
みんな仲良しがいいよ」
「そうですね。
でも私だけでなく、国民も皇帝陛下だってレグロス様が皇帝になる事を望んでいます」
「なんで?
僕よりも兄様の方が強くて優しいよ」
「それでもです。
強くなってくださいレグロス様」
「うーん……」
レグロスは考えてみた。
でも全く持って言っている意味を理解出来なかった。
ガオーンが次の皇帝になるとばっかり思っていたレグロスは自分が皇帝なる事なんてこれっぽっちも考えて無かった。
だから素直にそれを言う事にした。
「わからないけど、僕が強くて優しくなったらみんな喜んでくれるんだね。
なら皇帝になるかは置いといて、僕は頑張って
強くて優しい男になるね」
「はい。
期待しておりますレグロス様」
キラーの笑顔を見てレグロスは嬉しくなった。
◇
ライオネルを少し離れたサバンナ。
そこでネズカンは自由の効かない体を気合だけで動かしていた。
幼い頃から何度も暗殺されそうになっていた彼は、毒を盛られた事が一度や二度では無い。
そのおかげと言っては皮肉だが、少なからず毒に対する耐性が出来ていた。
それと彼自身が持つ精神力。
それによって彼は辛うじて動けていた。
また咄嗟に彼がサバンナに逃げた事も幸いしていた。
どうせ毒で死ぬであろう者の為に誰も過酷なサバンナに足を踏み入れたがら無かったのだ。
だからと言って毒は容赦無くネズカンの体を蝕んでいく。
ネズカンは小さな木にもたれ掛かるようように座り込んでしまった。
荒い呼吸音がするが、上手く酸素が肺に入って来ない。
「まさかあんなに堂々と毒を盛ってくるとはな……
完璧に油断した。
だがここで休んでる場合では無い」
そう言って立ち上がろうとするが、体はそれを拒否して動かない。
息をしようとすると空気が喉を通らず咳き込む。
「まだ死ねぬ。
このままでは……レオンに……顔向けできん」
ネズカンは薄れ行く意識の中で50年前のレオンとの会話が鮮明にフラッシュバックしていた。
「ヴァン。
俺様はこの国が好きだ。
俺様達獣人が自由にのびのびと大自然の中で生きて行けるこの国を愛している。
この国は獣人の最後の楽園だ。
この国を守る為なら俺様は親父が反対しようが人間を滅ぼす」
そう言うレオンの表情は一切嘘偽りの無い本気その物だった。
「そのつもりだったさ。
でも今は踏み止まらせてくれたお前に感謝している。
お前のおかげでこの地を血で汚す事が無かった。
でも俺様はまだ人間を信じ切れない。
俺様はいつか皇帝になる。
そしてこの地と国民達を守っていく。
その為なら戦う事も辞さない。
だからヴァン。
お前の事なら信じられる。
だからこそ俺様に信じ続けさせてくれ。
決して人間に牙を剥く事無くこの国を守っていけると」
遠い日の約束。
ネズカンが生涯守り続けようと誓った親友との約束。
それが今破かれようとしていた。
その事をわかっていて尚、ネズカンは動けない。
もう指先一つ動かせやしない。
最後に最愛の人の顔が浮かぶ。
「千歳まで生きると……約束」
そこでネズカンの意識は完全に潰えた。




