第12話
悪党が潜伏する時に大切な事。
それはいかに周りに溶け込むかである。
派手なのはもちろん。
逆に地味過ぎてもいけない。
誰からも何の印象にも残らない普通に徹するのが一番。
そう言う意味ではスミレの用意した住処は完璧だった。
住居スペースの片隅に周りと遜色ないテント型の住居。
中も至って普通の一人暮らし用。
「お客様用の椅子は用意して無いの。
ベットにでも座っててくれる。
お茶でも用意するから」
「別にお茶なんていらないよ」
僕は言われた通りベットに座った。
おっ、コレは僕があげた羽毛布団じゃないか。
こんな所にまで持ってくるなんて、気に入ってくれたみたいだね。
良かった良かった。
「じゃあ早速本題に入るわね」
スミレが僕の隣に座る。
「あなたも――」
「ちょっと待って」
僕はスミレの言葉を遮る。
「なに?」
「なんで椅子があるのに隣に座るの?」
「いけない?」
「いけなくは無いけど話し難く無い?
僕が椅子の方に――」
僕が立ち上がろうとしたらスミレに掴まれて止められた。
「何か不満?」
「不満とかじゃないけど――」
「なら問題無いわよね?」
「でも――」
「無いわよね?」
「……はい」
なんか有無を言わせない圧力に押されて僕は大人しく座り直す。
正直ちょっと怖い。
「あなたも感じてるわよね?
この国の違和感」
「化粧品だよね」
「流石ね。
わかってるとは思うけど」
「そうだね。
誰かの思惑が蠢いてるね」
「ええ。
あなたの事だから見当も付いてるのでしょ?」
「まあ、大体はね。
こんな事を出来る人間なんて限られてるからね」
「どうするの?」
「え?
どうもしないよ」
目的までは分からないけど、僕には関係無いからどうでもいい。
「あなたらしいわね。
でも……」
スミレは何かを言いかけて辞めた。
彼女は何か掴んでいるみたい。
彼女の事だから目的までも突き止めているのかもね。
「どうしたの?」
「なんでも無いわ。
それより、なんであそこにいたのか答えを聞いて無いわよね?」
「え?
あそこって……」
「娼館」
「ですよね〜
あれは……そう、偶々だよ」
「ヨモギと一緒に?」
「うん。
そう偶々」
なんでか分からないけど、ここは誤魔化した方がいい気がするぞ。
「そうなの。
じゃあ2日前は?」
「えーと……
行ったかな〜?
記憶に――」
「激しいのが好きなのよね?」
な、なんでそれを?
「ミレイヌだけだと順従過ぎて物足りないのかしら?」
なんか嫌な汗が出て来た。
特に悪い事してないのになんで?
いつの間にか僕の片腕がホールドされて逃げられなくなってるし。
「スミレ。
何か怒ってる?」
「怒って無いわよ。
だけど私不思議なの」
「なにが?」
「だってお金勿体ないでしょ?」
スミレが僕の耳元まで口を近づけて甘い声で続けた。
「激しいのが欲しいなら私がしてあげるわよ」
全身がゾクゾクする。
ヤバイヤバイヤバイ。
そんな事言われたら理性飛びそうになるって。
「スミレ――」
スミレの方を向いたら超顔が近い。
続きの言葉を生唾と一緒に飲み込んでしまった。
「何かしら?」
タジタジの僕とは対象的にスミレは余裕の笑み。
なんか僕追い詰められてない?
「そう言う冗談は良くないよ。
君は自分のポテンシャルを考えた方がいい。
相手が本気にしたら大変だよ」
「冗談?
まさか本気よ。
だからあなただけ」
「え?」
「あなたは私が誰にでもこんな事するとでも思ってるの?」
「いや……
そう言う訳では無いけど……」
「それとも私が相手なら不満かしら?」
「とんでもない」
「じゃあこれからは私が相手してあげるわね」
「それはその……」
「良かったわね。
これから無駄かお金使わなくて済むわね」
「……はい」
どうしよう。
はいって言っちゃったよ。
だってなんか断り切れないんだもん。
美学に反するから絶対に出来ないのに。
こんなにやり込めるなんて、もしかして僕はスミレに悪党の格で負けてるのか?
成長は喜ばしい。
けど負ける訳にはいかない。
きっと抜け道があるはずだ。
……そうか。
激しく無いのだったらいいんだ。
よし、またいい店探そうと。
とりあえず今晩はミレイヌを使って発散しよう。
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