第31話
自分の才能を信じられず、人の才能ばかりを妬むが故に僕に全て奪われると言う悪夢のフィナーレ。
その後について少し話をするね。
僕はトレーラーの上で心地よい風を感じながら、離れて行く王都を眺めていた。
トレーラーの周りにはいくつもの馬車があった。
今回の公演に参加した団員達が打ち上げの為について来ているらしい。
これだけの人数が世界中にいるのなら、チャップが言ってた団員500人ってのも嘘では無いようだ。
「どうだ新人。
こいつの乗り心地は?」
中からチャップが出て来て僕の隣に座った。
「いいね。
この丁度いい振動と風が最高だね」
「そうだろそうだろ。
オレ達の自慢の家だ」
「移動式の家ってロマンがあるね」
「おっ!新人はわかってるな」
チャップは豪快に笑いながら僕の背中を何回も叩く。
思いっきり叩くから超痛いけど、嫌な感じがしないのが不思議だ。
「それにしても新人。
本当に黙って出て来て良かったのか?
みんなに挨拶する時間ぐらい出発遅らせる事出来たんだぞ」
「いいよ別に。
特に挨拶するような相手もいないしね」
悪党の僕はすんなりと消えるに限る。
僕なんかの為に時間を使わせるのも悪いしね。
「そんな事より、本当に僕なんか一緒に行ってもいいの?」
「オイオイ、何を言っている。
新人はもうウチの団員だ。
自由について来たらいい」
「でも僕は何も出来ないからね」
「それなら大丈夫だ。
新人の主な仕事は護衛だ」
「護衛?
僕みたいなポンコツなんて護衛にならないよ」
僕は不思議そうに首を傾げる。
それを見たチャップはまた豪快に笑った。
「いいんだよ。
ヒメコが言うには新人が居れば魔物が来ないらしい」
そうなの?
やっぱり僕臭うのかな?
「なんか魔除けみたいだね」
「なんかじゃねぇ。
間違い無く魔除けだな」
どうやら僕は本当に臭うらしい。
ちゃんと毎日お風呂入って洗ってるのに。
匂いというのは悪党にとって天敵だ。
どこかに紛れ込むのに邪魔になる。
なにか手を打たないとな。
「心配するな。
匂いじゃねぇよ」
僕が自分の体をクンクンしてたらチャップが楽しそうに笑い出した。
「魔獣は知能が低いと言われているが、生きる事に関しては天才だ。
ヤバイ奴には近づかねぇんだ」
「僕ってヤバイ奴なの?」
「ヤバイ奴だろ。
なんだってウチに入る奴はヤバイ奴しかいねぇ」
「それチャップが一番ヤバイ奴って事にならない?」
「もちろんそうなるさ。
オレは団員に負けるつもりはねぇ」
ヤバイ奴で勝っても仕方ないと思うんだけどな〜
◇
王都はとっくの昔に見えなくなってからかなり遠くまで来た所で、チャップ雑芸団の打ち上げが盛大に行われた。
わざわざ人里離れた所でする理由が良く分かる。
こんな派手なドンチャン騒ぎ見た事無いよ。
所々で無秩序に花火が上がってるぐらいだ。
もはや花火というより爆弾みたい。
これ怪我人出てもおかしくないよ。
いや、もうすでに怪我人出てるわ。
僕はこう言うみんなでドンチャン騒ぎは苦手だから遠巻きで見ている事にした。
僕は前世からみんなで何かを成し遂げるって事をした事無かったからね。
そんな僕の所にヒメコが来て隣に座った。
「君は飲まないの?」
「私はまだ子供」
「そう言えばそうだったね」
「子供だから迷惑かけていいって言われた」
「誰に?」
「団長」
へえ〜
あのチャップがね〜
……確かに言いそう。
「本当にいいと思う?」
ヒメコが何故か僕に聞く。
「いいと思うよ。
本人がそう言ってるなら」
「ならあなたにも迷惑かけていい?」
「僕?
僕は迷惑かける側の人間だよ」
「どうして?」
「僕は生きているだけで迷惑な人間だからだよ」
「それなら私も一緒」
「それは違うね」
「どうして?」
「君は可愛いからね。
可愛い子はいるだけでみんなを幸せにするんだよ。
可愛いは正義だからね」
ヒメコは理解出来ないのか無表情のまま首を傾げた。
「とりあえず君はいるだけでみんなの癒しになってるって事だよ」
「あなたがいるだけで魔物が来ないのと一緒なの?」
「うーん……そんな感じかな?
ちょっと違う気もするけど」
「なら私はここにいる意味あるのかも」
ここにいる意味ね〜
難しいよね。
本当にいる意味のある人間ってどれほどいるのだろうか?
人なんて代わりなんていくらでもいる。
その人がいないと世界が回らないって人なんていないと思う。
その中でも僕は真っ先にいる意味の無い人間なんだろう。
でもそれでいいんだ。
僕ははるか遠くになった王都の方を見る。
だからこそ僕は身内の不幸を徹底的に排除するんだ。
世界にとって代わりがいるかも知れないけど、僕にとっては代わりのいない人達だから。
「団長は笑わない子供は嫌いって言ってた」
「みたいだね」
「でも私は笑い方がわからない」
「こっち見てごらん」
「なに?」
「ニャー」
僕の必殺可愛いネコのポーズ。
これで笑わない子供はいない……
事は無かった。
「なにそれ?」
「ネコのポーズ」
「それで?」
「可愛いでしょ?」
「だから?」
なんたる無表情。
ただ滑ったよりも心抉られる物がある。
もしかして、僕のポーズにキレが無くなって来たのかも。
今度鏡の前で特訓しないと。
「言ったでしょ。
可愛いは正義なんだよ。
君もやってごらん」
「私が?
こう?」
ヒメコはぎこちなく僕の真似をする。
可愛いけど残念ながらまだまだ可愛さが足りない。
「こうだよ。
ニャー」
「ニャー」
「ニャー」
「ニャー、クスッ。
なんで2人してニャーニャー言ってるんだろう」
「オイ!ヒメコが笑ったぞ!」
僕達のたまたまやり取りを見ていた団員の一人が声をあげた。
一瞬にしてヒメコの周りに人が集まって来た。
「どいつだ!
オレを差し置いてガキを笑わせた奴は!」
チャップも酒を片手に突撃して来た。
やっぱり可愛いは正義。
すぐに人が集まってくる。
僕は巻き込まれないようにすっと抜け出して離れた。
誰もいない土地で少し離れた所から聞こえる喧騒を聞きながら綺麗な星空を見上げた。
「王都から離れるのね」
僕の横に現れたスミレが同じ星空を見上げた。
「そうなんだ。
ごめんね。
一応ギルドマスターなのに」
「いいわよ。
あなたは自由だもの」
「秘密基地には顔出すから、僕の部屋置いといてくれる?」
「もちろんよ」
「あと一つお願いしていいかな?」
「ええ」
「僕の身内に何かあったらお願い出来る?
もちろん僕はすぐに行く。
だからそれまでの間だけでいいんだ」
「わかったわ。
でも聞いていいかしら?」
スミレは真剣な顔で僕を見つめた。
「なに?」
「その身内って私達も入ってる?」
「当たり前じゃないか」
「もしも、もしもよ。
表の身内と私達裏の身内とどちらか選ばないといけなくなったらあなたはどっちを選ぶの?」
「そんなの決まってるじゃないか」
僕は美しいスミレの顔を真っ直ぐに見て続けた。
「両方だよ。
僕は悪党だよ。
どこまで行っても自分勝手で我儘なんだ。
人の物を奪う事があっても何も奪われたくない。
どんなに遠くにいたって、例え君達とこうやって会う事が出来なくなったとしても、君達の不幸は全て排除するよ。
それが――」
「悪党の美学。
でしょ?」
スミレは安心しきった満面の笑みを見せた。
それはこの満天の夜空よりも美しかった。
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