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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
10章 悪党は才能と努力で成り立っている
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第29話

ソルトとウララは急ぎで魔人だけが暮らす里へと帰った。


里のみんなに労いの声をかけられるのを、簡単に返して真っ直ぐに族長の所へと向かった。


「親父!」


族長のソルトの父は村の長老達と会合している所だった。


「おお、ソルト。

無事で何よりだ。

成果はどうだった?」


族長は父親のような優しい顔で迎えた。


「シュガーを見つけたよ」


「良かった。

心配してたんだ。

今どこに?

連れて帰って来たんだろう?」


「いや、置いて来た」


ソルトの言葉に族長だけで無く長老達の顔も険しくなった。

だがすぐに族長は父親の顔に戻る。


「どう言う事だ?

相手が強かったのか?

なら次はもっと人数を――」


「どう言う事か聞きたいのはこっちだ。

シュガーは攫われてなんか無かった。

自らの意思で家出したって言ってたぞ」


「それは脅されて言ったに違いない」


「そんな感じじゃ無かった。

それにムホンダに殺されかけた。

あれも親父の差金だろ!」


族長の顔がすっと無表情になる。

そして冷たく言い捨てた。


「だからなんだ?」


「こっちは殺されかけたんだぞ!」


「役に立たない奴は死んで当然だ。

お前はバカだが聞き分けだけは良かったのに残念だ」


突然ソルトとウララの周りを魔人達が取り囲む。


「大人しく言う事だけを聞いてればいいものを。

もういい。

子供はまた作ればいい。

失敗作は殺せ」


取り囲んだ魔人達が剣を抜いた。

ソルトとウララの2人では到底太刀打ち出来ない状況だった。


いざ魔人達が襲いかかろうとした時。


『そこに直りなさい』


全員がその場に縫い付けられたように固まった。


そこに悠々とルリが歩いて来た。

そしてソルトの方を向いて優雅な礼をする。


「お初にお目にかかります。

ナイトメア・ルミナス第二色、謙虚のルリです。

以後お見知りおきを」


次に周りを見渡して満足そうに頷き、誰にも聞こえない独り言を漏らす。


「なるほど。

だからマスターは私に会いに行けと言ったのですね。

ああ、私に過去の清算をする機会を与えてくださるなんて、なんと慈悲深い」


ルリはステッキを地面に突き刺す。


『止まりなさい』


族長とソルトとウララ以外の魔人達がその場に倒れる。

全員漏れなく心臓が止まって絶命していた。


次にルリは族長の方を見る。


「それにしても。

相変わらずですね叔父さん」


「叔父さん?

ま、まさかお前は!」


「そうですよ。

あなたに両親を殺され、命からがら逃げ仰せて悪党に落ちた、あなたの姪っ子でございます」


ルリは族長に向かって再び悠々と歩き出す。


「しかし、叔父さんのような者からまともな子供が産まれるとはこの世の神秘を感じますね。

いや、両親のようなまともな人から私のような悪党が産まれるのですから不思議では無いのかもしれません」


「両親の復讐にでも来たのか?」


「復讐?」


ルリは不思議そうに首を傾げる。

そしてクスッと笑った。


「そんな事して何の意味があるのですか?

そんな気があればとうの昔に来ております。

私はマスターの役に立つ為に忙しいのですよ」


「なら何のようだ?」


「マスターにあなたのご子息に会って来いと言われましたので来たまでです。

でも、せっかくですので練習台になってくださいますね」


ルリはステッキの先をおでこに当てる。

そのままゆっくりと上げていく。


「おい!何をする!

辞めろ!」


ステッキの先にピッタリとおでこがくっついた族長の身体は真っ直ぐ伸びていく。


そして爪先が完全に地面から離れた。


「上手くいきました。

私も成長し――」


パーン!


族長の頭が破裂する音がルリの言葉を遮った。

ルリは残念そうにため息を吐く。


「少し気を抜くとこれです。

まだまだマスターには遠く及びません」


ルリはクルッと振り返ってソルト達の方を向いた。


「では私はこれにて――」


「待ってください」


ソルトが礼をしようとしたルリを止めた。


「なんでしょうか?」


「あなたは僕のいとこなのですか?」


「ええ、血縁上はそうなりますね」


「あなたの両親を殺したってどう言う事か教えてくれないか?」


「そのままの意味ですよ。

あなたが殺されそうになった理由と一緒。

叔父さんは気に入らない者は殺して来た。

その中に私の両親がいた。

それだけです」


ソルトは絶句した。

何も知らなかった己を恥じた。


ただ若と言われて舞い上がっていた子供だと気づいた。


そんな様子をルリは責める事無く礼をした。


「行ってしまうんだね」


「ええ、マスターのお役に立たないといけませんので」


「そのマスターってのはいい人なんだね」


ルリは礼をしたままクスッと笑う。


「いいえ。

マスターは途轍もない悪党でございます」


そう言ってルリは音も無く消えた。


そして残された2人は魔人達を纏める事となった。


人間に助けられた2人は、長年人間が敵だと擦り込まれた者達の意識と戦う事になる。


すぐには終わらない、終わりがいつになるかすら分からない戦い。


そんな戦いでもいつかは終わる。

昨日より今日、今日より明日。

確実に終わりに近づいていく。

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