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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
10章 悪党は才能と努力で成り立っている
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第26話

今帰れば二度と戻って来る事は出来ない。

その事をヒメコは分かっていた。

それでも無力なヒメコは帰るしか無かった。


「なんだぁ?

帰るのか?」


突然ヒメコの後ろにチャップが現れた事に、そこにいる全員が驚く。

そんな事など全く気にせずにチャップはヒメコの頭の上に手を乗せた。


「帰りたくなったのか?」


ヒメコは小さく頷いて小声で言う。


「私は帰らないといけないの」

「バカかお前は?」


チャップが心底呆れた声を出した。


「オレは帰りたくなったのか?って聞いてんだ。

なら答えは帰りたいか帰りたく無いかの二択だろうが」


ヒメコは答えられずに黙って俯いた。


「あなたがシュガーを保護してくれていた方ですか。

この度はご迷惑をおかけしました」


そんな二人にソルトが丁寧に頭を下げた。


「お前はこのガキの肉親か?」


「はい。

兄のソルトと申します」


「そうか兄か。

本当に迷惑かけられたぞ」


ヒメコはピクリと反応する。

ソルトは再び頭を下げた。


「それは大変申し訳あり――」


「なんで謝んだ?」


「え?」


「ガキは迷惑かけるもんだろうが。

まだ何も出来ねぇんだから。

問題はこのガキが笑わねぇ事だ」


「シュガーは昔から笑わない子で――」


「お前は間違い無くバカだな。

笑わないのは面白い事が無いからだよ。

家にいてお前達といるのが心底つまんねぇんだよ。

そりゃ家出もするわ」


チャップはヒメコの頭を乱暴にくしゃくしゃする。


「オイッ!ガキ!

オレは言ったよな?

帰りたくなるまで連れてってやるって。

どっちなのかはっきりしろ」


「私は……」


ヒメコはそれ以上言えずに黙って俯く。

チャップは聞こえるように大きな舌打ちをした。


「あのな、大人ってのはお前達ガキが思ってる程賢く無いんだ。

そんなのウチの団員見てたら分かるだろ?

黙ってて伝わるって思ったら大間違いだ。

言わなきゃ伝わらねぇし、言われなきゃわからねぇんだよ。

だからガキはなにも考えずに我儘言いやがれ」


産まれて我儘など言った事など無かった。

それを言っても何も変わらないと思っていた。

でも、チャップの乱暴な物言いにヒメコは背中を押された気がした。


「帰りたく無い」


「だそうだ。

悪いが家出続行だ」


「それは困ります。

シュガーお嬢様は大切な――」


ウララの言葉をソルトが手で制した。


「シュガー。

そっちにいる方が楽しいのかい?」


ヒメコは強く頷いた。

それを見たソルトはまたもやチャップに頭を下げた。


「シュガーをお願い出来ますか?」


「ウチは出入り自由だからな。

帰りたくなったら送ってくさ」


「はい、よろしくお願いします」


「これだから坊ちゃん育ちは困る」


ソルトの体を後ろからムホンダの剣が貫いた。


「ムホンダ!

若様に何を――」


「そいつも抑えろ」


ムホンダの命令で2人の魔人にウララは地面に抑えつけられて、剣を奪われた。


「シュガー様を捕まえろ。

ピエロは殺せ」


「逃げるぞ」


チャップはヒメコを抱えて逃げ出そうとした。

しかしすぐに魔人達に囲まれた。


包囲網は少しづつ小さくなっていく。

チャップは舌打ちをした。


その音を掻き消すように大きなクラクションの音が響く。

そして大きなトレーラーが突っ込んで来た。


突然迫り来る巨大な塊に魔人達は慌てて避けていく。


「団長!捕まって!」


チャップは助手席から手を伸ばした青年にヒメコを渡す。

青年はヒメコを車内に引きずりこんで、チャップはトレーラーの上に飛び乗った。


そのままトレーラーは走り去った。


あまりに突然の出来事にムホンダ達はトレーラーを呆然と見送ってしまった。


その隙にウララは拘束を振り解いてソルトの元へと駆け寄った。


「若様!しっかりして下さい!

若様!」


ソルトは辛うじて息があるが、ウララの叫びに反応しない。


我に返ったムホンダはそれを無視して魔人達に命令した。


「追うぞ!

絶対に逃すな!」


「ムホンダ様。

こいつはどうします?」


1人の魔人がウララを指刺しながら尋ねた。


「確実に殺せ」


そう言ってムホンダは2人だけを残してトレーラーを追った。


残された2人は顔を見合わせてニヤリと笑う。


「どうせ殺すなら、その前にちょっと楽しんでもいいよな?」


「そうだな。

むしろそうしないと勿体ないよな」


ウララは自らの危機を感じて身構えるも丸腰。

そんなウララに容赦なく剣を抜いた2人が迫る。


その間にヒナタが割って入って剣を構えた。

すぐにシンシアとアイビーも続く。


「なんだ?

人間?

こいつら俺達が見えてるのか?」


魔人の一人が言った通り、3人は魔人達を認識していた。


ただシンシアとアイビーは、膨大な魔力に認識するのも拒否したくなるほどの恐怖も感じていた。


そんな中ヒナタは振り向いて瀕死のソルトを見る。

その瞬間ヒナタの目に光が戻った。


「大変だ!」


ヒナタはすぐにソルトの元に駆け寄って魔力を送った。

それによってソルトの命の灯火が若干持ち堪える。


しかし数分引き延ばしたに過ぎない。


「ちょっとヒナタ!

何やってるの!」


「ごめんシンシア、アイビー。

そっちお願い」


「お願いって!

またそんな無茶――」


「わかった」


シンシアは二つ返事で即答して、魔人達を睨み付けた。


「シンシア!?」


「どうせ言ったって無駄。

だからアイビーは――」


「1人で逃げたりしないわよ!」


その姿は二人には恐ろしい物に見えたが、2人は覚悟を決めて魔人達に対峙した。


ウララはこの状況に戸惑っていた。


人間は敵であり血も涙も無い外道である。

そう擦り込まれて来た彼女にとって理解しがたい状況だった。


だから彼女は考えるのを辞めた。

今この瞬間、敵が誰なのか?

直感に従う事にした。


「すいません。

少し剣をお借りします」


ウララはヒナタの腰の剣を抜いた。


「若様をお願いします」


そう言ってシンシアとアイビーの横に並び立つ。


「1対1なら確実に殺せます。

お1人は片方を足止めしてください。

すぐに殺しに行きます」


「おいおい。

人間なんかに加勢するのか?

そいつらは――」


「黙れ!

外道はお前らだ!」


そう言ってウララは1人に斬りかかる。

シンシア達ももう1人に斬りかかった。


「なんで?

なんで傷が塞がらないの?

お兄ちゃんはタマを治してたのに」


ヒナタは闇雲に魔力を流し込む。

しかし傷は一向に塞がらない。


「ヒナタ嬢!

何をしてるんだ!」


遅れて来たハヌルがヒナタの元に駆け寄った。


「この人はもう手遅れだ!」


「でもまだ生きてる。

お兄ちゃんは治してた」


「ダメだ!

そんなに魔力を使ったらヒナタ嬢が持たない!」


「今お兄ちゃんはいないもん!

私がなんとかしないとこの人が死んじゃう!」


ハヌルは自分の頭を掻きむしってからヒナタの正面に周りこんでしゃがんだ。

そしてソルトにかざすヒナタの手の上に手を置く。


「ヒナタ嬢落ち着いて聞いてくれ。

闇雲に魔力を送ってもダメだ。

死ぬのを先延ばしにしてるだけでなんの解決にもならない。

まずは傷を治療するんだ」


そう言ってハヌルはヒナタの手越しに超能力

で出血を塞ぐ。

そこに気力を流し込んでいく。

その気力によって細胞が活性化して傷がくっついていく。


それを内側から順番に施していった。


「俺の力の量だけでは傷を塞ぎ切る事は出来ない。

だからヒナタ嬢。

この一瞬で超能力と気力の使い方を覚えてくれ」


ヒナタはまだ完全には理解出来ていなかったが頷いた。

そして自分の手越しに流れるハヌルの超能力と気力に集中する。


「ぶっつけ本番になるけど、ヒナタ嬢ならきっと出来る。

細かい調整は俺がするから思いっきりやってみてくれ」


ヒナタは深呼吸して拙いながらも超能力と気力を使うことが出来た。

力加減も出来ていないが、ハヌルがそれをサポートする。


1人を殺したウララと交代したシンシアとアイビーが近づいて来た頃にはソルトの傷は治り、呼吸も安定していた。


ヒナタはヘトヘトに疲れ切って、体がフラッと後ろ向き傾いた。


そんなヒナタを倒れる前に包み込んだのは、彼女の大好きな匂いだった。



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