第23話
僕はゆっくりと目的地に向かって歩いて行く。
獲物を追い詰めるようにゆっくりと。
さっき糸を引きちぎった時に糸を通して魔力でマーキングしたから逃す事は無い。
もうすぐヒナタとシンシアの決勝戦が始まる。
だから獲物も職員専用の客席へと向かって行ってる。
でも行かさないよ。
僕はにこやかに獲物を呼び止めた。
「先生こんにちは。
いつも僕の可愛い妹達がお世話になってるね」
「ん?
えーと、ヒカゲ・アークム君だったかな?」
「そうだよ。
先生のおかげで僕の妹達は凄く強くなってたよ。
本当、嫉妬しちゃうぐらい」
「そんな事はないよ。
君だって努力すれば――」
「だからと言って」
僕は真顔になって獲物を見る。
「リリーナを傷付ける奴を許す理由にはならないよ」
「一体なんの――」
「その手首痛むでしょ?」
獲物はすぐに左手首を押さえた。
「これは君がやったって言うのか?」
「ビックリしたでしょ?
思わぬ反撃を受けて。
でもこれで終わりじゃないよジーク」
獲物は左腕を前に出す。
手首から糸が真っ直ぐ伸びて僕の額に突き刺さった。
「圧倒的な才能を持つ者の側にいる者は決して見られる事は無い。
どんなに努力したって一緒。
その差は埋まる所か広がる一方だ。
君だってそうだろ?」
獲物の魔力が僕の中に入ってこようとしている。
なるほどね。
この糸は魔力を脳からの信号に近い物に変換しているんだ。
「先生は君を理解してあげられる。
先生もそうだったから。
その嫉妬も憧れも先生に委ねなさい」
「嫌だね」
僕は右手で糸を引き千切った。
「何故だ?
お前は妹の才能に嫉妬したはずだ。
憧れたはずだ」
「もちろんだとも。
ヒナタもシンシアも僕にとって憧れの存在だからね。
それはもう眩し過ぎるぐらいに。
もちろん嫉妬だってしちゃう」
「ならば何故?」
「だって僕は奪う専門だからね。
この嫉妬も憧れも全部僕の物。
奪わせなんてしない」
僕は逆に糸を通して魔力を流し込む。
「だから僕も君の気持ちが分かるよ。
だって憧れちゃうよね。
嫉妬もしちゃう。
でも恨み言なんて言えやしない」
「辞めろ。
俺の心を覗くな」
「だって正しいのはあっちだから。
なんたって王国の正義と言われている男だ。
絶対的な正義はあっちにあるから」
「辞めろと言っている」
「それを見続ければ見続ける程気付くんだ。
自分は決して正義になれやしないって」
獲物は震えながら後退りする。
だけど、僕は魔力信号で動きを止めた。
「君は偉いよ。
それでも違う道を見つけて、正義の道を歩んでいたんだから」
「黙れ!
お前に何が分かる!
自分自身では到底及ばない。
だから俺は人に教える事に道を見出したんだ!」
「それがリリーナを襲った理由?」
「そうだ!
あの女は俺の教育を拒否して普通クラスに行きやがった!
それなのに俺の教えた生徒達に勝つなんて許せない!
才能のある奴らはそうやって簡単に俺の努力を踏み躙って行く!」
僕は糸に思いっきり魔力を流して燃やした。
「ギャー!」
獲物の左手首に火傷の跡が出来る。
「くだらないね。
人は皆違うんだ。
だから面白いんじゃないか」
「面白いだと?
そんな言葉で片付けられてたまるか!」
「才能のある者も居れば、無い者もいる。
才能が無い者はどんなに努力した所で才能のある者には勝てない。
この世はそう出来てるんだよ」
「ふざけるな!
そんな理不尽な事があってたまるか!」
獲物は手首の痛みに耐えながら僕を睨みつける。
僕はそれを憐れみの目で見下す。
「あるんだよ。
だってこの世は過酷で残酷で理不尽なんだから。
でもね君は一つ勘違いしてるよ」
「勘違いだと……」
「それは才能がある者もそれ相当の努力をしてるって事だ。
だから勝てないんだよ。
差も決して縮まらない。
僕は知ってる。
ヒナタもシンシアもリリーナも途轍も無い努力をして来てるんだ。
それを才能の一言で片付けるなんて僕が許さない」
僕はナイトメアスタイルに変身して、仮面越しに獲物を見据える。
「だから俺は貴様を悪夢に誘う。
貴様のつまらないプライドが俺の大切な者を傷つける前に」
「ま、まさか!
お前はナイトメア!」
僕は獲物に向かってゆくと歩いていく。
獲物は震えながら剣を抜いた。
「テロリスト如きがこの俺に説教だと……
ふざけるのも大概にしろ!」
獲物が前に出てくる。
しかし一歩出た所で止まった。
流石学園一の指南役だ。
気付いたんだ僕の僅かな挙動で。
あと一歩前に出ていたら斬られていた事に。
僕は何食わぬ様子でゆっくり歩き続ける。
それに合わせて獲物はゆっくりと下がっていく。
ギリギリ斬られない間合いをキープしている。
僅かな挙動をも見逃さない気迫が溢れ出ている。
僕は一瞬で間合いを詰めた。
獲物が慌てて出した剣を刀で弾き飛ばす。
「その動きはあの女と一緒!
そうか!あの女に剣を教えたのは貴様だったのか!」
『黙れ』
僕は言霊でふざけた事を言った獲物を黙らせてから刀で心臓を貫いた。
「グッド・ナイト・メア」
僕の魔力によって獲物は跡形も無く蒸発した。
本当に失礼しちゃうよね。
リリーナと僕の剣が一緒だなんて、リリーナに失礼だよ。
だってそんな事ありえないじゃないか。
僕が彼女に憧れる事があっても、彼女が僕に憧れる事なんて何も無い。
悪党が正義に勝る物なんて無いんだ。
だから正義は必ず勝つんだ。
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