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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
10章 悪党は才能と努力で成り立っている
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第21話

ルリはヒカゲが離れて行くのを一瞬たりとも見逃すかと言わんばかりに、姿が完全に見えなくなるまで見つめ続けた。


その間に操られた生徒達が周りに集まっていく。


ルリは名残惜しみながらも生徒達に目をやった。


「慈悲深いマスターに感謝することです。

あなた達が生きられるのは全てマスターのおかげなのですから」


ルリはシルクハットを脱いで投げた。

シルクハットは回転して生徒達の後ろの糸を切り飛んでいく。


ルリの手元に戻ったと同時に全ての生徒が崩れ落ちた。


「超一流の私にかかればこんな物です」


ルリは誰に見せるでも無く優雅に礼をする。

そのルリに向かって生徒達を踏まない様に壁を走ってくる人影があった。


その人影の細剣から繰り出される突きに合わせてルリはステッキを出す。


細剣とステッキの先がぶつかり均衡を保った。


「これは美しき騎士のレイナ様。

またお会い出来て光栄です」


ルリに押し返されたレイナは地面に軽やかに着地する。


「では、またお会いしましょう」


ルリはステッキの先で地面を突いた。


『おやすみなさい』


レイナを強烈な眠気が襲う。

レイナは左手の拳を固めて自らのおでこを殴った。

額から一筋の血が流れるが、眠気は完全に吹き飛んだ。


「あらまあ。

せっかくの美しい顔になんて事を」


ルリの言葉を無視してレイナは連続で突きを繰り出す。


ルリはそれを丁寧にステッキで逸らしていく。


「ナイトメア・ルミナス。

やっぱりあなたたちの仕業だったのね」


「はて?何の事でしょう?」


「惚けるな!

ここにいる生徒達はあなた達が攫ったのでしょ!」


「どうして私達がそんな事をしなければならないのですか?」


「どうしてって……」


ルリの真っ直ぐな質問にレイナは言葉を詰まらせた。


「攫って何の役に立つのですか?

ここにいる者達が何人束になろうとマスターの足元にも及ばないと言うのに」


突然ルリの表情が険しくなる。


「それともマスターがここにいる者達に劣るとでも言うのですか?」


息をするの事すら許されない程の殺気がルリから放たれる。

レイナは命の危機を感じて反射的に飛び退いて距離をとる。


「おっと失礼しました。

私とした事がついやってしまいました」


ふわっとルリから殺気が消える。

しかし、レイナは攻め込むのを躊躇しざるえなくなった。


「では、私は逃げさせて頂きますね」


「待て!」


そう言うがレイナは動けない。

ルリは優雅に礼をして薄れていくように消えていった。



シンシアとの試合に負けたハヌルの控室からガガガと独特な笑い声が聞こえて来ていた。


「ギンジさん。

笑うなんて酷いな〜

俺は負けたんですよ」


「なに。

いい試合だったからいいとしようや。

あの娘はなかなか強いぞ。

前見た時よりも遥かに強くなってる。

互角にやり合うだけでも賞賛に値するぞ。

我が娘達よりも強いかもしれん」


「父ちゃん!

それは無い!

バットウならともかく絶対私の方が強い!」


「父ちゃん!

それは無い!

シチテンならともかく絶対私の方が強い!」


シチテンとバットウが同時に反論したと思ったらお互いに睨み合った。


「私の方がバットウより牙が鋭い!」


「私の方がシチテンより爪が鋭い!」


「「ガウッ」」


お互いの牙と爪を見せ合って威嚇しあっていた。

それを横目にギンジは豪華に笑う。


「ガガガ!

娘達にもいい刺激になった。

決勝戦も楽しみだの」


「俺の応援に来た事忘れてない?」


ハヌルは苦笑いするも、しんみりするよりも良いと思っていた。


そんな和やかな雰囲気の中、ギンジの顔が険しくなる。


「ハヌル王子。

お客さんが沢山来てるみたいだぞ」


「客?」


ギンジの言葉にシチテンとバットウも鼻をクンクンして、その存在を認識した。


「招かれざる客って感じだな」


シチテンとバットウが控室から飛び出す。


「「ガウー!!」」


廊下の両サイドに向かって吼えて威嚇した。

だが、廊下にいた生徒達は無反応。


「我が娘達の威嚇にも全く反応無しか。

目が完全に据わってる。

ハヌル王子。

学園生活は上手く行って無いみたいだな」


「そんなはずは無いつもりなんだけど……」


ハヌルはそう言ってから剣を構える。


「父ちゃん。

こいつら噛み殺していいよね?」


「父ちゃん。

こいつら引き裂いていいよね?」


「当然だ。

刃を向けてくる相手に情けなんていらねー。

狩っちまえ!」


「「そうこなくっちゃ!!」」


シチテンとバットウが飛び出そうとした時、片方の生徒達がバタバタと倒れ始めた。


その生徒達の間をグラハムとダイナが駆け抜けて来た。


「ハヌル王子。

ご無事ですか?」


「グラハム。

状況説明」


「はっ、生徒達は首の後ろに刺さっている魔力の糸によって操られています。

その糸さえ切れば傷付けずに無力化できるかと」


そう報告をしたグラハムとダイナは生徒の後ろに周り込み糸を切っていく。


「ギンジさん」


「あいよ。

行くぞ、シチテン!バットウ!」


「「アイアイサー!」」


ギンジとその娘達もそれにならう。


グラハムは切った糸が戻って行くのを見逃さなかった。


「ダイナ。

私は元を辿る。

ここは任せた」


「わかりました」


「いや、ここは俺達に任せて騎士のお二人は行きな」


ギンジの言葉に2人は頷いて糸を追う。


やがて糸は二手に分かれる。


グラハムとダイナは迷う事無く二手に分かれて糸を追った。

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