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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
10章 悪党は才能と努力で成り立っている
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第18日

学園の警備の為に来ている騎士達は順番に休憩を取っていた。


グラハムも休憩の時間になったが、休む事無く見回りをしていた。


そんなグラハムは学園長と別れたばかりのジークと再会することになった。


「ジーク。

久しぶりだな」


「ああ、グラハム。

そうか、おまえも来てたのか」


二人は堅い握手をして再会を喜んだ。


「いなくなった生徒の行方に関してなんか手掛かりはあったか?」


「すまない。

だが、必ず見つけ出してみせる」


「相変わらずお前は眩しいぐらい真っ直ぐだな」


「そう言うお前は熱血先生だと聞くぞ。

相変わらず熱いんだろ」


「昔ほどの情熱は無くなったよ。

歳かもな」


ジークは力無く笑う。

それをグラハムは鼻で笑った。


「老け込むには早いぞ。

お前の指導が必要な若者はまだまだいる」


「俺の指導はもう古い。

今の子達には合わない。

そんな中手探りで模索していくのがやっとだよ」


「その考え方が既に熱い証拠だ。

ジーク先生の生徒第一号の私が言うのだから間違いない」


「まだそれを言ってるのか?」


「当たり前だ。

学生時代、お前のアドバイスが無かったら私は壁にぶつかったままで、ここまで強くなる事は出来なかった」


「たまたまだ」


「そのたまたまが大事なんだ。

学園卒で騎士団に入団した奴らは揃ってお前の事を恩師だと思っている。

自信を持て。

お前は間違い無く王国の未来を担っている」


「王国の正義に言われると自信が付くな」


「なんなら王国の正義を育てたのは俺だと言ってもいいぞ」


「そんな恐れ多いよ」


二人は雑談に花を咲かせた。


やがてグラハムの休憩時間が少なくなり、再び握手を交わして別れた。



本戦トーナメントは滞りなく始まった。


初戦から普通クラスのリリーナが勝つと言う番狂せがあり会場は大いに沸いた。


ヒナタ、シンシア共に順調に勝ち進み、4戦目はアイビー対ハヌルとなった。


「ハヌル王子。

転入して来たのはヒナタの為ですか?」


入場前、マイビーが真剣な顔でハヌルに尋ねた。


ハヌルは首を横に振って答えた。


「違うよ、俺の為。

俺がヒナタ嬢の側にいたいだけ。

そしてヒナタ嬢に認めて貰える男になる為」


その答えにアイビーはにっこり微笑んだ。


「良かったです。

ヒナタの為とか寝惚けた事言ったら、王子と言えど引っ叩く所でした」


「それは怖い。

第一試験は突破って事でいいかな?」


「そうですね。

では、第二試験といきましょう。

手加減なんてしませんよ」


冗談混じりに言うハヌルに、アイビーも冗談混じりに返して入場口に向かう。


「もちろんさ。

そんな事されたらなんの意味もない」


ハヌルも横に並んで入場口に向かった。


「言っときますけど。

ヒナタの一番になるのは難しいですよ」


「わかってるさ。

それでも目指すよ俺は」


お互い左右に分かれて定位置に着いた。


アイビーはハヌルと改めて対峙して、予想以上に強い事を感じ取った。


なので、小さく息を吐いて気力を練る。

身体強化をしてから剣を構えた。


試合開始の合図と共にアイビーは目にも止まらぬ速さでハヌルとの距離を縮めて、一撃で決めるつもりで叩き込んだ。


その一撃はハヌルの剣によって阻まれる。

お互いの模擬刀が折れるのでは無いかと思う程の重たい音が響く。


力比べは身体強化をしてる分、アイビーの方が勝っていた。

ジリジリとハヌルの剣は押し込まれていく。


「アイビー嬢。

俺も本気を出させて貰うよ」


そう言ったハヌルの体中に気力が巡る。

力関係が一気に逆転し、アイビーがそれに対応する前にハヌルが剣を弾き飛ばした。


ハヌルの剣先がアイビーの喉元で止まる。


「勝者、ハヌル・ホロン」



警備中のダイナは気になってその試合を観ていた。


「負けちゃったか」


そう呟いて、警備に集中する事にした。

そこに休憩中のレイナが現れた。


「アイビーちゃん負けたみたいね」


「そうだな」


「行ってあげなさい」


「でも僕は任務中だ」


「いいから。

そんなの変わってあげるから行って来なさい」


レイナに強く言われてもダイナは煮え切らないでいた。

その理由は目の下のクマだ。


かなりマシになったといえ、まだ深く刻まれている。


「ああ、もう!

焦ったいわね!

ちょっと顔がしなさい」


レイナはそう言って自分の化粧道具を取り出した。


「ちょっと、何を――」


「いいから黙ってじっとしとく!」


レイナは手早く化粧を施し、手鏡を見せる。

ダイナの顔からはすっかりクマがわからなくなっていた。


「これで大丈夫でしょ?

さあ、わかったらさっさと行く!」


「ありがとう」


ダイナは一言お礼を言ってから走り出した。


急いだ甲斐があって、控え室から出て来たアイビーと丁度会うことが出来た。


「ダイナ兄さん!

なんでここに!?」


「惜しかったね」


ダイナの優しい言葉にアイビーは思わず飛び込みそうになった。

だが、ダイナの顔色を見てグッと堪えた。


いくら化粧で隠してもアイビーにはダイナが疲れている事が分かってしまった。


「負けちゃった」


アイビーは気丈にも笑った。

その笑顔でダイナは、こんな時にまで気を使わせている自分の不甲斐無さを思い知った。


「何やってるんだよ僕は」


ダイナはポツリと呟いてからアイビーを抱きしめた。

アイビーは堪えきれずにダイナの肩を顔を埋めて静かに涙を流した。


「頼り無い兄貴分でごめんな」


アイビーは首を横に振る。


「悔しいよな」


アイビーは首を縦に振って頷いた。


「アイビー。

君はもっと強くなれる。

だけど今は泣いていいよ。

頼りない僕の肩でいいならいくらでも貸すから」


アイビーは声を殺して泣いた。

その背後から細い魔力の糸が忍びよる。


その糸がうなじに突き刺さる直前。

ダイナがその糸に気付いて掴んで防ぐ。


糸はすぐに引き戻され千切れた。


ダイナの手に短い糸だけが残る。


ダイナはその糸が何なのかは分からなかった。

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