第12話
王城って初めて入っだけど、案外警備緩いんだね。
結構すんなり入れた。
ハヌルと僕を乗せた馬車なんて素通りだよ。
こんなんで大丈夫なのかなと心配になるね。
「それは俺が乗ってるからだよ。
普通は絶対に止められるし、チェックも入念さ」
「そうだよね。
ビックリしちゃったよ」
つまり王族に変装したら、簡単に正面から入れるわけだ。
覚えとこ。
「おかえりなさいハヌルお兄様。
あら?ヒカゲ君。
こんな所でお会いする思いませんでしたわ」
王城に入るとルナとばったり会った。
「やあ、ルナ。
僕もこんな所で会うなんて思いもしなかったよ」
「ねえヒカゲ君」
「なに?」
「私はこの国の王女ですけど」
「……そうだよ。
もちろん知ってるさ」
「って事は、ここは私の家でもあるのですよ」
「……そうだね。
もちろんそんな事分かってるよ」
「その間は一体なんなのですか?
まさかとは思いますが、私が王女だという事忘れてたのですか?」
「まっさか〜
どこからどう見てもルナは王女じゃないか」
ルナがジト目で僕を睨む。
どうやら僕を疑ってるようだね。
「ルナが王女だって忘れるわけ無いじゃないか。
ただ……」
「ただ?」
「ハヌルと兄妹だと言う事を忘れてたんだよ。
と言うか、未だに信じられないんだ」
ルナの眉がピクリと動いた。
横で何故かオドオドと話を聞いていたハヌルもピクリと動いた。
「ハヌルお兄様」
「なんだい?」
急に呼ばれたハヌルはおずおずと答えた。
「ヒカゲ君をお借りしてもよろしいですか?」
「でも、ヒカゲ君はチャップさん達に用事が――」
「私が案内しますわ」
「えーと……」
「いいですよね?」
「……はい」
弱っ。
ちょっと強めに言われたぐらいで……
でも世の中のお兄ちゃんとは妹に弱い物だからね。
これも仕方ないね。
僕はハヌルに見送られながらルナに腕を引っ張られて連行されてしまった。
◇
僕はあの青髪の幼女に会いに来たんだよね?
なんでルナの部屋に連れて来られたんだ?
全くもって不思議だ。
「ねえルナ」
僕は正面に座っているルナに尋ねる。
「はい、なんでしょうか?」
「僕はチャップ雑芸団に会いに来たんだよ」
「ええ、知っていますよ。
さっきハヌルお兄様から聞きました」
「なら、なんでルナの部屋に連れて来られたの?」
「ごめんなさいね。
私はハヌルお兄様と違って意地悪なんです」
なんか凄く嫌味たらしい言い方だ。
「それは知ってるよ」
ルナの眉がまたピクリと動いた。
「だけど、僕は用事が――」
「ヒカゲ君。
私はハヌルお兄様と違って優しく無いので、私とのお話が終わるまで案内してあげません」
「えー。
なんか怒ってる?」
「いいえ怒っていません」
言葉ではそう言ってるけど、凄く棘のある言葉が僕をチクチク刺して来てるよ。
「やっぱり怒ってるよね?」
「いいえ。
例え怒っていても怒ってるとは言いません。
私はハヌルお兄様と違って素直ではありませんから」
さっきからやたらハヌルと比べてどうかとか言ってるけどなに?
「あー、もしかしてさっき言った事気にしてるの?」
「なんの事ですか?」
「でも、僕は今のルナが好きだよ」
だってみんな一緒だったらつまらないじゃないか。
ルナは性悪だけど、活き活きしてるからいいと思うな。
「え?
い、いえ、別にハヌルお兄様と違って性格が悪い事なんて微塵も気にしてませんよ」
ルナの言葉からさっきの刺々しさが消えた。
「でも、まあ、ヒカゲ君がいいと言ってくれるのでしたら、問題ありませんね」
いや、性格悪いのは問題あると思うけどね。
でも生まれ持った性格ってどうしようも無いからね。
僕が生まれつき悪党なのと一緒さ。
「……本当にリリーナが羨ましい」
「え?何か言った?」
「いえ、なにも。
それよりヒカゲ君。
私が第二夫人に立候補した事を覚えていますか?」
「そういやそんな事言っような気もするね」
「その話は白紙になりました」
「そうなの?
それは良かった」
「喜ぶなんて失礼じゃありません?
そんなに私には女としての魅力はありませんか?
いくら私でも傷付きますよ」
ルナが凄い鋭い目付きで僕を睨んでくる。
「違うって。
僕なんかには勿体無いって意味だよ。
だってルナと僕じゃ全然釣り合わないじゃないか」
「言っときますけど、今やアークム公爵の名を知らない貴族なんていませんよ。
ホロン王国史上初めて男爵から公爵になった人ですからね。
そしてその息子であるヒカゲ君の価値は鰻上りです」
「ポンコツでも」
「ええ、ポンコツでも。
政略結婚に本人の素質なんて関係ありませんから」
言われてみればそうか。
必要なのは繋がりだけだもんね。
僕と政略結婚なんて超可哀想だからやめてあげて欲しい。
「先日ヒナタさんにお会いした時に第二夫人の件は断られてしまいました」
ナイスヒナタ。
ん?なんでヒナタに決定権があるんだ?
「第二夫人はシンシアさんだそうです」
まだ言ってたの?
そんな事したらシンシアが僕に冷たくなるから辞めてあげて。
「だから私は第四夫人にして頂きました」
「なんでやねん」
思わず突っ込んじゃったよ。
ヒナタったら、また勝手に決めて。
いい加減にしないとお兄ちゃん怒っちゃうぞ。
「そうですよね。
まさかもう第三夫人まで決まってるなんて思ってませんでした」
「待て待て。
聞き逃してたけど、僕は第三夫人なんて知らないぞ」
いや、第二までも認めてはいないんだけどね。
「あら?
第三夫人はレイン・ヤマーヌ公爵令嬢みたいですよ」
「そんなの聞いてないぞ」
これは流石に聞き捨てならない。
ヒナタに言って聞かせないと。
お兄ちゃんにはそんな甲斐性は無いんだから可哀想でしょって。
「そうわけですから、よろしくお願いしますね。
未来の旦那様」
「考え直した方がいいよ。
今なら全然間に合う」
「辞めませんよ。
私は次期国王になるつもりです。
アークム公爵は是非とも押さえておきたい。
王位継承権を放棄したとはいえ、ハヌルお兄様がヒナタと結婚するなら尚更です」
「自分を大切にしないといけないよ。
ルナにら政略結婚なんてしなくても大丈夫だよ」
「あら?
私がいくら政略結婚とはいえ、好きでも無い殿方と一緒になるとお思いで?」
「冗談だよね?」
「さあ、どうでしょう?」
ルナは含みのある笑みを見せつけて来る。
流石性悪女だ。
僕じゃ無かったら絶対に自分に気があると勘違いしちゃうね。
怖い怖い。
「では、話も終わったのでチャップ雑芸団の所へ案内しますね」
僕はルナの部屋を後にした。
「そういや、チャップ雑芸団になんの用事ですか?」
「雑芸団にいた青髪の幼女に用事があるんだ」
ルナが不思議そうな顔で僕を見た。
「青髪の幼女ですか?
そんな方いませんよ」
「ルナまで何を言ってるんだい?
いたじゃないか」
「そうでしたか?
とりあえずこの部屋におられます。
ヒカゲ君が尋ねて来る事は先に伝えましたので。
では私はこれで」
ルナはそう言って部屋に戻って行った。
ハヌルもルナも変だよね。
あんなに目立つ色の髪の子を忘れるなんて。
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