第4話
結局僕の登下校は元に戻ったと言えよう。
一カ月と言う短い平和だった。
これからは、またあの嫉妬と妬みに満ち溢れた視線を浴びる事になる。
でも可愛い妹達の為に耐えるよ僕は。
「そうか。
俺はヒナタ嬢とシンシア嬢にそんな気を使わせてしまっていたのか」
僕から話を聞いたハヌルが落胆していた。
「俺とした事が、気遣いが足りなかった。
だが、俺が一緒じゃなくても用心の為に馬車には乗って欲しい。
なんならヒカゲ君も一緒に乗ってくれ」
えー、馬車って窮屈で遅いんだよね。
「2人には後で謝っておくよ。
毎日迎えの馬車は出すから3人で使ってくれ」
「謝っちゃうと逆に気を使わせちゃうと思うよ」
「それもそうか……」
ハヌルの落胆ぶりはなかなかの物だ。
相当ショックだったらしい。
ヒナタもそうだけど、彼は彼でヒナタとの距離の縮め方がわからないのかもしれない。
「それにヒナタはハヌルを避けてる訳でも無いよ。
きっとヒナタはまだ戸惑ってるだけなんだよ。
僕にも慣れるまでって言ってたし。
だからヒナタの言う通り週に3回はいいんじゃない?」
「いや、週一回にしよう。
週中の水曜日だけにするよ。
ヒナタ嬢にもそう伝えてくれ。
ヒナタ嬢が増やしてもいいって言うまで増やすつもりも無いって事も」
「それでいいの?」
「構わないさ。
僕はヒナタ嬢が会いたいと思える人間になってみせるよ」
ハヌルは闘志を燃やしていた。
ハヌルはいい奴だと思う。
それに本当にヒナタの事が好きなんだと。
ヒナタもそれに向き合おうとしている。
お互い不器用だけど。
どうなるかはわからないけど、僕はヒナタが望むようになるように見守るとしよう。
「それにしてもヒカゲ君は良く食べるんだな」
僕と同じ学園の最高級ランチを食べながらハヌルは言う。
内容は一緒だけど、僕は1.5倍の量を食べている。
何故ならリリーナが隣から自分の分の最高級ランチの半分を僕の口に運んでいるからだ。
これは入学当初から続いている。
学園のランチは5段階ぐらいに分かれている。
公爵家のリリーナは当然最高級ランチを頼む。
それは貴族の見栄のような物だ。
公爵家なのにランクの低いランチを頼んでいると、金周りが上手く行っていないのかといらぬ噂が立ってしまうからだ。
そしてリリーナは一緒に食事をしてる僕にも同じ物を食べろと強要して来た。
「そうじゃないと私が搾取してるみたいじゃない」
との事。
で、食べきれないから半分食べろと僕に食べさせている。
そのせいで僕はリリーナに奢らせているヒモ扱いで、毎日男子達からの冷たい視線が突き刺さっている。
ちなみにリリーナが食べきれないってのは嘘だ。
彼女が良く食べるのは知っている。
ただ僕に食べさせるのが楽しいだけ。
きっと支配下に置いてる優越感に浸れるのがいいに決まっている。
「はいダーリン。
あーん」
「あーん」
もうすっかりリリーナの物と自分の物を食べるタイミングもバッチリになるほど慣れてしまっている。
「君達は本当に仲がいいね。
羨ましいよ」
「ええ。
だって私達相思相愛ですから」
「別にそんな事――」
「はいあーん」
「あーん」
僕の言葉はローストビーフと一緒に口に放り込まれた。
僕はすっかり慣れているのに、学園の男子達は一切慣れて無い様子。
毎日毎日衰える事無い殺気が僕に突き刺さっている。
「それにしてもヒカゲ君の嫌われようは異常だね」
ハヌルはそう言いながら苦笑いをしている。
これでもマシになった方なんだけどね。
女子からの視線は随分マイルドになったから。
それが男子からの視線に拍車をかけたとも言える。
「それはダーリンに私みたいな可愛くて美人の婚約者がいるからよ。
みんな妬んでいるのね」
「ここまでになったのはリリーナが煽りに煽った――」
「はいあーん」
「あーん」
しかしいつ食べてもここの学食はとても美味しいな。
◇
この時期は放課後に学園の闘技場が開放されている。
この闘技場開放は毎年人気で、かなりの生徒が利用している。
みんな一勝でも勝ち取ろうと鍛錬している。
僕はどうせ一回戦で負けるから鍛錬なんて必要無い。
なのにリリーナが鍛錬するのに待たされている。
僕なんかじゃ相手にならないからハヌルと一緒に鍛錬してる。
僕はそれを観客席で寝転がって見てる事にした。
2人共かなりの腕の持ち主で、周りとは頭一つ飛び出ている。
「どいつもこいつも主の足元にも及ばないね」
影の中からソラが話しかけて来た。
ってかまだ僕の影の中にいたんだ。
僕の血を飲むまで粘るつもりだな。
いいだろう。
どっちが根負けするか勝負といこう。
「まだまだ彼らは強くなるんだよ」
「私ももっと強くなるよ」
「確かにソラ達もまだまだ強くなれるよ」
「そうだよ。
いつか主ぐらい強くなって、主の血を飲みまくるの」
「僕が干上がっちゃうよ」
「主なら大丈夫」
何をもって大丈夫と言ってるんだ?
実際大丈夫なんだけど。
「あのオッサンが1番マシだね」
ソラが言っているのは、熱心に生徒達を指導しているジーク先生の事だろう。
ジーク先生はこの学園の剣術指南主任だ。
普段は特待生クラスの指南役をしてる人気の先生だ。
この闘技場が放課後人気なのもジーク先生がいるのが大きく要因の一つだ。
剣術の腕はもちろん的確な指導で数多くの優秀な魔法剣士を排出している。
「君はこんな所で寝てていいのかね?」
僕の後ろから偉そうなオッサンが声をかけてきた。
このオッサンは学園長だから実際偉いんだけどね。
「僕はどうせ一回戦負けだからね」
「君はヒカゲ・アークム君だね」
学園長は何か紙を見始めた。
どうやらトーナメント表みたいだ。
「ほほう。
相手が特待生だから諦めているのだな」
「そうとも言うね」
「諦めるのは良くない」
「特待生と当たった生徒はみんな諦めてるよ」
「その諦めが可能性を狭めている。
君達の可能性は無限大だ」
その考えには僕も賛成だね。
人には才能と言う壁が存在する。
それは紛れも無い事実だ。
だけど努力無しに才能は開花しない。
そして才能はいつ開花するかもわからない。
努力しても才能が無ければ意味がない。
だけど努力しないと才能があるかどうかも判断出来ない。
なんてこの世は理不尽なんだろう。
「君は強くなりたく無いのかね?」
「強く?
それはなりたいね」
強くないと僕みたいな悪党は生き残れないからね。
いくら強くなっても正義には勝てないけど。
「そうか。
なら強くなれる方法を教えてあげよう」
なんか凄く怪しい言い方。
高い壺とか買わされそう。
「いや、別にいらない」
「なんと!
何故だ?
強くなりたいのではないのか?」
「なりたい事はなりたいよ。
でも今は早く帰りたい」
丁度リリーナとハヌルが鍛錬を終わらせて着替えに行った。
僕も学園長を置いて帰る支度をしに行くとしよう。
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