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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
10章 悪党は才能と努力で成り立っている
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第3話

全身フローラルの香りに包まれた僕はリビングに戻った。


ヒナタはココアを飲み終えてソファーでゴロゴロしていた。


まるで我が家のように寛いでいる。


「ヒナタお待たせ」


「ふわ〜」


ヒナタが気持ち良さそうに欠伸をした。


めちゃくちゃ可愛い。

僕の脳内のヒナタファイルに永久保存しないと。


「それでヒナタ。

今日はどうしたの?」


「あっ!そうだった!

お兄ちゃん聞いてよ」


「なんだい?

お兄ちゃんなんでも聞いちゃうよ」


「三学期になってから馬車での送り迎えが付いたでしょ?」


「そうだね」


「それでハヌル王子が編入して来てからは、毎日ハヌル王子が王族の馬車で登下校とも送り迎えに来てくれるようになったんだ」


そうなんだ。

王族の馬車って凄く乗り心地がいいらしい。


登校だけで無く、時間の違う下校まで送り迎えするなんてマメな奴だ。


「それでね……」


ヒナタは言葉を詰まらせて黙ってしまった。


「どうしたの?」


「お兄ちゃん、怒らない?」


ヒナタが言いにくそうに僕を見た。


「怒らないよ。

言ってごらん」


僕が怒るわけないじゃないか。


「そのハヌル王子なんだけど……」


僕が優しく言ってのにも関わらずヒナタは凄く言いにくそうにしている。


なるほど。

わかったぞ。


「みなまで言うな。

お兄ちゃんに任せておけ」


「え?」


ヒナタがビックリして僕を見た。


でも何も驚く事は無い。

ヒナタが言いにくいなら言わなくてもいい。お兄ちゃんは全てわかった。


なんたって僕はお兄ちゃんだからね。


「もう大丈夫だよ。

明日からハヌル王子は来ないから。

僕が今から話をつけて来てあげるよ」


あの野郎。

ヒナタに何かしやがったな。


今から消しに行ってやる。

覚悟しとけよ。


「違う違う!

お兄ちゃんストップ!

お兄ちゃん絶対勘違いしてる!」


「大丈夫だよ。

お兄ちゃんは話をつけに行くだけだから」


実際は問答無用でこの世から消してやるけど。


「お兄ちゃん目が怖い!

何する気なの!?

違うの!

違うんだって!」


「相手が王子だから言いにくいのは分かるよ。

だからヒナタは何も言って無い。

全て僕が勝手に話をつけに行くだけだから」


ヒナタが僕の腕を掴んで止めようとしているけど僕は行くよ。


僕の身内に手を出す奴は王子だろうと許さない。


「待ってってお兄ちゃん!

ハヌル王子は何も悪くないの!

むしろ凄くいい人なの!」


「無理しなくていいだよヒナタ。

お兄ちゃんは何があってもヒナタの味方だからね。

任せておけばいいんだよ」


「本当に何も無いんだって!」


「本当に?」


「本当に」


「相手が王子だからって無理してない?」


「してないよ」


ヒナタの顔をじっと見る。


どうやら嘘では無いらしい。

って事はヒナタは何かされた訳ではないのか?


そうか、それならとりあえず安心だ。


「じゃあ何か問題あるの?」


「それがね……」


ヒナタは顔を赤くして小さな声で言った。


「緊張しちゃって毎日は気疲れしちゃうの」


なるほど。

良く考えたら家族以外で男の人とそんなに接する機会が無かったヒナタにとってはプレッシャーなのかもしれない。


しかもヒナタがいい人と言うぐらいだから、ハヌルはとても良くしてくれているのだろう。

それが余計に緊張するのかもね。


「それでね。

お兄ちゃんにお願いがあるんだ」


「なに?

なんでも言ってごらん」


「週に3回。

いや2回でいいの。

私が慣れるまでお兄ちゃんと登校したいの」


「でも遠回りになるからダメって言われてるよ」


「だからお兄ちゃんが迎えに来て欲しいの」


なんと、そう来たか。

それは高難易度ミッションだ。


登校時間にこんな可愛い妹を迎えに行くなんて周りの視線が痛いに決まっている。


「ダメかな?」


「ダメなわけないよ。

火曜と木曜は迎えに行くね」


「本当に!?

ありがとうお兄ちゃん!」


ヒナタの笑顔が弾けて僕に抱き付いた。


そんな縋るようにお願いされたら断れるわけ無いじゃないか。


周りの視線がなんだ。

悪党の僕にとって視線が痛いのは日常じゃないか。


それより僕臭くないよね?

めっちゃヒナタに抱きつかれてるけど大丈夫だよね?



もう暗いのでヒナタを寮まで送って行った。


終始ニコニコだったヒナタが部屋に入るまで見届けてから僕は帰る。

そのはずだった。


「ヒカゲ。

丁度いいところにいた。

ちょっと来て」


「ぐへっ」


シンシアに後ろ襟を引っ張られて部屋に引きずり込まれた。


「ちょっと相談があるの。

どうせ暇でしょ?」


「わかったから放して、首が締まって苦しい」 


「あっ!ごめん」


シンシアは素直に放してくれた。


僕は襟を整えて、リビングにお邪魔した。


僕が席に着くとシンシアがブドウジュースを出してくれてから向かいに座る。


「相談って?」


「三学期になってから馬車での送り迎えが付いたでしょ?」


「そうだね」


あれ?

この話さっきと流れ一緒だぞ。


「それでハヌル王子が編入して来てからは、毎日ハヌル王子が王族の馬車で登下校とも送り迎えに来てくれるようになってるんだけど……」


シンシアがさっきのヒナタみたいに言いにくそうにしている。


そうか。

なるほど、そう言う事だったんだ。


「みなまで言うな。

僕に任せておけ」


「え?」


シンシアがビックリして僕を見た。


でも何も驚く事は無い。

シンシアが言いにくいなら言わなくてもいい。

僕は全てわかった。


なんたって僕はお兄ちゃんだからね。


「もう大丈夫だよ。

明日からハヌル王子は来ないから。

僕が今から話をつけて来てあげるよ」


あの野郎。

シンシアに何かしやがったな。


ヒナタも本当はそう言いたかったに違いない。


今から消しに行ってやる。

覚悟しとけよ。


「待ってヒカゲ!

凄く怖い目してる!

絶対なんか勘違いしてるって!」


「相手が王子だから言いにくいのは分かるよ。

だからシンシアは何も言って無い。

全て僕が勝手に話をつけに行くだけだから」


シンシアが僕の腕を掴んで止めようとしているけど僕は行くよ。


僕の身内に手を出す奴は王子だろうと許さない。


「待ちなさいヒカゲ!

ハヌル王子は何も悪くない!

むしろ凄くいい人だって!」


「無理しなくていいだよシンシア。

僕は何があってもシンシアの味方だからね。

任せておけばいいんだよ」


「いいから待てって言ってるでしょうが!」


シンシアの蹴りが僕の脇腹に直撃した。


「痛いな〜」


「あんたが話を聞かないからでしょうが!」


「だってあいつがシンシアになんかしたんだろ?」


「何もされてないわよ!」


「本当に?」


「本当に」


「相手が王子だからって無理してない?」


「してないわよ」


シンシアの顔をじっと見る。


どうやら嘘では無いらしい。

って事はシンシアは何かされた訳ではないのか?


そうか、それならとりあえず安心だ。


「じゃあ何か問題あるの?」


「ヒナタとハヌル王子は婚約してるでしょ?

その2人と一緒の馬車に乗ってると、気まずいと言うか……

なんかお邪魔虫みたいで居づらいのよ」


「エルザもいるんじゃないの?」


「エルザ先生は護衛だから馬車の外にいるの」


確かにあの2人はなんだかんだで上手くやってみたいだから気まずいかもしれないな。


「でも今度から火曜と木曜は僕が迎えに来て一緒に登校するから大丈夫だよ」


「そうなの?

ヒカゲって本当にヒナタに甘いわよね」


「なんたって僕はお兄ちゃんだからね」


僕がそう言うとシンシアは何か考え始めた。


ふと思った。

ヒナタと約束したけどシンシアには何の相談も無く決めてしまった。


どうしよう?

もしシンシアに僕と登校する方が嫌だって言われたら……

僕立ち直れないよ。


この沈黙が辛い。

心臓の鼓動が早くなってる気がする。


「ねえヒカゲ」


「な、なに?」


「私もヒカゲの妹よね?」


「え?そりゃもちろん」


「なら私のお願いも聞いてくれる?」


「なに?

なんでも言ってごらん」


シンシアは顔を赤くして小声で言った。


「残りの三日間も私を迎えに来て2人で登校して欲しい」


なんと。

そう来たか。


でも可愛い妹の為だ。

何日だって痛い視線に耐えてみせるよ。


「もちろんOKだよ」


シンシアの顔がパッと明るくなった。


なんか凄く尊くて可愛い。


きっと僕と気まずさを天秤にかけて、ギリギリ僕が勝ったんだ。


良かったよ。

負けてたら僕は寝込んでたね。


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