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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
章間 悪党は可愛くニャーと鳴く
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sideヒナタ 後編

私は8歳の誕生日を迎えた。


もちろんお兄ちゃんも一緒。


二人の誕生日パーティーが屋敷内で開かれた。


お父さんもお母さんも気合い入れて用意したものだから、とても盛大なパーティーとなっていた。


お兄ちゃんは例年通りパーティーが始まるとすぐに姿を暗ませた。


毎年の事だけど正直寂しい。


だけどお兄ちゃんは毎年パーティーの後に、手作りのケーキを持って私の部屋に来て二人のお祝いをしてくれる。


こんな盛大なパーティーも嬉しいけど、それが毎年の一番の楽しみ。


お兄ちゃんの手作りケーキは超美味しい。


パーティーを楽しんだ私は自分の部屋で待っていた。


そろそろお兄ちゃんが来る頃のはず。


「ヒナタ起きてる?」


キタ!!


「うん、起きてるよ!」


私は扉を開けてお兄ちゃんを迎え入れる。


お兄ちゃんの持ってるお盆の上にはケーキが3つあった。


あれ?3つ?


私の疑問はすぐに無くなった。

お兄ちゃんの足元からタマが入って来た。


「タマもお祝いしてくれるの!」


タマはケーキ食べに来ただけと言わんばかりにニャーと鳴いた。

きっと照れ隠しだね。


私はテーブルを用意してささやかだけど、楽しいお祝いが始まった。

やっぱりお兄ちゃんのケーキはとても美味しい。


「お兄ちゃん。

タマってケーキ食べていいの?」


「ネコが食べてもいい様に作ったから大丈夫」


タマは一口食べてニャーっと鳴いた。

きっと美味しいって言ってるんだ。


やっぱりお兄ちゃんは凄い。

なんでも出来るし、なんでも知ってる。

なのになんで出来ないふりしてるのだろう?


剣術だってそう。


お兄ちゃんは私に合わせてくれてる気がする。

だから私が強くなればお兄ちゃんもきっと本気を出してくれる。


「ヒナタ誕生日おめでとう」


「お兄ちゃんもおめでとう」


お兄ちゃんは微妙な笑顔を見せる。

これも毎年の事。


お兄ちゃんは私の誕生日は祝ってくれるけど、自分の誕生日は嬉しく無いみたい。


だから私は私の出来る最高の笑顔でお兄ちゃんの分もお祝いするって決めてる。


タマが前足で私の手をトントンとしてきた。


「どうしたの?」


「ニャー」


「なにそれ!

超可愛い!!」


タマの超可愛いポーズ付きの鳴き声に、私は思わず大声出しちゃった。


「きっとタマからの誕生日プレゼントだよ」


お兄ちゃんがそう言うと、タマは恥ずかしいのを隠す様にケーキに顔を埋ずめた。


その姿も凄く愛らしい。

タマ大好き。


そんな楽しい夜はあっという間に過ぎて行った。



それからちょうど10日経った朝。


私はいつもの様にお散歩の準備をして外に出た。


いつもタマと待ち合わせしてる所。

そこにはタマの姿は無かった。


いつもまだかまだかと待っているのに。

寝坊かな?


私はタマの寝ている部屋を覗いてみた。


「タマ?

寝てるの?」


タマはいつも通り丸くなって寝ていた。


「タマはお寝坊さんだね」


私は起こさない様にゆっくりと近づいていって側に座った。


凄く穏やかな表情で寝ている。


私は撫でようとそっとタマに触れた。


「え?」


いつもポカポカ暖かいタマが冷たかった。

いつも感じる鼓動も感じない。


「なんで?

どうしちゃったのタマ?」


揺らしてみても全くタマは反応しない。


「タマってば!

起きてよタマ!」


少し強く揺らしてもやっぱり反応しない。

全く起きる気配が無い。


「ヒナタ。

タマは死んだよ」


後ろからお兄ちゃんの無情な言葉が聞こえた。

だけどお兄ちゃんの声は何処か優しくて暖かい。


「どうして?

昨日まであんなに元気だったのに」


私は振り向いてお兄ちゃんに聞いた。

お兄ちゃんは凄く優しい顔で諭す様に言った。


「寿命だっただよ」


「嫌だ!

そんなの嫌だ!

今日も一緒に散歩して、ご飯食べて、剣術の稽古の時は横に居て――」


「ヒナタ」


お兄ちゃんは私の言葉を優しく遮った。

その瞬間、私の感情はこの事実を受け入れた。

両目から決壊した様にの涙が溢れ出て来た。


私は堪え切れずにお兄ちゃんの胸に飛び込んで大声で泣いた。


「嫌だよ。

もっと一緒に居たいよ」


「ヒナタ。

タマは少し前から限界だったんだ。

だけどヒナタのお誕生日をお祝いしたいから頑張ったんだよ。

ほら、タマの顔を見てごらん」


私はお兄ちゃんの言われるままにタマの顔を見た。


「安らかな顔で眠ってるだろ。

ヒナタが沢山可愛がってあげたからだよ。

もうゆっくり寝かせてあげよう」


「うん。

お兄ちゃん、タマのお墓作るの手伝ってくれる?」


「いいよ」


私は庭のお日様が良く当たる所にタマのお墓を作った。

作ってる途中も涙が出て来て、手が止まる事がいっぱいあったけど、お兄ちゃんは急かす事無く手伝ってくれた。


お墓の前で手を合わせると、タマとはもう会えない実感が込み上げて来た。


「ヒナタ。

タマから伝えて欲しいって言われた事があるんだ」


「なに?」


「長い事生きて来た中に比べればヒナタと過ごした日々は短かった。

でも、間違い無くこの期間が一番幸せだった。

最後に幸せな時間をありがとうって」


私の目から涙がボロボロ溢れ落ちて来て止められない。


「なにそれ?

お兄ちゃんネコ語がわかるの?」


「お兄ちゃんはタマとお話出来たんだよ」


お兄ちゃんは冗談っぽく言った。

きっと私を慰めようとしてくれてるんだ。


「嘘だー」


「嘘じゃないよ。

僕がヒナタに嘘吐いた事無いでしょ?」


「いっぱいあるよ」


「……そうだっけ?」


「嘘吐いた事が無いってのが嘘だよ」


「……でも今のは嘘じゃないよ」


「うんそうだね。

お兄ちゃんならネコとおしゃべりしても不思議じゃないね」


本当にお兄ちゃんの言う通り、タマが幸せだったら嬉しいな。


どうしよう。

また涙が出て来た。


「ヒナタ。

こっち見て」


私はお兄ちゃん言われてお兄ちゃんの方を向いた。


「ニャー」


お兄ちゃんが可愛いポーズをしてネコの鳴き真似をした。

誕生日にタマがしてくれたポーズだ。


「なにそれ?」


私は突然の事に涙が止まりポカーンとしてしまった。


「え?あれ?

なにか違う?

おかしいな、完コピしたはずなのに。

あっ、ちゃんとタマには許可とってるよ。

これからは僕が使っていいって」


珍しく慌てているお兄ちゃんに私は思わず吹き出してしまった。


「フフッ!

お兄ちゃんおっかしい〜

大丈夫だよ。

完璧に再現出来てるよ。

可愛さまで完璧。

私もやっていい?」


「いいよ」


「ニャー」


「ヒナタの方が百倍可愛いね」


なんだか元気出て来た。

タマはもう居なくなっちゃったけど、タマが私に残してくれた物は確かにある。


すぐには悲しみは消えないかもしれない。

それでもあの日タマを飼うって言った事を後悔なんてしない。


だってそれ以上に楽しい思い出がいっぱいあるから。

短い間だったけど、大切な思い出。


タマ。

私もタマと一緒にいられて幸せだったよ。



「それからね。

お兄ちゃんは私が何か辛い事があると可愛いネコのポーズしてくれるんだ。

お兄ちゃん優しいでしょ」


「そうですね。

ヒカゲ君は優しいですね」


私の話を聞いたアンヌお姉ちゃんが優しく言ってくれた。


「いや、確かにヒカゲは優しいと思うけど……

最近はあのネコのポーズを誤魔化す為にしか使ってなくない?」


「そんな事は……」


シンシアに言われて考えてみると、確かにその方が多いような気がしなくもないや。


それがお兄ちゃんらしいと言ったらお兄ちゃんらしい。


「でも、可愛いからいいじゃん。

あっ!着いた!」


私は馬車を飛び降りてお兄ちゃんの部屋の前で大きく息を吸った。


「お兄ちゃーん!

遊びに来たよー!」

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