第18話
翌朝トレインはぐったりしていた。
辻斬り事件に続き邪竜の出現。
どちらの事件も放っておく事が出来ず、なし崩し的に調査に協力する事となった。
「はあ〜、俺休暇中なんだけどな。
申請したら時間外手当貰えるのかな?」
トレインはため息混じりの独り言を漏らしながら、邪竜が落ちて陥没した地面を見下ろした。
「これ全部邪竜の落ちた跡?」
「はい、そのようです」
トレインの疑問に先に調査に来ていた騎士が答えた。
そのあまりの大きさにトレインは圧倒された。
「昨晩の地響きの原因はこれで間違い無いみたいだな。
それで、肝心の邪竜はいずこに?」
「さあ……
影も形もないですね……」
「またややこしい事件だな〜
おかしいな。
俺は日頃真面目に働いてるのにな」
「誰かに呪われてるんじゃないですか?」
「そんな心当たりは……
いるわ。
碌でも無い少年が」
「え?男ですか?
てっきり女かと」
「なんで?」
トレイン第三部隊長と言ったら女好きの女だらしで有名ですから」
「なまじ嘘じゃないから怒り辛いわ!」
そんな会話をしている所に一人の騎士が駆け寄って来た。
「トレイン第三部隊長。
自らを変人だと言う変な人がお会いしたいと来ております」
「君ね〜
ヘンジンってのはれっきとした名前だよ」
「はあ……変わった名前ですね」
ここの騎士達は思った事を言わないと気が済まないのか?
とトレインは思いつつ、ヘンジンの元へと向かった。
「トレイン殿。
昨日ぶりですな」
「ええ。
それでご用件はなんでしょう」
「実は辻斬りの正体が分かりました」
「なんだって!
本気ですか!?」
「はい。
辻斬りの正体は剣聖ザンキ。
剣聖エルザ殿が間違い無いと」
「どおりで勝てる気がしない訳だ」
トレインは更にぐったりして来るのを感じた。
「それで、ヘンジン殿はどうするおつもりで?」
「相手が剣聖ザンキとなるとワイには生捕りは無理だ」
「そんなの俺にも無理ですよ」
「となると抹殺しかあるまい」
「それすら俺には難しいですけどね」
トレインは大きなため息を吐く。
「これは本格的に応援呼ぶしか無いな」
そう呟いたトレインに騎士が駆け寄ってくる。
「トレイン第三部隊長。
剣聖ザンキ様がお話があるとお見えです」
その言葉にトレインとヘンジンに緊張が走った。
「トレイン殿。
ワイも一緒に行きましょうか?」
「そうして貰いたいのは山々なんですが……
流石に他国の騎士を同席させる訳にはいきませんので。
何かあれば加勢頂きたい」
「わかりました。
では骨は拾って差し上げましょう」
「出来れば骨になる前に助けて頂きたい」
精一杯の軽口を叩いてトレインはザンキの元へ向かった。
◇
トレインが顔を見せるとザンキとカザキリは深く頭を下げた。
その姿にもトレインは警戒を崩さない。
「ザンキ様。
ご用件は?」
「自首しに来ました」
「自首?」
トレインは予想だにしない展開の速さに目眩を覚えた。
「自首と言うのは辻斬りの件でいいのか?」
「ほう。
流石王国騎士団ですな。
もう儂が辻斬りだとわかっていましたか」
「ええ、まあね。
とりあえず、武器を預からせて頂きます。
あと監視付きで騎士団支部に拘束させて頂きます」
「わかりました」
「そちらの付き人は?」
「共犯だ」
「なら一緒に拘束させて頂きます」
「わかりました」
とりあえずは辻斬り事件は解決に向かったと、トレインは安堵した。
「次は邪竜の件か」
トレインが思わず漏らした独り言にザンキが言った。
「邪竜はもういませんぞ」
「は?」
マジで?」
「そもそもあの竜は邪竜ではござらん」
「と言うと?」
「あの竜は儂と一緒に世界の脅威をこの地から追い払ってくた」
「世界の脅威?
何だそれは?」
「ナイトメア」
「ナイトメア!?
それってあのナイトメアか!?」
「そのナイトメアだ」
「なんでこんな所にいるんだ?」
「さあな。
それはわからん。
しかし、どうせ良からぬ事を考えていたのではないか?」
「ちょっと待ってくれ。
つまりあれか?
あの竜は邪竜どころか、この町を救った救世主だと言うのか?」
トレインの脳内でパニックが加速していく。
もう考えるのが嫌になって発狂した。
「もう勘弁してくれよ!
情報が多過ぎるんだよ!
もう俺一人の手に負えないぞ!
俺は頭良く無いんだぞ!
こんなのどうやって報告すりゃあいいんだよ!
俺休暇中なんだぞ!
休ませてくれよ!」
「落ち着くんだトレイン殿」
「うるせぇ!
元はと言えばお前が辻斬りなんかするからだろうが!」
「そう言われると弁解の余地は無いのだが……」
「そもそもなんで辻斬りなんてやったんだよ!」
「それは――」
「待て!
やっぱ話すな!
これ以上新しい情報が増えてたまるか!」
トレインは慌ててザンキが話のを阻止した。
「そこら辺の詳しい事は王都で聞く。
騎士団本部で俺より賢い奴に任せる。
とにかくお前は王都に連行するからな。
大人しくしとけよ」
トレインは二人の連行の為の準備にとりかかる為に離れようとした。
「トレイン殿」
そのトレインをザンキが引き留めた。
トレインは嫌々そうに振り向く。
「なんだよ!」
「儂が切り落としてしまった右手は大丈夫か?」
トレインはその言葉に冷静を取り戻して、ザンキに右手をヒラヒラして見せる。
「この通り問題ないですよ。
では、大人しくしといてくださいよ」
そう言ってトレインは離れて行った。
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