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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
9章 悪党は自分勝手で残酷である
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第13話

まだ日が落ちる前の夕方。


エルザはエルフの里に行くものの、何の手掛かりも手に入らずに町に戻って来ていた。


それもそのはず。

元シヨルグのエルフ達は一人も残っていなかったのだから。


エルザはかなり落胆していた。


シヨルグの里のエルフの事は嫌いだ。

それでも、あんな残酷な死に方を見たら心が痛んだ。


それに、10年近くかけてやっと手に入れた手掛かりだった。


昔も違って露骨ではなくなったが、古いしきたりを無視して作られたルカルガの里はまだエルフ社会には受け入れられていない。


だからエルザもなかなか情報が手に入らないでいた。

その中でやっと手に入れた手掛かりだけに、落胆も大きかった。


エルザは今からアンヌと合流するのに、心配かけてはいけないと頭を切り替える事にした。


「お疲れ様でした。

どうでしたか?」


ホテルのロビーで待っていたアンヌがエルザに声をかけた。


「ああ、なんとかなりそうだよ」


エルザは空元気で答えたが、アンヌはじっとエルザの顔を見てから言った。


「エルザ。

嘘はいけませんよ。

ダメだったって顔に書いてあります」


「全くアンヌには敵わないな。

その通りさ。

全く手掛かり無し。

振り出しに戻ったって所かな」


エルザはため息を吐いて白状した。

でも全員殺されていた事だけは言うまいと心に決めた。


「また次がきっとあります。

私も色々聞いて周りますから諦めずに頑張りましょう」


「そうだね。

それでアンヌは何か創作活動に役に立ちそうな物はあったかい?」


「それがヒカゲ君に、危ないから一人で出歩いてはいけないと言われました」


「危ない?

別にこの町はそんなに治安は悪く無いだろ?」


朝早く出発したエルザは辻斬りの存在を知らなかった為、ここで初めてアンヌから話を聞いた。


「それはヒカゲ君が正しいよ。

ごめん。

私が一緒にいてあげるべきだった」


「いいえ。

いいのですよ。

元々ここにはエルザの用事で来た訳ですから」


その時、外から大きな悲鳴が聞こえた。


「すまないアンヌ。

何かあったみたいだ。

夕食はここで取って、大人しくしていてくれ」


「エルザ!」


走り出そうとしたエルザをアンヌが呼び止めた。


「ちゃんと無事に帰って来てくださいね。

危ない事したらめっ!ですよ」


どう考えても危ない所に向かおうとしてるのにと思ったが、エルザは頷いてからホテルを飛び出した。



鬼人の青年と竜は長き年月を一緒に過ごした。

移り変わる世界を楽しんでいた。


しかし、どんな者にも老いはやって来る。


青年は長い年月にやってゆっくりと老いていっていた。


青年、いや元青年はそれすらも楽しんでいた。


だが、気が付かなかった。


破壊衝動の心を完全に封印出来ていなかった事を。


それはジワジワと元青年を蝕んで行っていた。


若い時は何の問題も無かった。

しかし老いによって少しずつ抵抗力が低下して行っていた。


気が付いた時にはもう遅かった。


抑えきれない程の衝動と戦う日々がまたやって来た。


そしてそれによって、己自身の破壊衝動も湧き上がって来た。


始めはまだ物を斬ることで和らげる事が出来た。

だがそれも少しの間だけ。


竜も自らを鎧に変えて一緒に抗った。


でもダメだった。


元青年と竜は完全な人斬りとなった。


唯一残された良心によって辛うじて悪党だけを斬るまでに踏み止まる。


そして今日も人を斬った。



悲鳴を聞きつけて駆け付けたトレインは再び漆黒の鎧と対峙した。


漆黒の鎧の近くには数人の真っ二つにされた死体があった。


「王都騎士団所属、第三部隊長トレイン・バーストだ。

名を名乗れ、目的はなんだ?

答えろ」


トレインの問い掛けに答えは返ってこない。


漆黒の鎧はただただ息を荒げながら、時折呻き声を発するだけ。


トレインは右手の感覚を確認してから片手で大剣を構えた。


「やっぱり勝てる気しねぇや」


漆黒の鎧が纏う強者の雰囲気にトレインは圧倒的な実力の差を感じずにはいられない。


そんな弱気な事言いながらも前に出た。


案の定トレインの大剣は漆黒の鎧の剣に軽く受け止められた。


そしてトレインは大剣は押し返されて、ガラ空きになった体に強烈な蹴りが入った。


蹴りに合わせて後ろに飛んだにも関わらず、トレインの体は吹き飛んで地面を転がる。


それでもすぐに体制を整えて次の攻撃に備えた。

だが、漆黒の鎧は動いていなかった。


「ヘンジン殿の推測通り、本当に悪人しか斬らないつもりか?」


トレインはヘンジンの推測かあながち間違って無い気がした。


でも剣を構えるのを辞めない。


むしろヘンジンの推測が間違っていないのなら、ここで止めなければならない。


無差別に人を斬る殺人鬼になる前に。


トレインは深く息を吐いて集中力を高めた。

今度は慎重にゆっくりと距離を詰める。


「グルゥゥゥゥゥゥゥゥ」


漆黒の鎧は威嚇するように唸り声をあげる。

それ以上近づくなと言ってる様にも聞こえた。


それでもトレインは怯まず距離を縮める。

その瞬間漆黒の鎧が揺らいだ。

と思った時には二人の距離は無くなっていた。


反射的にトレインが切り掛かる。

その剣は漆黒の剣によって、なんの抵抗も無く逸れた。

その流れでトレインの首目掛けて真っ直ぐに漆黒の鎧の剣が迫る。


その剣が紙一重で止まった。


「グガァー!!」


雄叫びを上げた漆黒の鎧がトレインの胸ぐらを掴んで真下に叩き付けた。


地面が割れてトレインの体が沈む。


漆黒の鎧が剣を振りかぶって止まった所に駆け付けたエルザが切り込んだ。


エルザの剣と漆黒の鎧の剣がぶつかる。


お互いの魔力が弾けて2人は後方に跳んだ。


「この魔力は……」


エルザの魔眼が混じり合った2つの魔力を捉える。


そこに他の騎士達が集まってくる。

それを見た漆黒の鎧は走って逃げ出した。


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