第9話
ナイトメアとエルザがぶつかっている頃。
町では半グレの数人が徘徊していた。
「アニキ。
あそこの店が狙い目です。
明日里に帰るらしいので売上金がたんまりあるはず。
それに丁度売りごろの幼いエルフもいます」
「でかしたぞ。
じゃあ早速行くか」
半グレ達は顔を目出し帽を被って店へと足を向ける。
彼らは人間至上主義者で、前々からエルフの店を狙っていた。
いざ押し入ろうとした半グレ達に話かける男がいた。
「非番でせっかくいい気分で女の子引っ掛けてたのにな。
そんないかにもの格好されたらほっとけないじゃねぇか」
「なんだお前は?」
「王国騎士団第三部隊長トレイン・バースト。
非番だけどね。
今ならまだ見逃してやれるから帰りな」
トレインの出身はここら辺で、里帰りしていた。
そして今はナンパに成功した女の子達と楽しく飲んで来た帰りだ。
「兄貴!
王国騎士団はマズイですよ!」
「逃げましょう!」
「待てお前ら。
あんな酔っ払い1人にビビる事は無い。
部隊長だかなんだか知らないがやっちまえ!」
半グレ達は一斉に剣を抜く。
トレインは拳を握り半身下げて構えた。
「ああ、そうなっちゃうのね。
もう若気の至りでは済まされないぞ」
トレインは非番の為、剣を持っていなかった。
だが半グレ達の制圧ぐらい楽に出来ると踏んでいた。
「グルゥゥゥゥゥゥゥゥ」
突然低い唸り声が両者の耳を振動させた。
全員が声のする屋根の上を見上げた。
そこには顔まで全身漆黒の鎧に包まれ、燃える様な赤い髪の人物が息荒げに見下ろしていた。
その額からは二本の角が生えているが、それが鎧の装飾なのかは分からない。
「なんだあいつ?」
半グレのリーダーがそう声を漏らしたと同時に鎧の背中から翼が生えた。
そしてそのまま滑空して半グレ達の近くに降りたった。
その手にはいつの間にか剣が握られていて、半グレ達の内3人の上半身とおさらばした下半身から血飛沫が上がった。
残された半グレはもちろん、トレインにも何が起きたか見えなかった。
「ひぃ〜!」
残された3人の半グレ達が逃げ出す。
しかし3歩も進まぬ内に2人は同じ運命を辿った。
最後の1人がトレインの背中に隠れた。
「あんた王国騎士なんだろ!
国民を守るのが仕事だろ!
なら俺を守れよ!」
自分勝手な奴だとか思う余裕すらトレインには無かった。
それだけ漆黒の鎧から発せられるプレッシャーは尋常じゃないほど強かった。
「グルゥゥゥゥゥゥゥゥ」
獣のような低い唸り声を上げながら鎧はトレインに向かって一歩づつ近づいてくる。
「うわー!!!」
半グレがトレインの背中を押して逃げ出した。
トレインはバランスを崩したまま漆黒の鎧に突っ込んだ。
そんなトレインを漆黒の鎧は無視して半グレの方へと飛んだ。
「待て!」
トレインは咄嗟に捕まえようと右手を伸ばすが、高速で飛ぶ漆黒の鎧の翼に当たり手首から先が吹き飛んだ。
「ッ!!」
あまりの痛みに言葉にならない声をあげる。
急いで左手で強く握って出血を抑えようとした。
その隙に全ての半グレが同じ運命を辿った。
痛みで顔を歪ませながらもトレインを漆黒の鎧の背中を睨む。
ゆっくりと漆黒の鎧が振り向いた。
「これはマズイぞ。
まだ俺は女の子と遊び足りないって言うのにな」
トレインが軽口を叩いて気を紛らす。
そんなトレインの血の流れ続ける傷口を見た漆黒の鎧の息が更に荒くなっていく。
もはや過呼吸ではないかと思う程、息が荒くなり背中の翼が消えた。
「グガー!!」
そう雄叫びをあげてから漆黒の鎧は走り去る。
そのスピードも速く、とても今のトレインに追えるレベルでは無かった。
◇
漆黒の鎧は町は外れを猛烈なスピードで駆け抜けて行く。
その先にアンヌが佇んでいた。
漆黒の鎧はそのままのスピードで突っ込んでアンヌ目掛けて剣を振り下ろす。
しかし慣性の法則を無視したかの様にピタリと直前で止まった。
「それが君達の最後の良心なんだね」
いつもの口調と違うアンヌが愛おしそうに漆黒の鎧を見つめた。
「辛いよね。
生きにくい世の中だよね。
それなのに君達は良く耐えている。
でもそれも限界なんだよね?」
漆黒の鎧は息を荒げたまま何も答えない。
ただアンヌの言葉を聞いているだけだ。
「ごめんね。
名前ばかり立派で何もしてやれない女神で。
でも君達が過酷な運命に耐えきれなくなって、ただただ命を奪うだけの存在になっても私は許すよ」
アンヌは優しい微笑みを漆黒の鎧に向けた。
漆黒の鎧は少し息の荒さがマシになっていく。
「本当は殺してあげた方が楽になるんだろうけど、私はどんな存在になろうと君達には生きていて欲しい。
わかっているよ。
これは私の残酷なわがまま。
でももっと残酷なわがままを言わせて欲しい。
願わくばもう少し、もう少しだけでいいからその良心を失わないで欲しい。
もうすぐで彼が君達の前に立ちはだかるから。
彼なら君達の運命に終止符を打ってくれるから」
漆黒の鎧はアンヌの横を通り過ぎて走り去って行った。
残されたアンヌは夜空を見上げた。
「ままならないね。
なんで私が女神なんだろうね?
それからして間違ってる。
君もそう思うだろロビン。
はあ〜
隣にいてすぐに答えてくれない君が恋しくて恋しくて、恨めしさまで感じてしまうよ」
アンヌは目を少しの時間ギュッと瞑ってから前を向いた。
「おっと、あまり浸ってもいられないね。
夜更かしが過ぎるとこの子の身体に良くないな」
アンヌは1人宿に向かって帰って行った。
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