第8話
カナリアはやっぱり優秀で出来る子だ。
ワイバーン君の背中では相変わらず震えていたけど、それはそれで可愛いから問題ない。
エルフの里に乗り込むと、あっという間にリストのエルフを捕まえて集めて来た。
そのまま手足を拘束されて動けないエルフ達に質問タイム。
「こんばんは。
こんな夜中にごめんね。
でもボスの用事より優先する事なんてこの世に無いから仕方ないよね」
笑顔で話すカナリアに文句を言う者はいない。
なんたってカナリアの後ろで巨大なワイバーン君が睨みを効かせてるから。
「みんな注目!
このリストが見えるかな?
ここに書いて無い元シヨルグのエルフがいたら教えて欲しいな。
教えてくれた人にはなんと一人に付き1ポイント。
10ポイント集めた先着三名はワイバーン君のご飯にならなくて済みます。
でも嘘だった場合、その場でワイバーン君のご飯になります。
僕は嘘を見破るの得意だから気をつけてね」
「ちょっと待ってくれ」
一人の男が声をあげた。
「なに?」
話してるのを止められたカナリアが機嫌の悪そうな声で返事をする。
「この子はここに来てから産まれたんだ。
シヨルグの事なんて何も知らない」
この子って言うのは横にいる子の事かな?
確かにあの幼さならまだ産まれて無いかもね。
「ふーん。
なるほどね。
それは考えて無かったよ。
でも、君は子供に生まれ故郷の事話してない?
君の番は?
ここにいる誰も話して無いって言い切れる?
無理だよね?
ならアウトー」
カナリアの無慈悲な言葉に男の顔に絶望が浮かぶ。
他からはちらほらリストに無い名前が出てくる。
だけど数はあまり出ない。
どうやらリストもほぼ完成に近づいてるみたいだね。
「カナリア。
時間が無くなった」
予想外の事が起きた。
おかしいな。
明日って言ってたのに。
「わかったよボス。
ワイバーン君良かったね。
誰も10ポイントいかなかったかったからみんな食べていいよ」
“食べる”
ワイバーン君が捕食を始めると同時に悲鳴が響き渡る。
その悲鳴を聞き流しながら刀を生成して待ち構える。
……ダメだ。
来てしまった。
暗闇からエルザがワイバーン君に斬りかかる。
僕は間に割って入って弾き返した。
「やあ、若き剣聖よ。
こんな夜更けに麗しき女性のが一人歩きとは感心しないな」
「ナイトメア!
なんでお前がここにいる!」
「俺はナイトメア。
悪魔に誘う者。
いつでも何処にでも俺は存在する。
君こそ良くここがわかったな」
「お前の魔力の色は決して忘れない!」
エルザの魔眼が僕を真っ直ぐに捉える。
そう言う事か。
魔眼が僕らを捉えたから駆け付けて来たんだね。
「嬉しいよ。
君みたいな美しい女性にそこまで思われ、そしてまた交わる事が出来るなんて」
「黙れ変態!
今日こそ叩き切ってやる!」
僕の後ろからエルフ達の悲鳴が響いてくる。
その悲鳴を聞いたエルザの顔が歪む。
だから今晩中に終わらせようと思ったのに。
エルザの魔眼を甘く見ていた。
「なんて酷い事をするんだ!」
再び来るエルザの剣を真正面から受け止める。
以前よりも重く鋭くなっている。
流石だよ。
また一段と強くなってるなんて僕は嬉しいよ。
「酷い?
そうか。
もう少しお行儀良く食べるように言っておくよ」
「そう言う意味じゃない!」
エルザの剣の力を流して逸らす。
エルザはすぐに剣を反転させて切り込んでくるけど、それも受け流した。
「知り合いでもいるのか?」
「そんなの関係無い!」
「ならなんだ?」
「お前はこの悲鳴を聞いて何も思わないのか!」
「ああ、同族が食われる事への嫌悪感か」
休み無く繰り出される剣を刀で丁寧に合わせていく。
更に美しくなった剣と僕の刀がぶつかる音は、後ろの雑音など気にならない程綺麗な音を奏でる。
僕はエルザの憤りの籠った魔眼を仮面越しに真っ直ぐ見つめた。
その憤りから僕は目を逸らしてはいけない。
例え理解出来なくても。
それが悪党として正義と対峙すると言う事だから。
「俺から言わせれば、ペットに生き餌を与えるのとなんら変わらない。
最もペットでは無いがね」
「なんでそんなに残酷になれるんだ!」
エルザの魔力の籠った一撃を刀で相殺する。
後ろの悲鳴が掻き消される程の衝撃音が空気を振動させる。
「ただの食物連鎖だろ?」
「違う!
お前の悪業を自然界の摂理と一緒にするな!」
「その通りだ。
流石だ若き剣聖エルザ・ノワール。
君の言う事が正しい。
間違ってるのは俺だ」
「間違ってると分かっていて何故辞めない?」
「ああ、美しい。
正しい事を真っ直ぐに見つめる事の出来るその瞳が。
その美しい瞳にこんな光景を映してしまった事を後悔するよ」
「なら辞めさせろ!」
「それは出来ない。
何故なら俺は悪党だから。
だから今宵はその瞳を釘付けにしよう。
その真っ直ぐで美しい視線を独り占めさせてくれ、若き剣聖エルザ・ノワール」
そして僕の事だけ見続けてよエルザ。
そうすれば君は知らなくていい事を知らないで済む。
あんな計画を知って救えなかった自分を責める事なんてしなくていい。
僕がこの世から痕跡を全て消し去るから。
エルザは僕だけを責めればいい。
だって僕は責められて当然の悪党だから。
「気持ち悪い事言うな!
全身に寒気が走る!」
「なら抱き締めて熱い口付けで暖めてあげようか?」
「ならその仮面が邪魔だろ!」
エルザの剣が仮面を真っ二つにする。
その仮面が顔から剥がれ落ちる瞬間に僕は闇に溶ける様にして消えた。
お腹一杯になったワイバーン君と一緒にカナリアも既に消えている。
残された仮面も、地面の落ちると同時に砕け散って消えた。
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