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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
9章 悪党は自分勝手で残酷である
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第5話

隣で可愛く寝ていたカナリアの起きる仕草で目が覚めた。


可愛い寝息といい匂いで安眠出来たよ。


「おはようボス。

いい時間になったよ」


カナリアがそう言ってテントを開けた。


その瞬間、真ん前に星空が広がった。


氷の棘一つ一つに星空が映り込んで、まるで星空の結晶が集まったみたいだ。


その幻想的な絶景に僕は言葉を失った。


確かにこれはテントで寝て待つのは正解だ。


外で待ってたら、少しづつ変わっていくからインパクトが薄れてしまう。


それはそれでいいんだろうけど、あのテントを開けた時の衝撃は凄まじい。


「どうボス。

絶景でしょ」


「これは想像だにしなかったよ」


「でしょでしょ!

この巣を見た事がある登山家はそれなりにいるけど、こんな過酷な所で一泊しようって命知らずはそんなにいないからね」


カナリアは得意そうに胸張る。


これを知ってるなんて自慢出来るよ。


「こんなの良く知ってたね」


「エッヘン。

と言っても、実は偶然なんだけどね」


カナリアが照れ臭そうに笑ってみせる。


「僕の人生のターニングポイントは二つあるんだ。

一番のターニングポイントはもちろんボスと会った事。

もう一つがこの景色を初めて見た時なんだ」


この景色に負けないぐらい輝かせたカナリアの瞳を見れば、その思い出がとても大切な物だと分かる。


「ねえボス。

僕の昔話聞いてくれる?」


「長いの?」


「それなりには」


「うーん……」


長いのか〜

でもなんか聞いて欲しそうだな〜


「聞いてる間、尻尾をブラッシングしていい?」


「やってくれるの!?

やったー!」


カナリアはレジャーシートを敷いて、その上にちょこんと座った。

そしてフサフサの九本の尻尾を出した。


「そんなに動かしたらブラッシング出来ないよ」


「だって嬉しいから勝手に動いちゃうんだ」


僕はその内一本を優しく掴んでブラッシングを始める。


めっちゃフサフサだ〜

モフモフしたい。


「妖狐族はね、流浪の民なんだ。

世界中を旅しながら狩りをして暮らしてる」


おっとカナリアが話始めたよ。

危ない危ない、フサフサ尻尾に気を取られて聞き逃す所だった。


「そして、魔力が大きくなるにつれて尻尾が増えていくんだ。

だから尻尾が多い者程尊敬された。

でもそれは八本まで。

九本まで生えるとダメなんだ」


「なんで?」


「なんでだろうね?

長が八本だからかな?

まあ、良くわかんないけど群の掟でそうなってた」


長よりも尻尾が多いと別の派閥が出来るとでも思ったのかな?


「僕は最初八本だったんだ。

でも6歳のある日、朝起きたら九本になってたんだ。

掟で九本目の尻尾が生えたら尻尾を全部切り落とす事になってたんだ。

こーんなデッカいハサミで」


両手を一杯広げてハサミの大きさを表現してるけど、それはデカ過ぎない?

まあ、6歳の時の記憶だから誇張されてるんだろうね。


「それは痛そうだね」


「でしょ!

僕は怖かったからヤダって言ったんだけどね。

家族すらも聞いてはくれなかった。

みんなが掟だから仕方ないって。

だから僕は全部捨てて逃げちゃった。

てへっ」


今でこそこんな風におちゃらけて言ってるけど、当時の恐怖は計り知れない。

僕だって逃げちゃうね。


「必死に逃げて逃げて、逃げた先がここだったんだ。

そしてこの景色を見たんだ。

その時僕は思ったんだ。

一族の掟なんてくだらない。

心の何処かでは戻らないといけないと思ってたけど、そんな必要は無い。

だって世界にはこんなに素晴らしい景色があるんだよ。

あんな一族と一緒にいたら一生見れないままだもん」


「ねえカナリア」


「なに?」


「その……いや、なんでもない」


「なにそれ〜

変なボス」


一族を恨んでるかなんて聞こうかと思ったけどやめた。

だってそんな事聞いても意味ないから。


今のこのカナリアの笑顔が曇る事の無いように僕が全て排除するから。


「はい、ブラッシング終わったよ」


「ありがとうボス。

うわーすっごいフサフサだー」


お気に入り召して頂いたみたいで、カナリアは自分の尻尾に頬擦りしている。


その時氷の夜空に大きな影が映る。

大きな羽音を立ててワイバーンが降りてきた。


「おや、この家の主かな?」


カナリアが尻尾を逆立てて威嚇をしだした。


「コラコラ、威嚇なんてしたらダメだよ」


「だって〜」


「僕達が勝手にお邪魔してるんだから。

それにあのワイバーン君はこの芸術を作ってくれた本人だよ」


ワイバーンは僕達の前に降り立つと僕の目の前に首を垂れた。


「なんだ、いつぞやのワイバーン君じゃないか。

なんか良く会うね」


ワイバーン君はグルっと鳴いて首をくいくいと上げる。


「なにない、乗れって?

それじゃあお邪魔するね」


「ちょっとボス!?

乗るの!?」


「なんか乗って欲しいみたいだからね」


「食べられたりしない?」


「大丈夫大丈夫。

僕なんか食べたらお腹壊しちゃうって。

お手て繋いでてあげるからいくよ」


カナリアは渋々ながら着いてきて、僕の手をぎゅっと握った。


僕達が乗ったのを確認したワイバーンは一気に飛び上がった。


「ボス。

絶対手を離したらダメだからね。

ちゃんと握っててよね」


「なにそれ?

フリ?」


「違うよ!

絶対ダメだからね。

もし手を離したら僕泣いちゃうよ」


「それはダメだね」


「だから握っててよ」


「そんなに怖いの?

自分でも飛ぶから高さはなんともないでしょ?」


「それとこれとは別だよ〜」


もはや手だけで済まずにしがみついてる。

そんな僕達を乗せたワイバーン君は巣の中へと降下していく。


どうやらお家に招待してくれるらしい。


巣の中に入った瞬間、気温が上がった。

凄く過ごし易い気候だ。

地面には芝生が広がっている。


理屈はわからないけど、ここだけ楽園のような場所だ。

流石ファンタジー世界だ。


地面に降りたワイバーン君は僕達を下ろすと、丸くなって寝てしまった。


「カナリア、大丈夫?」


「うん、大丈夫」


カナリアは地面にへたり込みながらも頷いた。

まだ僕の手を離さないけど。


中から見る景色はさらに格別だった。

星空の天井に星空の壁。

そしてフカフカの芝生のベット。


なんて素晴らしい家だ。

僕もここに住みたい。


芝生の上で大の字になると、全身で星空を浴びてるみたい。

なんだかウトウトして来た。


いつの間にかカナリアが僕の右腕を枕に可愛い寝息をたててる。


さっきまで寝てたのに……

ま、いっか。

こんな心地よい所で寝ないなんてバチが当たるよ。

僕も寝よう。


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