第1話
年が明けて、リリーナとヒナタは年始の挨拶周りで忙しくなった。
年末周って年始も周るとか面倒この上ないよね。
僕には到底無理だ。
ナイトメア・ルミナスのみんなとも特に挨拶なんてしない。
だって僕達は自由だからね。
わざわざ集まってみんなで挨拶とか窮屈でしかない。
そもそもあけましておめでとうってのがおかしい。
僕みたいな悪党がのうのうと年明けを迎えたのに、何一つおめでたく無い。
今年もよろしくなんてされたらたまった物じゃない。
でもその挨拶のおかげで平和な冬休みを送れる事には感謝しかない。
年末年始サイコー。
僕はこの一人の自由な時間を使ってギャラン帝国に来ている。
ギャラン帝国はホロン王国の北側にある超巨大な国。
いろんな種族それぞれ自治権を持っており、それぞれに王がいる。
人間の国境など気にしないエルフ等の他の種族も、ここでは同じ属国としての形をとっている。
ここは種族の垣根を越えて共存出来ている、この世界では珍しい国だ。
それも国土全体が豪雪地帯であり、一年の殆どが雪に覆われている過酷な環境が故に団結しざるえない事情がある。
結局損得勘定無しでは団結なんて出来ない。
それが愛すべき人の業という物だ。
「そうは思わないか?
エルフの王よ」
僕はソファーに踏ん反りながら、真正面からナイトメアの仮面越しにエルフの王を見据える。
「それでも団結するに越した事は無いと思うがね」
エルフの王は毅然とした態度で言い返してくる。
僕はその答えに盛大な拍手で称賛の意を示す。
「素晴らしい。
正しくその通りだ。
俺もそう思うよ。
その寛大な心で俺の質問にも答えてくれると嬉しいんだがね」
「断る」
「何故だ?
シヨルグの者は言わば新参者。
王自らの命と天秤に掛けるまでもなかろう?」
「彼らは里を失って救いを求めて来た難民だ。
一度保護して受け入れた以上、我が国民となんら変わりはない」
「なるほどなるほど。
それは困ったな」
僕は周りで寝ているエルフの兵士達を意味あり気に見渡す。
「あなたの王としての器量はわかった。
だが、俺としても引くわけにはいかない。
そうなるとだ。
俺はここにいる全てのエルフを根絶やしにしないといけない。
まずはここでお疲れで寝ている兵士達から」
「脅しには屈しない」
「脅し?
違うな。
あなたに起こりゆる未来を提示してるだけだ。
俺はシヨルグのエルフに会ったら、他の所に散り散りになった者の居場所を聞くつもりだ。
しかし根絶やしとなるとそんな時間は無い。
そうなるとシヨルグのエルフについての手掛かりが無くなってしまう。
そのあと俺がどうするか?
聡明な王にはわかるよな?」
「何故だ。
何故そこまでシヨルグの難民の居場所にこだわる?」
「知ってはならぬ事を知ってるからだ」
「知ってはならぬ事?
それは貴様の正体か?」
「アハハハハハ。
そんな事の為にわざわざ世界中を周らんよ」
おかしな事言うね。
思わず笑っちゃったよ。
「シヨルグのエルフを全て消す為ならどんな手でも使う。
王たる者、時には残酷な決断も必要だぞ。
それは決して悪では無い。
むしろ、その決断によってこの世の数え切れない命が救われる英断となる。
さあ王よ、これが最後のチャンスだ。
決断を」
◇
いや〜エルフの王が聡明な奴で良かった良かった。
おかげで余計な手間が掛からなくて済むよ。
思ったよりもここにはエルフがうじゃうじゃいたからね。
全員を殺して周るのはめんどくさいと思ってたんだ。
お礼に大騒ぎにならないように人知れず処分しといてあげるね。
しかし役所仕事って凄いよね。
しっかりしたリストが出てくるんだもん。
そのリストももうお終いっと。
今最後の一人を殺し終えた所。
楽しかった。
一応全員に確認したけど、計画の事は全員知ってた。
やっぱり全員消さないといけないみたい。
大変だけど必ず消し去ってあげるよ。
次のリストも出来たしね。
みんな口が軽くて助かったよ。
ちょっと拷問しただけでペラペラ喋ってくれた。
さて、ギャラン帝国のエルフの情報は無いから一旦帰るとしますか。
最後のエルフを始末した時、家の外で街中に聞こえる鐘の音が響き渡った。
何かの警報みたい。
僕はナイトメアスタイルを解いて家の外に出た。
街中のエルフ達が雪で足場の悪い中、同じ方向に逃げて行ってる。
それに微かに地面が揺れてる気がする。
何があったのかな?
なにか楽しいイベントが起こってる予感。
「おい!何してる!
マンモスの群れに飲み込まれるぞ!」
親切なエルフが逃げながらも突っ立ってる僕に避難を促してくれた。
マンモスの群れか……
見てみたい。
僕は真上に飛んでエルフ達が逃げてる反対の方を見る。
うわ〜、すげ〜。
遠くからマンモスの群れがゆっくりと近づいて来てる。
でけ〜な〜。
マンモスなんて初めて見た。
食料を求めて移動してるんだろうな。
あれだけの群れが一箇所に留まったら一瞬で食料尽きちゃうもんね。
つまりここはそのルートに入っちゃたんだ。
まあ、これも自然の摂理だね。
マンモス達が家とか気にせずに破壊しながら進んで行く姿は圧巻な見応えだ。
空の上からでも地面が揺れてるのが分かる程だ。
せっかくだしここで見学して行こう。
いい観光の思い出になるよ。
「えーん!お父さん、お母さん、どこー!」
マンモスの群れの前方から女の子の泣き声が聞こえて来た。
ありゃりゃ、あのエルフ逸れちゃったんだね。
このままじゃペチャンコになっちゃうね。
でも、これも自然の摂理。
仕方ない事だ。
マンモスの群れ真っ直ぐと女の子へと向かって行く。
その女の子の前に、白髪の男が現れてマンモスの前に立ちはだかった。
二本の角が生えてる所見ると鬼人だ。
その鬼人はマンモスの群れが近づいてくるが、剣の柄を握っているが抜く様子は無い。
いよいよ群れに飲み込まれる寸前、男が細かった目を見開いた。
その瞬間マンモス達が歩みの方向を少し変え、男を避けるようにして歩いて行く。
まるで中州みたいになっている。
気迫だけでマンモスを退かしちゃったよ。
凄い物見ちゃった。
今度僕もやってみよう。
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