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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
8章 悪党は全てを奪い去る
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第32話

カットバー伯爵の葬式が終わり、ダイナは墓前で立ち尽くしていた。


「すまなかった。

私があの時仕留めていたら、こんな事には」


「総長、謝らないでください。

僕はあの事件の時に参加する事すら出来なかったんです。

でも結局一緒だった。

目の前にいたのに。

この手に剣を握っていたのに。

何も出来なかった。

父さん1人守る事が出来なかった」


ダイナは血が滲み出る程拳を握りしめることで、込み上げてくる悲しみに必死に耐えていた。


「グラハム総長。

僕はもっと強くなります。

強くなって必ずこの手で――」


「ダイナ。

奴は我々の手で必ず仇は討つ。

だが忘れるな。

我々の剣は復讐の為の剣になってはいけない」


「……わかっています」


「共に強くなろう」


「はい」


グラハムは墓前に両手を合わせて離れて行く。

花を持って来たアイビーの肩をボンっと叩いて入れ替わった。


「ダイナ兄さん……」


アイビーはかける声を必死に探した。

でも見つけられない。


今にも崩れてしまいそうなダイナの背中を見てる事に耐えきれずに、後ろから抱きしめたい。


「ダイナ兄さん。

1人で背負わないで。

あの時何も出来なかったのは私も一緒だから。

私にも半分背負わせてよ」


アイビーの言葉にダイナは堪えきれずに、声を押し殺して泣いた。

その震える背中をギュッと抱きしめて、ダイナのぶんまで声を出して泣いた。


それを遠くから見ながらトレインは複雑な思いに戸惑っていた。


カットバー伯爵は親友の父親があり、少なからず交流のある人物だ。

その人物の死に悲しみよりも安堵の方が大きかった。


結局カットバー伯爵がドーントレスの幹部だった証拠は掴めないままだった。


死人に口なし。

例え今更証拠を掴んだ所で何にもならない。


でもそれで良かったのかもしれない。

これ以上調べる必要は無いのかもしれない。

悲しみに暮れるダイナにとっては、いい父親との思い出だけでいいのかもしれない。


そんな言い訳が頭の中を駆け巡りながら、トレインはその場を立ち去った。


「ちょっとトレイン。

何処にいくのよ」


そんなトレインをレイナが腕を掴んで止めた。


「どこって別に……」


「あなた、まだ一回も手を合わせて無いでしょ。

どうしちゃったの?

流石のあなたでも、そんな不義理な事しないでしょ?」


「いや、まあ、ちょっと……」


「葬儀中もずっと難しい顔してたし。

一体何を隠してるの?」


「何も隠してなんか――」


「嘘!」


レイナはピシャリと言い切った。


「あなたはいつもそう。

なんか1人で考え込んで、1人で勝手に解決しちゃう。

学生時代ずっとそう。

ちょっとは私を頼ってくれたっていいじゃない」


「頼っていいのか?」


「もちろんよ」


「ならダイナを慰めてやってくれ。

その体を使って」


「このバカ!」


レイナは思いっきりトレインを蹴って、顔を真っ赤にしながらそっぽを向いて離れて行ってしまった。


トレインも背中を向けてその場を離れる。


「隙あり!」


気を抜いていたトレインの背後からレイナがチョークスイーパーを決めた。


「そうやって煙にまこうったて、そうはいかないよ。

さあ白状しろ!」


「レイナ、ちょっとストップストップ」


「辞めて欲しかったらさっさと言え」


「わかったわかった。

実は前から思ってた。

でも今確信した。

本当に言っていいのか?」


「いいから言え!」


まだ焦らすトレインにレイナは苛立ちながら急かす。


「怒るなよ」


「怒らないから言えって言ってるでしょ!」


「お前、また胸大きくなっだろ」


レイナは自分の胸がトレインの背中に思いっきり当たってる事に気がつく。

思わず恥ずかしさで手を緩めてしまった。


その隙にトレインは拘束から抜け出して逃げ出した。


「コラ待て!」


「なんだレイナ。

好きな男にでも揉まれたか?」


「んな訳あるか!」


「なんなら俺が揉んでやろうか?」


「な、な、トレイン!

今日と言う今日は許さん!」


なんとか誤魔化せたとホッとするトレイン。

でも別の意味でヤバい状況になったため、結局必死に逃げる羽目になった。



王都にある高級バーにネズカンは入っていく。

いかにもなオシャレな雰囲気。

女を口説くにはもってこいだな、とか思いつつ店内を見渡した。


奥の席に待ち合わせしていた男性を見つけて席に着く。


「久しぶりだなエイテン」


「久しぶりなんてもんじゃ無いぞ。

世界中ブラブラしてるなら、近くに来た時ぐらい顔を出せよ」


「ガハハハハ。

儂なんか顔を出したら、子供の教育に悪いだろ」


「心配無用だ。

お前を子供達に会わせるつもりは無い」


「ガハハハハ。

これは手厳しい」


ネズカンの元にカクテルが運ばれてきた。


「エンテンの公爵就任を祝して乾杯」


二人は静かにグラスを当てる。


「それにしても、随分待たせちまったな」


「別に男爵だろうと公爵だろうと、特にやる事は変わらない」


「そんな事無いぞ。

これからはもっと働いてもらわないと」


「俺はあと数年でヒナタに譲って引退だよ」


「その娘だが、第二王子に求婚されたらしいな」


「相変わらず耳が早いな」


エンテンは苦笑いしながらグラスを空にした。

同じくグラスが空になったネズカンが二人分を追加する。


「受けるのか?」


「ヒナタの意思に任せるさ」


「息子の時は勝手に決めたのにな。

やっぱり公爵になると対応も違うな」


茶化すネズカンをエイテンは軽く笑って流す。


「そんなんじゃないさ」


「確かにお前の娘はかなり強いがまだまだ不安定だ。

今、勝手に婚約者を決めるのは良くないな」


「逆だよ

不安定なのはヒカゲの方だ」


「まさか。

あの歳であれだけ達観した子はいないぞ」


「ヒカゲは非常に危うい子なんだ。

あの子は何かがきっかけで一瞬で何もかも捨ててしまう。

ヒカゲがこの世界に絶望した時。

あの子は世界を滅ぼす」


「そんな大袈裟な」


ネズカンは笑い飛ばすが、エンテンは至って真面目な顔を崩さない。 

次にエイテンが言った言葉でネズカンは笑うのを辞めた。


「俺の息子だぞ」


「勘弁してくれよ。

破滅の魔道具作って文明一つを滅ぼしたお前が、今度は世界を滅ぼす子供を作ったってか?

笑えない冗談だ」


「だからあの子を孤独にしてはいけない。

誰かが繋ぎ止めてあげないといけない。

それは俺達家族だけではダメだ。

そう思っていた時、コドラ公爵から縁談の話があった。

初めてリリーナ嬢と会った時直感した。

この子も危ういと」


エンテンはその日のリリーナの顔を思い出していた。

決して弱味を見せ無い為の作られた笑顔。

10歳の子供っぽさなど微塵も無かった。


「理不尽に耐える為に自ら作った鎧が、解放されて尚脱げずにいた。

幼い子供が纏うには重すぎる鎧だと言うのに。

だけど、ヒカゲに対する執着心だけは異常だった。

まるで初めて我儘を言うかのようだった」


「あそこまでの美人にそこまで言い寄られるなんて羨ましい限りだ。

一体何をしたらそうなるんだ?」


エンテンは軽く肩をすくめてからカクテルを飲んだ。


「さあな。

何も聞かない事にしてるんだ。

でもきっとヒカゲの事だから、安らぎを与える存在になったのだろう。

本人は無自覚だろうがな。

なんにせよ、あの執着心がヒカゲを繋ぎ止めてくれるかもしれないと思った。

お互い危ういが、二人合わさるといい方向に行くんじゃ無いかと思った。

最終的に一緒になるかどうかは本人達に任せるつもりだ。

でも、あれぐらい気が強くないとヒカゲの相手は出来ないだろうな。

そうじゃないと逆にヒカゲに飲み込まれてしまう」


ネズカンはエイテンの顔を見て笑みを漏らした。


「すっかり父親の顔になったな」


「16年も父親をやってるんだ。

当たり前だろ。

お前もいつまでもフラフラしてないで、いい加減身を固めたらどうだ?」


「いい事教えてやる。

お前は知らないと思うが、結婚には相手がいるんだよ」


「知ってるさそれぐらい。

結婚何年目だと思っているんだ?

相手ならソフィアがいるだろ?」


「いっつも口説いてるんだけどな。

全く手答え無しだ」


ネズカンは大袈裟にため息を吐いた。

そんなネズカンをエイテンは呆れ顔で見る。


「どうせいつも茶化しながら口説いてるんだろ?

本気でプロポーズしてみろ。

骨は拾ってやる」


「ガハハハハ。

それだと玉砕してるじゃないか」


ネズカンはカクテルを飲み干してから席を立った。


「ここは就任祝いで儂の奢りだ」


充分過ぎる程の金貨を置いて出口に向かう。


「店を出たら真っ直ぐ歩けよ」


「そこまで酔いは回っておらんよ」


ネズカンは店出てから言われた通り真っ直ぐの道を進んだ。

すると、前方からゆっくり歩いて来るソフィアの姿が見えた。


「よお、ソフィアではないか。

偶然だな」


「ヴァン?」


「せっかくだ。

どうだこれから一杯、おっと!どうした?」


ソフィアは近づくなり、ネズカンの胸に顔を埋めた。

顔を見なくてもわかるほど、かなり酔っ払っている


「こんなに酔うなんて珍しいな。

そんなにいい店が――」


「私がして来た事って意味が無かったのかな?」


「どうした?

何があった?」


いつもからは考えられない程弱気になっているソフィアに、ネズカンは優しく語りかける。


「儂とお主との仲だ。

何かあったなら遠慮なく言っていいんだぞ」


「私、頑張ってきたつもりだった。

初めは話すら聞いて貰えない中、必死に賛同者を集めてギルド協会を立ち上げた。

最近はすっかり王国内に定着出来てる。

でも、蓋を開けてみたら全然ダメ。

裏ギルドを作って不正したり、テロ組織と繋がっていたり……」


「誰かに何か言われたのか?」


ソフィアは顔を埋めたまま首を横に振る。


「なら気を病む事は無かろう」


「でも私が最早く気付かないといけなかった」


「ソフィアよ。

ギルドは元々腕は立つが組織に馴染めない者達の集まりだ。

それを良くまとめ上げている。

お主じゃ無ければとうの昔に崩壊しているよ。

どんなに手塩をかけて育てても腐った果実は出来る。

悪い所だけ見るな」


ネズカンはソフィアの頭の上にポンポンと優しく手を置いた。


「私、もう自信無い。

疲れちゃった」


「そうか……」


ネズカンは両肩を持って優しく離してソフィアの顔を見た。

そして微笑みかけてから言った。


「なら辞めてしまおう」


「え?」


ソフィアは今にも涙が溢れてしまいそうな瞳を丸くした。


「全て捨てて儂と一緒になってくれ。

それから一緒に世界を回ろう。

美味いものを食って、綺麗な景色を見て回ろう。

何も肩書も責任も無く、ただただ思うがままに自由に。

金ならいくらでもある。

儂がソフィアが死ぬまでずっと一緒にいて、楽しい思い出だけを作ってやる」


「そんなの無理よ。

あんたの方が先に死ぬじゃない」


「なにを言っている。

儂は千歳まで生きるつもりだぞ。

お主の最後を看取るまで死なんと決めておる」


「本当に?

約束してくれる?」


「もちろんだ」


ネズカンはゆっくりとソフィアに顔を近づけていく。

唇が近づいて触れる直前。


バチンッ!


ソフィアの平手打ちがネズカンを遠ざけた。


「え?あれ?

私……なんで?」


ソフィア自信も自分の行動が分からずに戸惑いを隠せない。

その瞳から涙が溢れ落ちて頬を伝う。


「ガハハハハ。

今日こそベットインまで行けると思ったんだがな」


「ちょっと待って!

今の無し!

私は――」


「捨てられないんだろ?」


ソフィアは否定出来ずに言葉を詰まらせた。


「飲みに行くか」


「ヴァン、ごめんなさい。

私……」


「何を謝る事がある?

美味い酒ならここにもある。

綺麗な景色は無いかもしれんが、綺麗な女ならここにおる。

何も問題なかろう?」


「ありがとうヴァン。

弱音吐くのは今日だけにするから」


「なあに。

いい女の弱音を聞けるのはいい男の証拠だ」


ネズカンはソフィアをエスコートしながら夜の街に繰り出していった。

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