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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
8章 悪党は全てを奪い去る
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第26話

サゴドン公爵は全速力で宣教師学園を飛び出した。

しかし学園の外で待たしていた使用人の馬車はいない。


公爵は聖教祭から出てくる客待ちをしていた、イダテンダイヤの馬車へと乗り込んだ。


「超特急だ!

超特急で俺の屋敷へ迎え!」


「あいよ!超特急頂きました!

お急ぎのお客様の足元見てぼったくる!

安心安全最速の運び屋ギルド『イダテンダイヤ』にお任せあれ!」


公爵邸まで1時間近くかかる道のりを5分も掛からずに屋敷に到着した。


公爵は料金も聞かずに持ち金全部を置いて馬車から飛び降りた。


「イヤッホー!

今日はボーナス出るぞ!」


歓喜の声からかなりの金額を置いて来た事が伺える。

しかし、公爵はそんな事気にもせずに屋敷に飛び込んだ。


「おかえりなさいお父様。

お早いですね」


階段の上から出迎えたミレイヌの姿を見て、公爵は力が抜けて崩れ落ちた。


「ミレイヌ……

無事だったか」


「無事?

どうかしたのですか?」


「いや、なんでも無いんだ。

お前が無事ならそれで……」


少し落ち着いて来た公爵は屋敷内の異変に気がついた。

屋敷内がやたら広く感じられた。

それもそのはず。

屋敷内に置いてあった家具やインテリアは全て無くなり、あれだけいた使用人も誰も出て来ない。


「どうされましたかお父様?」


「ミレイヌ。

これは一体どういう事だ?

何故誰もいない?

何故何も無い?」


公爵の中でほぼ答えは出ていた。

だけど聞かずにはいられなかった。

何より最愛の娘だけは何事も無いと信じたかった。


だが、その願いはミレイヌの言葉で崩れさる。


「使用人は全て暇を出しました。

この屋敷にあった物は全てナイトメア様に献上しましたよ」


「な、なんだと……」


最愛の娘から聞かされた事実を飲み込めずに言葉を失う公爵。

その公爵にミレイヌは追い討ちをかけた。


「そして私もナイトメア様に全てを捧げました。

この身も心も全て」


ミレイヌの後ろに影が見えて、形を成してナイトメアとなった。

ナイトメアはミレイヌを抱きしめて、その豊満な胸を揉みしだいた。


「んっ!あっ、あんっ!」


ミレイヌは全く自重しない喘ぎ声をあげた。


「や、辞めろ……」


公爵は目の前に映る光景が現実だと思えず、醒めない悪夢の中にいるような感覚になる。


「どうしたミレイヌ?

こんなので満足なのか?」


「あっ、ナイトメア様。

もっと、もっと激しいのをください」


ナイトメアの手は衣服の中へと滑り込み、激しく弄りだす。

それに合わせてミレイヌは甘い吐息を漏らし、体を妖艶を良がらせた。


「辞めてくれ……」


「んっ!あっ、あん!

もっとください。

ナイトメア様!」


「辞めろー!!」


公爵は剣を抜いて階段を駆け上がる。

しかし上から降りて来たミリアの飛び蹴りで、階段を転げ落ちた。


体のあちこちを打ちつけられた痛みに悶える間もミレイヌの喘ぎ声が耳に入ってくる。


なんとか顔をあげた公爵の目に入るのは、さっきよりも激しく良がる娘の姿。


「あっ!あっ!あんっ!

ナイトメア様!

ください。

私にご慈悲を。

ん、んーーー!!!」


遂にイき果てたミレイヌはナイトメアにまだビクつく体を全て預け、完全に女の顔になった表情からは甘い吐息が絶え間なく漏れている。


「なぜだ?

なぜお前はこんな事をするのだ?」


公爵はナイトメアを見上げた。

その目から血の涙が流れ流れていた。


「言っただろ?

貴様の全てを奪うと」


「何故俺がこんな仕打ちを受けなければならない?

俺がお前に何をしたと言うのだ?」


「理由?

そんなの決まっているだろ?

俺も貴様も同じ悪党だからだよ」


ナイトメアは公爵を見下しながら続けた。


「世界は善人達の為にある。

俺達悪党は僅かな隙間にしか存在する事を許されない。

その隙間を奪い合うしかない。

だから俺は貴様から全て奪う。

貴様が俺の物を奪えないように」


「俺がお前と同じ悪党だと?

ふざけるなよ!」


サゴドン公爵は痛む体を起こしながら叫んだ。


「俺はこの国の為にどれだけ尽力して来たと思っているんだ!

この国がここまで発展出来たのは俺のおかげだ!

これからも俺がいなければこの国に未来は無い!

お前の様なぽっと出のチンピラ風情がこの俺と一緒な訳無いだろ!」


ナイトメアは公爵の叫びを蔑むように鼻で笑う。


「世界に比べればこんな国などちっぽけな物だ。

そのちっぽけな国のちっぽけな個人などいくらでも代わりはいる。

俺も貴様もいなくなった所で世界は何も変わらず回っていく。

俺達よりも、この女の方がよっぽど価値がある」


ナイトメアは未だに良がりながら快感を貪ろうとしているミレイヌの顎を持ち上げて、公爵に女の顔を見せつけた。


「この女の穴は名器だったからな」


「ナイトメアー!!!」


その言葉により公爵の怒りは臨界点を超えた。

公爵は身体中の痛みを忘れる程の痛みに任せて玄武の魔道具を起動させた。


公爵の周りを囲む様に人一人隠れる程の長方形の盾が4枚が飛び、頭上には砲台が現れた。


「ドーントレス幹部玄武。

王国の未来を担う者として、お前を叩き潰す!」


臨戦体制に入った玄武を見て、ミリアが自ら仮面を脱ぎ捨てた。


「ナイトメア様。

こいつは!こいつだけは私に!」


「お前エミリーか!?

お前が俺に楯突くと言うのか!」


玄武は砲台をミリアに向けた。

ミリアは武器を生成しようとした時。


「ダメだ」


ナイトメアがそう言ってミレイヌをミリアに投げる。

ミリアは慌てて受け止め、玄武は砲撃を撃つのを止めた。


「何故ですか!

私に――」


「くどいぞ。

お前はここで見極めろ。

悪夢から目覚めた後に進む道を」


ナイトメアはそう言って階段をゆっくりと降りて行く。

ミリアは言葉の意味は理解出来なかったが、何故か何も言えずに降りて行くナイトメアの背中を見つめる事しか出来なかった。


「消し飛べ!」


玄武の砲撃がナイトメア目掛けて放たれた。

魔力の塊の下を潜る様にしてナイトメアは玄武に急接近する。


ナイトメアの突き出された拳を玄武の盾の1枚が受け止める。


もぬけの殻となった屋敷中を震るえる程の衝突音が響きわたった。

それだけの衝撃を受けながらも玄武の盾は傷一つ付かない。


残りの3枚の盾がナイトメアの四方を隙間無く囲んで閉じ込めた。

砲台が真上に移動して真下のナイトメア目掛けて発射される。


盾の中に砲撃が着弾。

強烈な爆発が一本の柱となった。


「呆気ない奴だ。

口ほどにもない」


「相手の死も確認せずに勝った気でいるのか?

そんなんだから奪われるのだよ」


「黙れ!

この死に損ないが!」


玄武は再び砲撃を放つ。

再び爆発が起きる。

それでも玄武は砲撃を止めない。

何度も何度も砲撃を浴びせ続けた。


十数発の砲撃が止んだ。

盾の中から濃い爆煙が立ち込める。


玄武の前の盾が真っ二つに裂けて地面に倒れた。

中から爆煙と共にナイトメアがゆっくりと玄武に歩み寄る。


「そんな馬鹿な……」


玄武は後退りをして距離を保つ。

その間に砲台を移動させて砲撃を放った。


砲弾はナイトメアに直撃した。

だが弾け飛んだのは砲弾の方。


「どういう事だ……

これだけの砲撃を受けて何故無傷なんだ……」


「単純な話だ。

弱いからだよ」


切り上げられたナイトメアの刀が砲台を真っ二つにする。

玄武は残りの盾で自らを隠すが、ナイトメアの一閃で真っ二つになる。


「こんな事があってたまるものか。

玄武の魔道具だぞ……」


「俺には理解出来んよ。

そんな得体の知れない物に全信頼を置いてる事が」


玄武はあっさりと魔道具が破壊されてしまった事を受け入れられない。

やがて背中に入り口のドアが当たって、それ以上下がれなくなった。


玄武はこの悪夢から逃げたい一心でドアを開けようとするが、ガチャガチャと音を立てるだけで一切開かない。


「どうした?

もう終わりか?」


「クソが!」


玄武はヤケクソになってナイトメアに切りかかる。

その剣を刀で弾いたナイトメアは玄武の右肩から切り落とした。


「ガアァァー!」


玄武は血の噴き出る右肩を押さえて屈み込んだ。


「そろそろフィナーレといこう」


サゴドン公爵邸はナイトメアの魔力に包まれて半透明のオーロラ色のガラス細工のように変貌した。

そして上部から順番に粒になってサラサラと空へと舞い上がっていく。


玄武は青空へと伸びて行くオーロラの道を見上げた。

今まで積み上げて来た物が青空に呑み込まれていく。

それを必死に掴もうと左手を伸ばすも決して届かない。


「グッド・ナイト・メア」


ナイトメア達は影となって消えた。

だった一人残された玄武は屋敷と同じ様にオーロラの粒となって消滅した。

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