第22話
教会の中は如何にも教会って感じ。
強いていうなら十字架じゃなくて、ダイヤ型って所かな。
奥には神父が祈りを捧げていた。
あの人いっつもああしてるのかな?
よくやるよね。
そんな事してるぐらいなら鍛錬した方がよっぽどいいのに。
「教皇様。
お久しぶりです」
近くまで僕を引っ張って行ったリリーナが神父に声をかけた。
ってこのなんの変哲もないおじさんが教皇なの?
もっと如何にもって格好してると思ってた。
「お久しぶりですね。
リリーナ・コドラさん。
随分いい顔になられましたね」
教皇はゆっくり僕達の近くまで歩いて来て、微笑んでみせた。
「はい。
教皇様のおかげです」
「とんでもありません。
私は神のお言葉を代弁しただけ。
全ては神の導き。
神の導きはあなたにいい結果をもたらしてくれたようですね」
「ええ、とっても」
リリーナはニコニコしながら答えた。
「ねえリリーナ。
この人が教皇?」
「そうよ、ダーリン。
流石に様をつけなさい」
「ふーん、そうなんだ。
パーンチ」
僕のパンチが顔面に炸裂した教皇はぶっ飛んだ。
「えー!!
ちょっと!なんて事するのよ!
大丈夫ですか教皇様!」
リリーナはなんか慌てて教皇を起こしに行った。
教皇は慌ててるリリーナを落ち着かせようと、大丈夫アピールをしていた。
「あ〜、スッキリした〜」
「スッキリした〜じゃないわよ!
あんた何したか分かってるの!?
教皇様を殴るなんて信者に殺されても文句言えないわよ!」
「いや、流石に殺されるなら文句言うよ」
「なんで急に教皇様にパンチなんてしたわけ!?」
「だって僕はこの教皇の曖昧な言葉の被害者だよ。
パンチぐらいしないと割に合わないよ」
「バカじゃないの!
そんな事ぐらいでパンチしていいわけ無いでしょ!」
「落ち着いてください、リリーナ・コドラさん。
私は大丈夫です」
教皇が立ち上がって服の乱れを直しながら言った。
こいつ案外タフだな。
「お名前をまだ聞いてませんでしたね」
「ヒカゲ・アークムだよ」
「ありがとうございます。
ヒカゲ・アークムさん。
神のお言葉が曖昧で分かりにくい物なのです。
それは神が私達にもたらした試練でもあるのです。
すぐに答えを与えては人は成長致しません。
神のお言葉を聞いて、自らの頭で考え――」
「パーンチ」
長いわ。
もっと簡潔にわかりやすく話せよ。
「あんたね!
いい加減にしなさいよ!
本当にその腕へし折ってやるわよ!」
再び吹っ飛んだ教皇を見てリリーナが僕の胸ぐらを掴んで物騒な事を言って来た。
「だって無駄に長々と訳の分からない事言うんだもん」
「そういう物なの!
わかりなさいよ!」
「えー、わからないよ」
「リリーナ・コドラさん。
わからない事をわからないと言う事も大切なのです」
教皇はまた普通に立ち上がって服の汚れを叩いて落としていた。
でも心なしか、さっきより距離があるような気がする。
「ヒカゲ・アークムさん。
わからない事は悪い事ではありません。
わからないと事を知る事で人は成長するのです。
神はいつも私達の成長を願っています。
その為に――」
ダメだ。
もう一発お見舞いしてやろう。
「待ちなさい!」
一歩前に出た所でリリーナに抱きつかれて止められた。
「ごめんなさい教皇様。
こいつには良く言って聞かせますから、どうか今日の事はお許しください」
「はい、私は全然怒っていません。
これも神のお導き」
「違うよ。
僕のパンチは僕の意思だよ」
「黙ってなさい!
では教皇様。
また後日改めて伺わせていただきます」
そう言ってリリーナは僕を引き摺るようにして教会をした。
「神のご加護が在らん事を」
教会が出る間際に教皇が僕達に対してお言葉をくれた。
あいつ、まだ懲りてないみたいだ。
◇
「本当にありえない!
普通初対面の人殴ったりする?」
「リリーナだって初対面の僕を切ろうとしたじゃないか」
「それはそれ、これはこれよ!
相手はあの教皇様よ!」
「えー、一緒だよ」
「全然違う!
教皇様っていったら、この国の聖教徒のトップよ。
殴るなんて下手したら極刑よ」
じゃあ一緒じゃん。
僕も腹立った奴は極刑だよ。
「いい。
私は時間だからミスコン行くけど、大人しく私の応援してなさいよ」
「はいはーい」
応援はするけど、見てるとは言って無い。
なんたって僕はこれから忙しいからね。
「いってらっしゃーい」
さて、リリーナを見送ったしそろそろ動き始めるかな。
「ちょっとヒカゲ!
こっち来なさい!」
「ぐへっ」
急に後ろ襟を引っ張られて首が締まったせいで変な声が出た。
「シンシア、急に引っ張ったらビックリするじゃないか」
「あれはどういう事?」
シンシアは僕を無視して人混みを指差した。
あれって?
あれはヒナタじゃないか。
緊張した面持ちながらも楽しそうにしてるや。
良かった良かった。
どうやらハヌルをこの世から消す必要は無いみたいだ。
「あれってヒナタの事」
「そうよ。
集合時間になっても戻って来ないと思ってたら、王子と一緒に周るから別行動になりますとか意味分かん無いわよ」
「ああ、あれね。
なんかハヌルがヒナタに一目惚れしたみたい」
「はあ!?
いつよ!」
「前のグリフォンやっつけた時。
それで求婚されてた」
「ウソでしょ!
なら婚約したの!?」
「いや、答えはデートの後でいいって。
だから今デートしてる」
シンシアはヒナタの様子を見ながらも混乱しているみたいだ。
「あんたはどう思ってるの?」
「僕?僕はヒナタが幸せになれるならいいよ。
シンシアは反対なの?」
「私もヒナタが幸せになれるならいいと思うけど……
あいつ信用できるの?」
「リリーナが言うには人格者らしい」
「ならいいのだけど……」
シンシアはとても心配そうにヒナタを見ていた。
「大丈夫大丈夫。
ヒナタを泣かす事があったら僕が消すから」
「王子相手にそんな事……
なんでだろう?
ヒカゲならマジでやりそう」
「僕は本気だよ」
「その時は私も一緒にやるから。
勝手に突っ走ったらダメだからね」
シンシアは本当にヒナタ想いだな。
姉妹仲がいいのはお兄ちゃんとして嬉しいよ。
でも、それは悪党の僕の役目だから。
ドクン!!
心臓が大きく跳ねる。
まさかのこのタイミングでヒナタのアレが発症した。
「まさか!」
ハヌルを放置して走り出したヒナタをシンシアが一目散に追いかけて行った。
「どうするの?
そろそろこっちも時間よ」
気配を消したスミレが僕の後ろで問いかける。
「クックック。
面白いじゃないか。
イレギュラーもトラブルも大歓迎だ。
もちろんどのイベントも取りこぼす気は無いよ。
さて、はじめよう。
今宵悪夢へ誘う為の宴を」
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