第16話
北都の町をツバキは駆け抜けて行く。
一軒の飲み屋の店先で飲んでいるジジイに突撃した。
「よおツバキ。
用事は終わったか?
一緒に飲もうぞ。
ここの酒は美味いぞ」
「ネズカン!
今すぐ王都に帰るよ」
「おいおい。
もう暗くなるぞ。
夜道は危険だ」
「ネズカンと一緒に飲み続ける方がよっぽど貞操が危機だ」
「でもここの酒は美味いぞ」
その言葉に若干心が揺れるツバキ。
結局耐えきれずに持ち帰り用の酒をたらふく注文した。
「さあ帰るよ。
時間が惜しい」
両手いっぱいに酒を持ちながらツバキはネズカンを急かす。
「いや、その手荷物持ちながら言われても……」
「うっさい!
一々文句言う年寄りは女の子から嫌われるよ」
「それは困る。
儂はまだまだ女の子と楽しく飲みたい」
「なら、黙ってついてくる」
「よし来た」
二人はネズカンが呼び寄せた馬車へと乗り込んだ。
「スカンダ。
超特急で王都まで頼むぞ」
「あいよ!超特急頂きました!
お急ぎのお客様の足元見てぼったくる!
安心安全最速の運び屋ギルド『イダテンダイヤ』にお任せあれ!」
二人を乗せた馬車は周りを腕利きの護衛に囲まれて王都へと出発した。
「お客様は超特急をご所望だ!
遅れた奴は減給だぞ!」
ホロン王国四大ギルドの一つスカンダ率いるギルド『イダテンダイヤ』
ギルド協会内でダントツの売上を上げるギルドだ。
その理由は至って明白。
目玉が飛び出る程の料金設定だ。
運び屋ギルドは冒険者ギルドと違って、各自で料金設定が出来る。
更に協会通さずに依頼を受ける事も可能。
その代わり料金変更度に協会の審査が必要だったり、依頼終了事に事細かな報告が必要など厳しい制約が存在する。
そんな運び屋ギルドの中でもイダテンダイヤの金額設定は常軌を逸脱していた。
一度超特急を頼もう物なら、初乗りだけで中堅ギルドの一ヶ月分の売上を超える程の料金になる。
そんな彼らだが、舞い込む依頼は後を経たない。
それは彼らが掲げる安心安全最速が太客を掴んで放さないからだ。
ネズカンもその一人である。
馬車は言うだけの事はあって、普通では考えられないスピードで進んでいく。
それなのに一切隊列が乱れる事は無い。
何より馬車の中に殆ど振動が無い。
「王都に着いたら、早速お願いがあるからね」
早速酒瓶を開けたツバキがネズカンに酒を注ぎながら言う。
「おお、任せろ。
美人のお願いなら何でも聞いてやるぞ」
「ルナ王女に繋いで欲しい」
「ルナ王女?
それぐらい容易いが、またなんで?」
「流石だよ男前。
彼女のお付きのナナリーだよ。
彼女についていれば、必ずエミリーは現れる」
「何故そこまで彼女に執着する?
弟子との約束は果たしたのだろ?」
「彼女に言われたんだ。
遅すぎるって。
確かにそうだ。
私がもっと早く手を差し伸べていれば、彼女は悪の道に行く事は無かった」
「それは結果論にしか過ぎない。
人一人で救える量には限界がある。
お主はその限界以上の者を救って来たではないか」
「でも、私は重圧に負けて剣を握れなかった一年がある」
「あの一年はお主にとって重要な一年だったはずだ」
「それでもだよ。
あの一年が無ければ彼女を救えたかもしれない」
「何もそんなに背負う事は無かろう」
「背負うさ」
ツバキは右手に握り締めた酒瓶を見ながら続けた。
「これが無いとその重圧に耐えれない程か弱い女だけど」
その酒を一気に飲み干して口を拭ったツバキの目には覚悟を決めた者だけが宿す光があった。
「私は勇者だから」
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