第4話
王都にある高級レストランの個室。
この個室は外に音が漏れないように防音設計されている。
いわゆる要人の密会用だ。
その部屋から漏れんばかりの声量でルナは爆笑していた。
リリーナはそれを不機嫌な顔でそっぽを向いてコーヒーを流し込んでいた。
「それでずっと機嫌が悪かったの?
あははは!おっかしいー!」
「ちょっとルナ!
笑い過ぎよ!」
「だってー。
ヒカゲ君がそんな事で嫉妬するわけ無い事ぐらいわかってるじゃない。
おかし過ぎて涙出て来た」
ルナは袖で涙を拭う。
だけどまだ笑いを堪えきれない。
「わかってるわよそれぐらい。
でも、ちょっとは期待してもいいじゃない。
最近ちょっと優しいんだもん」
リリーナが口を尖らせる。
ルナは更に笑いが込み上げて来るのを必死に堪えて、壁にかかっているリリーナのシルクのダウンを見ながら言った。
「確かにあなたが誕生日の予定を空けてると聞いた時は、まさか次の日にプレゼントとデートの惚気話を聞く事になると思わなかったわ。
てっきりヒカゲ君に誕生日なんて知らないとか言われて大喧嘩したって愚痴を聞く羽目になると思っていたのに」
「私だって誕生日は期待してなかったわよ。
でも、その分今回は期待しちゃったの。
あーもう!
なんかあいつに振り回されてばっかり!
また腹立って来た!」
「それにしても男って……
私もいるのに。
あははは!
駄目!やっぱり堪えられない!」
「いいじゃない!
嘘では無いでしょ!
てか、呼び出しておいて遅いじゃない!」
「まだ約束の時間ではないわよ」
コンコン。
扉のノックする音がしてナナリーが部屋に入って来た。
「来られました」
ナナリーの後ろから、見るからに上等な装いの男性が入って来る。
「二人共お待たせしたね」
その衣装にも負けない程の笑顔をリリーナに向ける。
「久しぶりだねリリーナ。
会えて嬉しいよ」
リリーナは一瞬で猫を被り、立ち上がって礼をした。
「ご無沙汰しております。
本日はお誘い頂きありがとうございます。
ソウル王子」
そう、彼はルナの一つ上の兄。
第三王子のソウル・ホロンだ。
「あれ?
ルナからは雰囲気がすっかり養子になる前に戻ったって聞いていたんだけど?」
ソウルは残念そうにリリーナを見つめる。
リリーナはルナを睨み付けるが、ルナはイタズラっぽく笑った。
「とんでもございません。
王子に対して失礼な態度を取るわけにいきませんから」
引きつった笑顔でリリーナが取り繕う。
「私も一応王女なのですけど」
それにすかさず茶々を入れるルナを再び睨み付けた。
「そんな寂しい事言わないでくれよ。
幼い頃に身分も気にせず遊んだ中ではないか」
リリーナは逆に二人に視線を向けられ、遂に折れた。
「わかったわよ。
これでいいんでしょ。
どうせ私は捻くれ者の腹黒女ですよ」
拗ねて椅子に乱暴に座るリリーナを見て、嬉しそうにソウルはルナの横に座った。
「ボクはそっちのリリーナの方が好きさ。
愛してる。
ボクと結婚してくれないか?」
「嫌よ。
私にはもう婚約者がいるの」
「宣教師学園を辞めてすぐに婚約したんだって?」
「ええ、そうなの。
だからあなたとは結婚出来ないの」
「ボクが求婚してすぐに学園辞めて婚約するなんて、当てつけにも程があると思うんだけど」
「それについてはお兄様が悪いですわ。
権力大好き公爵の時に求婚してたら、二つ返事でOKでしたのに」
ルナが嗜めるが、ソウルは首を横に振った。
「それだと完全な政略結婚だよ。
ボクはそんなの関係無しにリリーナと結婚したいのさ」
「残念だったわね。
私はあなたの事は気のいい親戚の兄ちゃんぐらいしか思って無いわ」
「今度その婚約者に会わせてくれよ」
リリーナの表情が一気に険しくなる。
それは思わずソウルが怯んでしまう程だった。
「何をしたいの?
言っとくけど、ヒカゲに何かしたら絶対に許さないから」
「おいおい。
ボクをなんだと思ってるんだ?
何もしないよ。
ただ惚れた女が選んだ男がどんな男か気になっただけだよ」
「ならいいけど。
でも会わせるタイミングなんて無いわね」
「それならありますよ」
ルナとソウルがそれぞれ1枚づつチケットをリリーナに渡した。
「今日の本題はこれです。
聖教祭の招待チケットです。
お二人で来てくださいな」
聖教祭とは女神ティオネの誕生を記念した祝日、女神の日に宣教師学園で開かれるお祭りである。
とは言え、やる事は文化祭と大差は無い。
普段は王子以外の男子禁制の学舎も、この日だけは解禁となる。
と言っても入れる者は限られている。
学園側が招待した貴族とその家族。
魔法剣士学園の特待生。
生徒それぞれ1枚だけ渡される招待チケットを持った者。
その3つのどれかに該当する者だけだ。
つまりこのチケットはかなり貴重な物なのだ。
しかし、それを見たリリーナは嫌そうな顔を見せる。
「嫌よ。
二度とあの学園になんか行きたく無いわ」
「あら、せっかく私がお兄様に声をかけてまで2枚用意してあげたのに。
人の親切は素直に聞く物ですよ」
「なによ。
ただの嫌がらせじゃない」
「とんでもない。
まだ公に出来ないですけど、今年の来賓にコドラ公爵が入ってますよ」
「まさか!
私が退学したのになんで!?」
「それだけじゃありません。
アークム男爵も入っています」
「そんな馬鹿な事……」
言葉で言いつつリリーナも何処か納得していた。
レイン・ヤマーヌ親善大使の訪問が大成功に終わった功績が評価されて日が浅い。
更にそれが予定してたよりもいい方の大成功だ。
それは公にされていないが、国王の評価は間違いなく上がっている。
国王の推薦があれば考えられなく無い事ではなかった。
「いいのですか?
来賓貴族の家族として入ったら自由な時間は少ないですよ。
社交的に行かないという選択肢が無い事はわかっていますよね」
ルナの意地悪な顔を向けられても、リリーナは悔しさを噛み殺すしか出来ない。
「ヒカゲ君だってそうです。
せっかく一緒に聖教祭に来てると言うのに、ろくに話す事も出来ずに終わってしまいますよ。
でもこのチケットがあれば別です。
王族から招待チケットを貰ってるとなれば、こっちを優先しても咎められる事はありません。
それどころか、ヒカゲ君とデートまで出来ますよ」
「そこに関しては、ボクは複雑な心境なんだけどね」
ソウルの一言など二人は聞いていない。
リリーナは葛藤していた。
ルナの言う事は全くと言って正しい。
正直苦痛だった思い出の方が多い宣教師学園には行きたく無い。
でもどうせ行かないといけないのなら、ヒカゲと二人っきりで行きたい。
だけど、ルナの思い通りにいくのは癪だ。
「別に私はどっちでもいいですわよ。
私もお兄様も誘う相手はいくらでもいますから」
「あんまりリリーナをいじめたらダメだよ」
またもやソウルの声は二人に届いていない。
「わかったわよ。
行けばいいんでしょ」
諦めてリリーナがチケットに手を伸ばしたのに、ルナがチケットを押さえた。
「感謝の気持ちが無いのですか?」
「チッ!
アリガトウゴザイマス」
「はい、良くできました」
ルナが手を離すとリリーナがひったくる様にチケットを奪った。
それを見て勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべるルナ。
その横でソウルが大きなため息を吐いて、二人に聞こえない様に独り言を漏らした。
「素直に寂しいから遊びに来て欲しいって言えばいいのに」
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