第7話
あーやだやだ。
なんで僕がオオクルの特訓に付き合わないといけないわけ?
せっかくここにいたらヒナタ達の稽古に付き合わなくていいのに。
さっさと彼にはリタイアして頂こう。
なんたって僕には神様パワーがある。
午前中と同じ特訓法でひたすら実戦方式。
オオクルは午前中の疲れが残ってるだろうし、どうせすぐにへばってくれるはずさ。
……自然育ちの健康優良児を舐めてたよ。
夕方まで休憩無しでとか体力化け物かよ。
それでも、心がバッキバキに折れるまでコテンパンにしてやった。
これで終わりのはずだ。
さあ、帰った帰った。
「師匠。
かーちゃんが今晩夕食をご馳走したいと言ってます」
オオクルがへばって大の字で倒れながら言う。
可哀想に。
母親に言われたから仕方無くなんだろうね。
こんなにコテンパンにされたら夕食誘いたく無いはずだからね。
ここは僕が空気を読んでやろう。
「いや、いいよ。
モグちゃんが作ってくれるから」
「神様も一緒にどうぞって言ってました」
「そうなの!?
やったー!
クミンの料理は絶品なんだよ」
モグちゃんは両手を上げて喜んでいる。
待てよ。
モグちゃんが行くって事は、僕の夕飯作ってくれないって事?
じゃあ行くしか無いな。
◇
里に下りると、馬車が数台族長の家の前に止まっていた。
お客さんが来てるみたいだ。
「領主の使いの方が来てるみたいだね」
僕の肩の上に座ったモグちゃんが馬車を指差しながら言う。
「領主と交流があるんだね」
「今の領主とはね。
前の領主はシオルグとの繋がりが強かったから、ここのエルフの子達とはむしろ敵対してたよ。
だからオラが結界を通さなかったんだ」
モグちゃんが得意そうに胸を張っている。
だけど、その結界は僕を通してしまう欠陥品だ。
「ふーん。
国境とか領地とかは人間が勝手に定めた物だから、エルフの里には関係無いと思ってたよ」
「そこは関係無いかな。
だけど、近くにいる隣人同士だからね。
交流するにしろ、敵対するにしろ、立場をはっきりさせとくに限るんだよ」
「なるほどね」
コミニティの中で生きる善人の生きる術なんだろう。
僕にとっては窮屈なしがらみに過ぎない。
でも、それが出来るからこその強さがある。
その強さがこの里を作ったのだろう。
紫色の髪は忌み子。
そんな風習に囚われた里と、その風習から脱却しようとした里。
同じエルフでも、ここまで違う。
人間もいろんな国のいろんな考えがあるのと同じ事。
前者の里は滅び、後者の里は豊かに暮らしている。
だからと言ってどっちが正しいとかでは無いのだろう。
僕は見た目だけで忌み子とか言うのはくだらないと思う。
だって、そっくりの顔の僕とヒナタだって全く逆の悪党と正義だ。
僕の方が世界にとってはよっぽど忌み子だ。
でも、シオルグのコミニティにとっては生き抜く術だったのだろう。
それが時代の流れに飲み込まれて消滅したに過ぎない。
「あれ?
もしかしてヒカゲさん?」
僕は後ろから声をかけられて振り返る。
「やっぱり!
お久しぶりです」
族長の家から出て来たレインが駆け寄って来た。
「やあ、久しぶりだね。
なんでここに?」
「それはこっちの台詞です。
こっちに遊びに来てるなら、声ぐらいかけてくれたら良かったのに」
そういや、レインはここの領主の娘だったな。
ん?待てよ……
僕はポケットからクシャクシャになった封筒を取り出して、レインに渡した。
「なんですか?」
「僕の両親から」
レインはその中の手紙を読んでから僕を睨んだ。
「ヒカゲさん。
ここに来る前に私の家に寄る様に言われてませんか?」
「……言われた様な気もする」
「なんで寄らなかったんですか?」
「忘れてた」
「もう!
今回はただの挨拶だけの手紙でしたから良かったものを!
内容によっては国際問題ですよ!」
「ニャー」
僕はカワイイ寝のポーズで誤魔化す。
「なんですか、それは?」
「かわいいでしょ?」
「確かにかわいいですけど、そんなのでは誤魔化せませんよ」
「ダメ?」
「ダメです。
しっかり反省してください」
「はーい」
おかしいな〜
僕なら一撃なんだけどな〜
やっぱり男の僕がやってもダメなのかな?
少しでも面白かったと思ったら下にある☆ ☆ ☆ ☆ ☆から、作品の応援をお願いします。
1つでも構いません。
ブックマークも頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。




