第5話
モグちゃんの魂胆は全くわからないけど、ルカルガに滞在する事になった。
宿泊施設が無いらしく、モグちゃんの掘った穴蔵にお邪魔する事になった。
中は想像以上の快適な空間だった。
何よりも渡された布団はスベスベフカフカ。
これがルカルガ産の最高級シルクと羽毛らしい。
途轍も無く気持ちいい。
よく考えたら、ここなら誰にも邪魔されずにダラダラゴロゴロ出来るではないか。
どうせ3日間する事無いし、この布団で思う存分にダラダラゴロゴロしよう。
「あの……」
シャノンが家に帰る前に恐る恐る穴蔵を覗き込んで話かけて来た。
やっぱり僕を見て怯えているみたいだ。
別に嫌なら話かけて来なくてもいいのにね。
「ごめんなさい!
オオクルがヒカゲさんの事を退治しようとしたのは私のせいなんです」
「ふ〜ん」
「私がヒカゲさんから怖い力を感じるって言ったからなんです。
だから悪い人と思い込んでしまって……」
「へぇ〜」
「でも、森の神様にヒカゲさんは大丈夫だって」
「そうなんだ〜」
「悪い人なのは悪い人だとは言ってましたけど……」
「そうだね〜」
「もしかして、気にしてなかったですか?」
「ないね〜」
シャノンは一安心したように胸を撫で下ろしていた。
話はもう終わりかな?
僕は早くゴロゴロダラダラしたいのだけどな。
「オオクルには帰ってからちゃんと話しておきますので。
今日はごめんなさい。
あと、助けて頂きありがとうございました」
「はいは〜い」
シャノンは深く頭を下げてから帰って行った。
これでようやくダラダラゴロゴロ出来る。
最高の3日間になりそうだ。
◇
朝日が昇ると動物達は活動を始める。
穴蔵の外では生き物の気配がしている。
だけど僕は最高の布団の中でまったりした時を過ごしていた。
そんな僕を訪ねて来る人が1人。
「おい、朝だぞ。
起きてるか?」
昨日の少年オオクルだ。
一体何のようだろう?
僕は今忙しいというのに。
「寝てるのか?」
そうそう。
寝ているんだ。
さあ、帰った帰った。
「なら、ここで待ってるか」
なんでだよ。
帰れよ。
入り口で座って待ってるなよ。
仕方ないな〜
起きるか。
「何かよう?」
「お、おう。
起きたのか」
オオクルは立ち上がってこっちくる。
「えーと、その、昨日はなんというか……
ごめん!
全部俺の早とちりだったんだ」
「別にいいよ」
「あと、あんなに酷いことしたのに助けてくれてありがとう」
「それも別にいいよ」
よし、これで用事は終わりだな。
さあ、今日はダラダラゴロゴロするぞ〜
ってあれ?
なんで帰らないの?
なんか言いたそうにもじもじしてるし。
「まだ何かあるの?」
「迷惑かけておいてこんなお願いするのはどうかと思うけど……」
なんか歯切れが悪いな〜
「何か僕にお願いあるの?」
「俺に剣を教えてくれ!」
「は?」
「俺ねーちゃんから聞いたんだ。
アークムの兄ちゃんは凄く強くなるって」
「それはエルザの見込み違いだよ」
「アンヌさんも、弟は凄く賢くて強いって」
「それはアンヌの気のせいだよ」
「俺、昨日確信したんだ。
2人の言う事に間違いないって」
「避けたり逃げたりするのが得意なだけだよ」
「でも、俺見たぞ。
森の神様の根を綺麗に切ってる所」
「あー……
たまたまだね」
「頼むよ!
俺強くなりたいんだ!」
オオクルが必死に頼み込んでくる。
その瞳は真剣そのものだ。
「里の誰も教えてくれないの?」
「まだ子供だからって、あんまり教えてくれないんだ。
だから俺はねーちゃんの見様見真似で特訓してるんだけど、あんまり上手くいってなくて……」
お手本があるとはいえ、我流であそこまでの剣筋を出せるなんてセンスあるな。
「シャノンと約束してるんだ。
ねーちゃんと同じ学園に一緒に通おうって。
でも、あの髪の色だときっと酷い事する奴が出て来る。
だから俺が強くなって、どんな奴からもあいつを守ってやれる男になりたいんだ」
眩しい。
なんて眩しいんだ。
そんな事を恥ずかしげもなく言えるなんて……
凄くいい子じゃないか。
尚更僕みたいな悪党に教わるなんてダメだ。
「僕なんかが人に教えられる事なんて何も無いよ」
「そんな事言わずに頼むよ」
「えー」
本当にめんどくさいな〜
でもエルザにはお世話になってるから、あまり無下には出来ないしな。
「もう仕方ないな〜
少しだけだよ」
はぁ、なんで次から次へと僕のダラダラゴロゴロを邪魔する事が起きるのかな〜
◇
オオクルの剣の稽古を見る事になったわけだが、僕はそんなに時間をかけるつもりは無い。
何故なら僕はダラダラゴロゴロするのに忙しい。
適当にアドバイスして終わらせるぞ。
「ではオオクル。
まずは構えてみてよ」
「はい!」
オオクルは剣を構える。
エルザと同じく隙のない完璧な構え。
本当に見様見真似だけとは思えない完成度だ。
「じゃあ次は打ち込んで来てよ」
「はい!
てやー!」
掛け声と共に昨日と全く同じ素直に剣がくる。
声出しも忘れていない。
「はい、ストップ」
「はい!」
オオクルはピタッと止まって気をつけをした。
昨日とは打って変わって超素直。
僕の少年時代とは大違い。
「君の剣は無駄な動きが無くて鋭い剣だよ」
「ありがとうございます!」
「でも、僕には当たらない。
何故でしょう?」
「わかりません!」
「まずは掛け声だね。
それのせいで攻撃のタイミングがバレバレ。
あとは攻撃の順番。
多分エルザの鍛錬のを忠実に再現してて、流れる様に綺麗な剣だけど次の攻撃が予想しやすい」
オオクルは雷に打たれた衝撃を受けた様な顔になった。
「流石師匠!
そんな事思い付きもしなかった!」
「よし、じゃあ後はそれを踏まえて特訓すればいいよ」
後は1人で出来るでしょう。
さあ、僕はダラダラゴロゴロするぞ。
「はい!
師匠お願いします!」
「え?」
なんで剣を構えるの?
「今日中に物にするぞ!」
「ちょい待った」
「なんでしょう?」
「なんで剣構えてるの?」
「はい!
俺はやる気満々です!」
僕はやる気なんてありません。
「師匠の胸を借りて、今日中に師匠に言われた事を克服してみせます!」
マジか〜
勘弁してよ〜
「いや、あとは――」
なんて純粋な目をしてるんだ。
そんな目で見られると断り辛いじゃないか。
「よし、わかった。
まずはイメージトレーニングだ」
「イメージトレーニング?」
「そう。
とにかく今言った事を頭の中でしっかりイメージする事」
「わかりました!」
オオクルはその場で正座をして目を瞑る。
うわー、素直過ぎるって。
仕方ない。
手取り早く終わらせる裏技を使おう。
その為にはあいつを使おう。
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