第4話
少し前を歩くシャノンについて森を奥へと進んでいく、僕の側でオオクルが僕に目を光らせている。
どうやら僕をこれ以上シャノンに近づけさせないつもりらしい。
「おい、お前」
オオクルが突然僕に話かけてきた。
「なに?」
「本当にお前アンヌさんの弟か?」
「そうだよ」
「全然似てねぇぞ」
「だって血は繋がってないからね」
「ふっ、やっぱりな」
オオクルが小馬鹿にしたように鼻で笑った。
この生意気具合が面白い。
「ねーちゃんがお前の友達ってのも嘘だろ」
「嘘では無いかな」
「いや、絶対嘘だね。
ねーちゃんがお前みたいな悪い奴の友達になるはずが無い」
「うんうん。
それは確かに不思議だ」
「お前、ねーちゃんの弱味でも握って無いだろうな!
ねーちゃん泣かす奴は許さねぇぞ!」
なんてお姉ちゃん想いのいい子なんだろう。
凄く微笑ましい。
「エルザに限ってそんな事無いよ。
きっと僕があまりに哀れだから友達やってくれてるんだよ」
「なるほど。
それなら納得できる」
オオクルはうんうんと大きく頷いている。
この子は声だけで無く、一つ一つの動作も大きいんだ。
元気で何よりだね。
「エルザの事を信頼してるんだね」
「は?当たり前だろ。
ねーちゃんは世界で一番強くて綺麗でカッコいいんだぜ!
お前、ねーちゃんが人がいいからって変な目で見てないだろうな?」
「変な目って、エロい目?」
「そ、そうだよ!」
まだウブなんだね。
顔が赤くなってる。
ちょいからかってやろう。
「エロい目では……
見てるね」
「なんだと!!」
「でもそれはエルザが綺麗だから仕方ないよ」
「それでも許さねぇ!」
「まあまあ、落ち着きたまえ。
女性はみんな美しくありたい物だよ。
そして僕達男性はどうしようも無くその美しさに惹かれてしまう」
僕はオオクルの耳元でシャノンを指刺しながら小言で続けた。
「君だってあの子に惹かれてるんだろ?」
「な、な、な、なんの事だ!」
顔真っ赤じゃん。
おもしろーい。
「そうなの?
なら僕がお持ち帰りしちゃおうかな〜」
「ふ、ふざけるな!
良いわけ無いだろ!」
「なんで?
別に君に関係ないだろ?」
「やっぱりお前は悪い奴だ!
ここで叩き切ってやる!」
オオクルは剣を抜く。
僕はすっと距離を取った。
さあさあ、面白くなって来たぞ。
「駄目だよオオクル。
もうちょっと森の奥に行ってからだって。
ここだとまた大人に見つかっちゃうよ」
慌ててシャノンが戻って来て耳打ちする。
しっかり聞こえてるけど。
「おっと、そうだった。
危うく卑劣な罠に引っかかる所だった。
おいお前!
今の無しだからな!
何も気にせずついてこいよ!」
「はーい」
ちなみに今向かっているのは森の神様の所ではない。
この子達は森の奥で僕を亡き者にしようとしている。
その作戦会議もしっかり聞こえていた。
一応シークレットらしいから気づかないふりをしてあげている。
「何をそんなに怒る事があったの?」
「な!?
なんでもねぇよ!
さっさと行くぞ」
だってこの子達面白いんだもん。
◇
更に奥に進んだ森の奥。
結構歩いた。
わざわざここまで歩いて来たのは、大人にバレ無い為と僕を疲れさせるの両方の意味があるらしい。
この子達情報だから間違いない。
作戦は完璧だと思う。
ただ大きな欠点が二つある。
一つはこの子達が劣勢になった時に誰も助けに来ない事。
もう一つは僕が一切疲れて無い事。
「ねえ、まだつかないの?」
あえて疲れたふりをしてあげよう。
さて、そろそろかな?
「間抜けめ!
かかったな!
お前はここで成敗してやる!」
オオクルが得意気に剣を抜く。
シャノンはこっそりと木々の中に消えていく。
このワンパターンが可愛らしい。
「行くぞ!
ていや!」
元気な掛け声と共に切り掛かってくる。
構えも様になってるし、鋭く速い剣だ。
だけど掛け声が全てを台無しにしてるね。
剣を振るたびに声を出すから剣が来るタイミングが丸わかり。
それに型にハマり過ぎた素直な剣だ。
素直過ぎて次の動きまでわかるから躱わすのが簡単。
まるで、攻撃パターンの決まったゲームのボスキャラみたい。
「やー」
またしても、せっかくの奇襲を声で無駄にしてるよ。
もう、可愛さが止まらないね。
横にずれて躱わすと、シャノンの剣は空を切る。
右足を出して足を引っ掛けてると、簡単にバランスを崩した。
「え?え?え?
わ、わぁ〜」
「危ない!」
前のめりに倒れたシャノンを、オオクルが剣放り投げで受け止める。
だけど受け止め切れずに倒れた。
二人の顔がぐっと近づく。
残念ながらマンガみたいにキスまではいかなかったけど、まるでラブコメのワンシーンの様に時が止まったみたい。
我に返った二人が慌てて離れる。
「ご、ごめんね。
重かったよね?」
「い、いや。
全然そんな事無い。
柔らかくて……
ってなんでも無い」
正しくラブコメじゃん。
初々しくてほのぼのするね。
僕の人生はラブコメとは無縁だからね。
凄く新鮮。
ずっと見ていたいし、なんかイベント起こしたくなる。
そんな僕の願いが届いたのか、突然地響きが鳴り響く。
「これは!
大変だよオオクル!
森の神様が怒ってる!」
「どうして!?
やっぱりあいつが悪い奴だからか!?」
やっと森の神様が仕事するのかな?
でも今追い出されると困るんだけどな……
足元の地面が盛り上がった瞬間に、僕は跳び上がる。
僕がいた地面から太い根っこが大量に突き出て来た。
もうちょっと遅かったら串刺しだったよ。
着地した地面もすぐに盛り上がり出したから走って逃げる。
次から次へと突き出る根っこを、華麗なステップで避けていく。
更に鞭のように迫り来る根っこも軽く躱わしていく。
「シャノン。
やっぱりあいつは悪い奴だから、森の神様が成敗しようとしてるんだ!」
なんで今更なんだろう?
二人をからかい過ぎたから怒っちゃった?
って、おいおい。
二人の地面も盛り上がってきてるよ。
僕はダッシュで二人の後ろに周りこんで、両脇に抱え込んで跳んだ。
二人がいた地面はすぐに根っこに埋め尽くされる。
「シャノン。
なんで俺達まで襲われたんだ!?」
「わかんないよ〜」
根っこの攻撃は更に激しくなる。
空中の僕ら目掛けて、複数の根っこが迫り来る。
足の裏に魔力の壁を作り、根っこを蹴って離れる。
「これ、本当に森の神様?」
「間違いないです」
「お前!
シャノンが嘘ついてるって言うのか!」
「違うよ。
でもなんで神様が君達を襲うのは変だろ?」
「何かの間違いだ!
お前だけ狙われてるんだ!
放せ!
お前と一緒にいると巻き添えくらうだろ!」
なるほど間違いか。
誰しも間違いはあるよね。
よし、二人は逃がそう。
僕は二人を真上に放り投げた。
「うわぁーーーー!!」
「きゃーーーー!!」
空中から二人の悲鳴が響く。
あれ?おかしいな。
根っこが二人を追ってるよ。
その根っこを切り捨ててからジャンプして、再び2人を両脇に抱える。
「怖かったよ〜」
「泣くなシャノン」
「神様ー。
なんでなんですかー」
「全部お前が悪いんだ!」
「よし、なら聞きに行こう」
「「へ?」」
「わからない事は本人に聞くのが一番だよ。
神様はどっち?」
「誰がお前なんかに――」
シャノンが泣きながら指を指す。
「って、シャノン!?」
「だってー」
「口閉じて無いと舌噛むよ」
その方向に二人を抱えたまま根っこの間をすり抜けていく。
近づくほど根っこの数が増えていく。
流石に二人を抱えながらポンコツを貫け無いな。
後で言い訳考えよう。
とりあえず今は神様とやらに会いに行かないと。
僕は気力で身体強化をして、次々に増える根っこの波を乗りこなしながら進む。
両脇の二人はずっと絶叫しっぱなしだ。
あーあ、せっかく言ってあげたのに何度か舌を噛んでるよ。
動物達が集まる大きな泉と一本の巨大な木がある開けた場所に辿り着くと攻撃が止まった。
「ここでいいの?」
二人が赤べこのように何度も頷く。
絶叫し過ぎて疲れたのかな?
降ろしてあげると四つん這いで泉まで行って、動物達と同じように顔を突っ込んで水を飲んだ。
「チャオ、よく来たね」
地面から小さなモグラが顔を出して僕に挨拶をした。
「やあ、君が森の神様?」
「そうだよ。
良くわかったね。
よっこいしょっと」
モグラは短い手足を使って地面から出て来て、体を振るわせて土を飛ばして大きく伸びをした。
「最近体が硬くてね。
土の中は窮屈だからね。
それとも歳のせいかな?」
そう言ってラジオ体操を始めた。
「一応神様やってるけど、気軽にモグちゃんって呼んでよ」
「じゃあモグちゃん。
シルクと羽毛が欲しいんだけど」
モグちゃんは深呼吸の途中で目を丸くして止まった。
「モグちゃんって呼んでくれたのはアクムの兄ちゃんが初めてだ」
「君が呼んでって言ったんだよ」
「そうなんだけどね。
神様やってるとみんな気軽には呼んでくれないんだ。
寂しい限りだよ」
「へぇ〜
で、シルクと羽毛が欲しいんだ」
「もっと気になる事無いの?」
「無いよ」
「なんで襲われたのか気にならない」
「別に、なんとも無かったし。
それよりもくれるのくれないの?」
「もしかして怒ってる?」
「怒ってないよ」
「なら、ちょっと聞いて欲しいかなーって思ってみたり……」
モグちゃんが上目遣いで僕を見る。
愛くるしくてカワイイー!ってなる所なのかもしれないが、残念ながら愛くるしくてカワイイ動物枠はヨモギとカナリアで埋まっている。
でも、機嫌を損ねて貰えないと困るしな。
めんどくさいけど聞くか。
「めんどくさいけど聞いてあげるよ」
「めんどくさいんだ」
「ごめんごめん。
本音が出た」
「アクムの兄ちゃんは正直だね」
モグちゃんは苦笑いをした。
「それで、襲った理由なんだけど……」
「……」
「ちょっとしたお茶目でした。
テヘッ」
「それでくれるのくれないの?」
「待った待った!
今の無し!
もう一回チャンスをください!」
モグちゃんが僕のズボンの裾を引っ張っておねだりしてくる。
一体この神様は何がしたいのだろう?
「わかったわかった。
もう一回だけだよ」
「ありがとう。
では改めまして。
ゴホン。
アクムの兄ちゃんの強さをあの二人に知って欲しかったんだ」
「ふ〜ん」
「これで絡まれる事無くなると思うよ」
「へぇ〜」
「あの二人がアクムの兄ちゃんを悪い奴だと思っているのは勘違いだからね」
「そうなんだ〜」
「アクムの兄ちゃんが悪党なのは間違い無いんだけどね」
「そうだね〜」
「本当に興味無いんだね」
「ないね〜」
モグちゃんは大きな溜息を吐いた。
「もういいよ。
それで、シルクと羽毛だったよね。
3日後にあげるよ」
「3日後。
じゃあ3日後に取りに来るよ」
「それはダメだよ。
ちゃんと寝床は用意してあげるから待っててよ」
「なんで?」
「なんででも」
3日後か……
ルージュ我慢出来るかな?
まあ、僕に選択肢は無いしな。
ルージュが我慢出来る事を期待しよう。
「最高級の物を用意するからさ。
ゆっくりしていってよ」
「わかったよ。
じゃあ美味しいディナーよろしくね」
「え!?
オラが作るの?」
「当たり前じゃないか。
ちゃんと寝床用意するって言ったじゃん。
なら快適な暮らしの為に美味しい食事も用意してね」
「オラ一応神様なんだけど……」
「だから?
美味しく無かったら帰るからね」
「わかったわかった。
頑張って作るよ。
ん?なんか立場逆転してない?」
「気のせい気のせい」
森の中の料理ってどんなの出て来るのかな?
楽しみだな〜
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