第1話
僕が国王に挨拶に行った事は翌日の朝刊では一面を飾った。
当然だよね。
なんたって僕なんだから。
一連の事件は悪夢の一夜と呼ばれ、新聞に書かれた絵はいかにも悪党らしく禍々しく描かれている。
素晴らしい出来前だ。
僕はココアを飲みながら新聞に目を通す。
ふと秘密基地から転送されてくる気配がした。
「あるじ〜」
半べそをかいて涙声のルージュが部屋に入って来た。
いつも眠そうな彼女が、今日は一段と眠そうだ。
なんか目の下にクマが出来ている。
彼女は元は思うがままに破壊を繰り返す災害と言われていた鬼人。
寝てる時とご飯食べる時以外はとにかく暴れていた悪党。
例の如くスミレが拾ってきた。
今は抱き枕効果で安眠出来てるらしく落ち着いているが、暴れ出すと僕でも手を焼くぐらいの力の持ち主。
純粋に力比べしたら、僕より強いかもしれない。
そんな彼女が寝不足で半泣きという事はかなりヤバイ。
もしここで暴れ出したら大惨事だ。
「どうしたの?」
僕はとにかく刺激しないように優しく聞く。
「これ見て〜」
ルージュが愛用している抱き枕を僕に見せる。
端っこがちょっと焦げている。
「焦げてるね」
「そうなの〜
焦げちゃったの〜」
「どうして?」
「美術館で戦った時に〜」
……それって僕のせいだよね。
なんか悪い事しちゃったな。
「これが気になって寝れないよ〜」
ルージュがいよいよ大泣きしそうな雰囲気になっている。
これはいよいよマズイ。
事態は一刻も荒そう。
「買いに行こう。
一緒に行ったあげるから、今すぐ新しいのを買いに行こう」
「イヤだ〜」
「なんで?」
「これ主がくれた物だから、売ってるやつじゃイヤだ〜」
よし。
なら主に新しい物を貰いに……主って僕?
そんなのあげたっけ?
「あるじ〜。
新しいのちょうだい〜
また新しいの作って〜」
作ったの?
僕が?いつ?
「ダメなの〜」
「ダメじゃないダメじゃない。
ちょっと見せてくれる?」
「うん」
ルージュから抱き枕を貰って見てみる。
素材はかなり上等なシルクの布に、中身も上等な羽毛を贅沢に使っている。
確かにこれは自作じゃないとえげつない金額になるだろう。
これが僕の手作りだというのは、ルージュの勘違いの可能性が低い。
思い出すんだ僕。
「もしかして出来ないの〜」
「大丈夫だよ。
僕を誰だと思ってるんだ」
「うん。
それ無いと主に抱きついて寝るしかない」
それだ。
そうか思い出した。
スミレが拾って来たての頃、ルージュが僕に抱きつかないと寝れないとか言って、ずっと離れないから代わり急場凌ぎで作ったんだ。
だから宝物庫にあった素材を使ったんだ。
つまりどっかから奪って来た物だ。
となると同じ物を見つけるのは至難のわざだぞ。
「ルージュ。
僕はこれを作る材料を集めに行くね。
秘密基地で待てる?」
「頑張る。
ギルドの主のベットで寝てていい?」
「いいよ。
そのかわりこの枕ちょっと切らしてね」
僕は抱き枕の焦げた端っこを切って、魔力の糸で縫い合わせる。
それを持って急いで寮を後にした。
◇
僕は学園から一番近い寮に駆け込んだ。
そしてシンシアの部屋のチャイムを押す。
「はーい。
どちら様ですか?」
シンシアがドアの隙間から顔を覗かせる。
動き易そうなラフな格好をしている。
そんなシンシアは僕の顔を見た瞬間、ドアを勢い良く閉めた。
そんなに慌てて閉めなくても。
普通にショックだ。
「な、な、なんでヒカゲがいるのよ!」
「いや、ちょっとアンヌに用事があって」
「今はダメ!
絶対ダメ!」
なんかとても慌てている。
一体何がダメなんだろう?
「しばらく待って!
今は本当にダメだからー!」
「何騒いでるの?」
隣の部屋からヒナタが顔を出した。
「あ!お兄ちゃんだ〜
どうしたの?」
「それが、ってそんな格好で出て来てはいけません」
ヒナタは大きめのTシャツに下着のパンツ姿だ。
「てへへ、忘れてた」
「ちょうど良かった!
お願いヒナタ!
後でお姉ちゃんと行くからヒカゲを連れて行って!」
「いいよ。
さあ、お兄ちゃんどうぞ」
僕は出て来ようとするヒナタを慌てて止めてヒナタの部屋の中に入る。
「お兄ちゃん。
私お風呂に入るからリビングでゆっくりしてて」
「わかった」
「一緒に入る?」
「入らない」
「つまんないの」
つまんなくて結構。
一緒に入ったら僕が社会的に死ぬじゃないか。
しばらくリビングで待っていたら、ヒナタが風呂から出て来た。
「さっぱりした〜」
さっきと服は違うけど、格好はTシャツにパンツのまま。
「ヒナタ。
いくら自分の部屋だからって、人がいるのにその格好は良くないよ」
「なんで?
お兄ちゃんしかいないよ」
「お兄ちゃんがいるからです」
「変なお兄ちゃん」
変なのはヒナタの方だと思う。
それともあれか?
僕を1人の人間だと認識してないのか?
確かに僕は人でなしだけど……
「それで、お兄ちゃんはシンシアになんの用事だったの?」
「実はアンヌに少し用事があったんだ。
なのにシンシアに顔見られた瞬間ドア閉められた」
「あー、それは仕方無いよ。
だって私達朝の鍛錬終わったばっかりだったから。
だから今頃きっとお風呂で念入りに体洗ってるよ」
「どういう意味?」
「だって汗臭いじゃん」
「……だから?」
「お兄ちゃんって時々バカだよね」
「なんて失礼な。
そこまで言うのなら、この少ない情報だけで理由を当ててみせるよ」
「いや、全然少なくないよ。
てか、ほぼ全てだよ」
僕は必死に考える。
見てろよ、悪党は謎解きが得意なんだ。
……ふう、わかったぞ。
「つまりシンシアは、朝から疲れているのに、見たくも無い僕の顔を見て身体中痒くなって、お風呂で念入りに体洗ってるんだ」
謎は全て解けた。
……あれ?
なんか言ってたら、涙が出そうになってきた。
謎は謎のままの方がいい時もあるんだな。
「ブブー!
全然違いまーす。
なんでそこまで捻くれた答えが出て来るのか不思議だよ」
ヒナタが心底呆れた顔で見てくる。
でも仕方ない。
僕は捻くれ者代表だからね。
しかし、そんなに酷い答えだったのかな?
まあ、いっか。
外れたのにとても嬉しいし。
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