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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
6章 悪党は世界の全ての敵となる
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第23話

鉤爪は館長室の前に転がっている塊を見つけた。


何かと近づいてみると、大きな抱き枕を抱いて寝ている女の子だった。


「こいつも眠らされているのか?」


全く騎士っぽく無く、場違いなネグリジェ姿の女の子は気持ち良さそうに寝ている。


あまりに気持ち良さそうなので、鉤爪も悪いと思いそっと通り過ぎようとした。


その時女の子の目がパッと開いて目と目が合う。

その瞬間鉤爪は強烈な悪寒が体中を駆け巡り、慌てて飛び退いた。


距離を大きく取ったにも関わらず心臓の鼓動はフルマラソン後のように早い。


思わず構えた両手の四又の短剣は意図せず震えていた。


2本角の女の子はむくりと起きるが、まだ眠そうに目を擦る。


「貴様何者だ?」


鉤爪の問いに欠伸をしてから女の子は答えた。


「ルージュはナイトメア・ルミナス。

第七色、節食のルージュ」


ルージュは糸に吊された人形のように抱き枕を抱きしめたままフワリと浮き上がる。


その目はまだトロンとしていて、今にも閉じそうだ。


ナイトメア・ルミナスの名を聞いて鉤爪の闘志が燃え上がる。

さっきまでの震えなどどっかに行ってしまった。


「覚悟!」


鉤爪ぎ突っ込んで短剣を突き出すが、ルージュはそのままの体勢で横にスライドした事によって外れる。

更に短剣を繰り出すが、同じようにスライドしてルージュに当たらない。


何度短剣を繰り出しても結果は変わらない。

まるで同極の磁石が反発するように擦りすらしない。


なのに、鉤爪が少し手を止めた瞬間に一気に距離が縮むと同時にルージュのデコピンが炸裂する。


鉤爪は首が千切れるかと錯覚する程の衝撃を感じた時には、床に倒れて天井を見上げていた。


「お前弱いのに無駄に頑丈。

めんどくさい」


ルージュの言葉に鉤爪の怒りが湧き上がる。

唸り声を上げながら立ち上がると短剣を魔力を込めた。

その魔力は真っ赤な炎となって短剣にまとわりつく。


「朱雀様より授かったこの炎。

これで焼き尽くしてくれる!」


鉤爪が短剣から大量の炎の斬撃を飛ばすが、さっきと同じようにルージュには当たらない。

しかし斬撃の一つがルージュの抱き枕の端を掠った。

抱き枕の端から小さな火が上がる。


ルージュは慌てて抱き枕の端を手でパンパンして消火する。


「あー!ルージュの枕が焦げた!」


でも小さな穴が空いて、少し焦げて黒くなっていた。

それを見たルージュが涙目になる。


「うぅ〜。

大事な枕なのに〜」


ルージュは鉤爪を真っ直ぐに見た。


「お前、嫌い」


1オクターブ下がった声と見開いたルージュの瞳に鉤爪に再び強烈な悪寒が走る。

だが今回は飛び退く暇さえ無かった。


気付いた時には首を掴まれて両足は浮いていた。

そしてルージュに投げ飛ばされて、壁をぶち破って外の街路樹に背中を叩きつけられた。


「あらら、申し訳ありません。

さっきの言葉は訂正します。

お仲間が来られました。

もう虫の息ですが」


鉤爪にルリのその声を最後まで聞く前に、近くに来たルージュによって片腕を引きちぎられた。


「――――!!!」


声にならない悲痛の叫びと、ブチブチと肉の筋が切れる音が重なって、もう片腕が引きちぎられる。


「お前、うるさい」


ルージュが手で口を押さえる。


あまりに急に目の当たりにした残酷な光景に、朱雀は助けに行く事が出来ず動けないでいた。


「どうやらあなたのお仲間はルージュを怒らせてしまったみたいですね。

ご愁傷様です」


ルリの言葉も朱雀には夢の中の出来事のように感じられる。


ルージュはそんな事お構い無しに、鉤爪のお腹に両足をめり込ませて体を固定する。

そして鉤爪の頭を首から引きちぎった。


残った胴体から血飛沫があがる。


引きちぎられた首は雑に投げ捨てられて朱雀の足元に転がった。


まだ何が起こったかわからない朱雀はぼんやりとその生首を見下ろす。


「ルリ〜。

枕焦げちゃった〜

どうしよう〜」


また目がトロンとなったルージュが泣きそうな声でルリに抱き枕の焦げた所を近づけて見せる。


「本当ですね」


「治らない?」


「これは治りませんね」


「そんな〜」


「代わりを買いに行きましょう」


「嫌だ〜

これ主がくれた大事な枕なの〜」


ついにルージュがポロポロ涙を流して泣き出した。


「そうですか。

それは市販品なんかでは話になりませんね。

マスターに新しい物を貰いにいきましょう」


「主、新しいのくれるかな?」


「大丈夫ですよ。

マスターは優しいですから」


「うん。

主にお願いする」


ルージュは泣き止んで頷いた。


「よくも……」


やっと現実に戻って来た朱雀が低く呟く。


「よくも私の同志達を!」


ルリとルージュを見る瞳は怒りに染められている。


「この国の為に働いてくれた同志達にどうか安らかな眠りを。

そして、この国に仇なす者達に正義の鉄槌を。

ドーントレス!ホロン王国に新しい夜明けを!!」


怒号と同時に朱雀の魔力が爆発する。

その魔力が朱雀の体を包み、炎の鎧へと変わった。

その高熱に周りこ空気が揺らいて見える。


「ドーントレス幹部朱雀。

この国の為、散っていった同志の為、お前達を焼き尽くす!」


朱雀両手と爪先からから炎の剣が伸びる。

炎の翼が生えて朱雀が宙に浮く。


そのままルリ達に急接近する。


ルリがステッキを突き出して魔力の壁作って朱雀の攻撃を受け止める。

しかし熱波がルリを襲った。

暑さに堪らず魔力の壁を飛ばして朱雀を遠ざける。


ルージュは一目散に逃げていた。


「ちょっとルージュ。

何故逃げるのですか?」


「これ以上枕が焦げるのイヤ」


「私は直接戦闘は苦手なのですが……」


「ここに来て仲間割れですか。

心配しなくてもお二人共消し炭にしてあげますよ」


朱雀が再びルリに襲いかかる。


「仕方がないですね」


ルリは地面をステッキで叩いて土の壁を作る。

朱雀は難なくそれを突き破るが、その先にルリの姿は無い。


後ろに回り込んだルリがステッキから仕込み刀を抜いて背中に突き刺す。


しかし熱により刀は溶けてしまった。


驚く間もなく襲いかかる朱雀の反撃。

ルリは後方に飛んで距離をとる。


ルリの魔力で出来た服も少し溶けて穴が空いていた。


「ただの熱量だけではありませんね。

周りの魔力も吸収して燃料に変えていますね」


「よく気づきましたね」


「あなたにそんな芸当できるとは思えません。

魔道具ですね」


「そうですよ。

だが気付いた所でどうすることもできんよ」


炎の翼を羽ばたかせ朱雀がルリに迫る。

服を修復しながらルリは朱雀を見下す。


「マスターが仰っていました。

魔力を吸収して炎の鎧に変える。

一見完璧な防御力を誇っているように見えても突破するのは容易い」


「出来る物ならやってみなさい!」


ルリが朱雀に目掛けて指を鳴らす。

すると上空から真っ直ぐに密度の濃い魔力の柱が朱雀を飲み込む。


「グオォォォォォォ!」


炎の鎧が魔力を燃料に激しく燃え上がる。

燃え切らない魔力が朱雀を圧迫し、その圧力に耐えきれず叫び声をあげた。


「防御力を超える攻撃力を与えればいいと」


ルリは満足そうに燃え盛る炎を見つめる。


「バーン」


ルリの声に合わせて炎は破裂して消えた。


「季節外れの花火でしたね。

やはりマスターの言う事に間違いはありません。

しかし、マスターのようなオーロラにはなかなかなりませんね」


ルリはシルクハットを脱いで、舞台を終えたかのように優雅に礼をした。


その時王都がオーロラに包まれた。

そのオーロラの美しさにルリは心酔する。


「ああ、マスター。

なんて鮮やかな魔力。

まだまだ遠く及びません。

遥か彼方にあなたはいるのですね。

でもいつか、いつの日にかマスターの高みまで登りたい。

どうか私を導いてください」


ルリもオーロラと同じ様に消えていった。

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