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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
6章 悪党は世界の全ての敵となる
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第18話

ヒナタ・アークム。

アークム男爵家の長女。

彼女は産まれながらにして、常人をも遥かに凌ぐ魔力を持っていた。


だが、その魔力によって彼女は産まれた瞬間から死と隣合わせだった。


赤ん坊には到底制御出来るはずの無い強大な魔力は常に体内で暴走していた。

それはいつ爆発してもおかしく無い爆弾以外の何物でも無かった、


特に寝ている時は魔力の暴走が激しく、常に苦しみと不安が襲う。

だけど赤ん坊だったヒナタは、泣き喚いて助けを求める以外に方法は無かった。


しかしそれはただの夜泣きとしか思われず、特に誰も気に留めなかった。


そんなヒナタを救ったのが他でも無い、隣に寝ていたヒカゲ・アークムだ。


ヒカゲは彼女の魔力の流れを制御する事で暴走を抑えていた。


まだ物心つかぬヒナタは状況を全く理解出来ていなかったが本能的に悟った。


お兄ちゃんの隣にいれば苦しみから解放される。

唯一安らげる場所はお兄ちゃんの隣だけなのだと。


その経験は物心ついてからも、経験則で体に刻み込まれていた。


だから幼き頃はヒナタはずっとヒカゲについて回った。

少しでも離れると不安で仕方なかった。


寝る時は必ずと言っていいほどヒカゲの隣にいた。

無理矢理離そうものなら大声で泣きじゃくった。


両親も乳母も兄妹の仲がいいに越した事が無いので、特に咎める事無く見守っているだけだった。


やがて魔力の使い方もある程度マスターして、天才少女と呼ばれるようになったヒナタはヒカゲの横にいる必要が無くなった。


だが、その頃にはヒナタにとってヒカゲは精神的支柱になっていた。


常にヒカゲを目で追いかけ、見えなくなれば探し、出来るだけヒカゲの側にいようとした。


だから両親も二人に同じ教育を受けさせて、ヒナタに安心を、ヒカゲには能力を与えようとした。


そうやって常に兄と共に過ごしたヒナタは誰よりもヒカゲを信頼し、尊敬していた。


そのヒカゲが周りから酷く言われるのが我慢ならなかった。


でも当の本人であるヒカゲは、特に気にすることもなく、常にのらりくらりと過ごしている。


もっと沢山の人に兄の凄さを知って欲しい。

自分なんかよりも凄いんだってわかって欲しい。


それがヒナタの願いだった。


もしかしたら自分が強くなれば本気になってくれるかも知れない。

その望みに賭けてヒナタは常に上を目指し続けた。


その成果を誰よりもヒカゲに知って欲しくて、ヒカゲに稽古の相手をおねだりし続けた。


この世界で誰よりもヒカゲと剣を交えたのは間違い無くヒナタである。


だからヒナタは気づいてしまった。


だった一回剣を交えただけで、ナイトメアの正体がヒカゲ・アークムであると。


信じたくは無い。

だけど間違うはずが無い。


一つ一つの細かい挙動が、ぶつかる視線が、微かに感じられる息遣いが、安らぎをくれる空気感が。

そして何より交えた剣から感じられる愛情が、同一人物だと物語っていた。


ヒナタはその確信とも言える疑念と葛藤し、涙を流して震えるしか出来なかった。


「ヒナタ!

大丈夫!?

何があったの?」


心配そうに声をかけるシンシアにも何も言えない。

ナイトメアとヒカゲと違う所を必死に探し続けるも、続けるだけ確信へと変わっていく。


「シンシア!

ヒナタどうしちゃったのよ!」


「わからない!

こんな事一度も無かった!」


震えが酷くなるヒナタに二人は右往左往するしか出来無い。

とにかく震えを抑えようとシンシアがヒナタを抱きしめる。


「しっかりしてヒナタ。

一体どうしたの?

ゆっくりでいいから話して」


優しくシンシアが語りかけてもヒナタは泣きながら震えているだけ。

一向に収まる気配がない。


やがてヒナタは顔を上げて周りをキョロキョロと見渡しだした。


「何を探してるの?」


「ねえシンシア」


やっとシンシアの言葉に反応する。

だけどシンシアの顔を見る瞳はシンシアを見ていない。

その目は焦点があっておらず、絶望が支配していた。


「お兄ちゃんは?

お兄ちゃんはどこ?

なんでお兄ちゃんは来てくれないの?」


譫語のように呟く。

もはやシンシアに尋ねているのかどうかさえ分からない。

シンシアの答えなど待つ気すらない。


「いつも来てくれるのになんで?

おかしいよ。

どうして?

どうしていないの?

ねえどうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?……」


「ヒナタしっかりして!」


パニックを起こして暴れ出すヒナタをシンシアとアイビーは二人で必死に抑える。


「嫌だ!嫌だ!嫌だ!

そんなの嫌だ!

お兄ちゃん来てよ!

早く来てよ!」


今来てくれたらまだ勘違いだと思える。

でもヒカゲの姿は一向見えない。


ヒカゲが来ない事がヒナタの疑念を更に確信に変えていく。

その事実にヒナタは押し潰されそうになっていく。


「お兄ちゃんはどこ!?

どこにいるの!?

なんでここにいないの!?

私はここだよ!

早く来てよ!

早く!早く!早く!早く!早く!早く!早く!早く!……」


昔から漫然と感じてた不安。

いつか自分の前からお兄ちゃんがいなくなる。

その不安が一気に爆発した。


「ヒナタ。

大丈夫。

あいつなら来るから。

いつも来てくれたから、今日も必ず来るから。

だから落ち着いてよ」


「そうよ。

アークム兄は言ってたわ。

世界中の何処にいても必ず迎えに来るって言ってたわ」


「でもいないの!

なんでいないの!?」


二人の言葉は何の気休めにもならない。

ただここに無いヒカゲの姿を探し続ける。


その瞳から大粒の涙が流れ続けて、視界がぼやけている。


「もう私の事どうでもいいの?

そんなの嫌だ!

嫌だ!嫌だ!嫌だ!

お兄ちゃん側にいてよ!

ずっとずっと私の側にいてよ!」


ヒナタは泣き喚く。

赤ん坊の時と同じように。

苦しみと不安に襲われていたあの時のように。


「お兄ちゃーん!!

早く来てよお兄ちゃーん!!!」


「はいはい。

そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえるよ」


ヒナタが世界で一番安心出来る声。

その声の主の胸にヒナタは飛び込んだ。

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