第15話
美術館の閉館まであと1時間程度。
僕もそろそろ動き出す時間だ。
僕はダラダラしてたソファーから立ち上がって伸びをした。
「どこに行くのですか?」
テーブルで紅茶を飲んでいたアンヌが僕の方を見る。
何か強い意志が瞳に宿っていた。
「ちょっと散歩」
「それは今から行かないといけませんか?」
「今夜は綺麗な満月が見れそうだからね」
「私が行かないでと言ってもですか?」
どうしたのだろう?
なんでこんなに食い下がってくるんだ?
「どうしたの?
ちょっと散歩に行くだけだよ」
「もし行かないでいてくれるなら、私は何でも言う事聞いてあげます」
「本当?
なんでもいいの?」
「ええ、なんでも」
「ヤッター。
じゃあ今日はアンヌと同衾だね」
「わかりました」
「え?」
今なんて言った?
アンヌが立ち上がって僕の手を引っ張って寝室に向かう。
そのまま自分が下になるように僕を引きずり倒した。
四つん這いになった僕の下で、仰向けのアンヌが僕を見つめる。
「私は初めてなので優しくしてくださいね」
「ちょっと待って。
どうしたの?」
「どこまで脱いだらいいですか?」
そう言って上着のボタンを外し始めた。
「アンヌおかしいよ。
こんなのダメなんでしょ?」
「ええ、ダメです。
だけど、これでヒカゲ君が危険な事しないなら構いませんよ」
「なんの話をしてるの?」
「ヒカゲ君。
あなたは強くて賢い子です」
突然何を言い出すの?
僕には全然理解出来ない。
「私はあなたのお姉ちゃんです。
あなたが何かをしようとしている事はわかっています。
それがとても危険な事も分かります。
あなたさえ止める事が出来たら、シンシアもヒナタちゃんも、エルザも、みんな危険な目に遭う事も無くなる。
そんな気がします。
だけど私には止める力はありません。
私が出来るのはヒカゲ君に行かないでとお願いする事だけ。
その為にヒカゲ君が求めるなら私は抱かれても構いません」
アンヌは冗談でも揶揄いでも無く本気で言っていた。
アンヌは今日の為にここに泊まると言い出した事に今更ながら気が付いた。
一体どこまで知っているのだろう?
それは僕にはわからない。
知る術すら無い。
僕に出来るのはこの場を取り繕う事だけ。
「ごめんねアンヌ。
冗談なんだ。
本当にする気なんて無いんだ。
ただアンヌの恥ずかしがる顔が見たくて意地悪言っただけなんだ」
「わかってますよ。
だけど今夜だけはいいのですよ。
私はヒカゲ君なら後悔しません」
でもアンヌの顔は必死そのものだった。
こんなアンヌの顔なんて見たくない。
僕は体を起こしてベットから降りる。
アンヌも上半身だけ起こして僕を見た。
「やっぱり行ってしまうのですか?」
「ううん。
散歩は辞めるよ。
今夜は家にいる」
「本当ですか?」
「うん。
だからアンヌもそんな思い詰めた顔しないでよ。
リビングにいるから、服を直してから来てよ」
僕は先にリビングに戻る。
息をするように嘘を吐いて。
「あとは頼んだよ」
「わかったよ。
任せて」
リビングにいたもう一人の僕に声をかける。
もちろん偽物。
完全に僕に変身したミカンだ。
僕はベットルームからアンヌが出て来る前に部屋を後にした。
部屋を出てすぐの上空に他のナイトメア・ルミナスの6人が待っている。
「忙しいのに集まってもらって悪いね」
「いいえ、みんな好きで来ているわ」
スミレが僕に気を使ってか、嬉しい事を言ってくれる。
「無粋な奴らも動き始めた。
こっちは私達に任せて」
「頼むよ。
じゃあ行こうか」
「ええ、全て準備は整っている」
僕はナイトメアスタイルを身に纏う。
そして仮面と帽子を装着した。
「今宵は王都全てを悪夢に誘おう。
この世界に俺達の名を知らしめる悪夢を」
僕は一度だけ振り返って部屋を見た。
ほんのちょっぴりだけ心が痛かった。
だけど僕は行かなければならない。
今夜の宴は僕が用意した物だから。
これが僕の決めた絶対的な美学。
悪党の美学なのだから。
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