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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
6章 悪党は世界の全ての敵となる
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第13話

美術館は最後の週末だけあって大きな賑わいを見せていた。

多くの人の目的はもちろんロビンコレクション。


一度は戻って来た国宝が、明日の閉館後には再び無くなるかもしれない。

その話題性が次から次へと人を呼んでいた。


そんな中、あえて他のブースをエルザとアンヌは見て回っていた。


「いや〜、ナイトメアのおかげで護衛の仕事は貰えるし、タダで美術館を見て回れるし、他のブースは比較的空いてるし、いい事尽くめだな」


「コラッ!

そんな不謹慎な事言ってはダメですよ」


軽口を叩くエルザにアンヌが叱った。

エルザは軽く流して言い返す。


「良く言うよ。

年頃の男の子家に泊まるアンヌの方が断然不謹慎だよ」


「ヒカゲ君は弟です」


「ヒカゲ君はそう思ってるかな〜

一週間もいたら何か間違いが起きるかもよ」


「起きません!」


アンヌははっきりと言い切るが、エルザはニヤニヤを辞めない。


「ヒカゲ君は男の子だよ」


「ヒカゲ君はいい子だから大丈夫です」


「いや、いい子かどうかは関係無いと思うけど……

それにしても、なんでヒカゲ君の所なんだい?

ヒナタやシンシアの所もあるし、私と同室でも良かったんだよ」


「それは……」


アンヌは言い淀む。

それを見てエルザはまたニヤつく。


「もしかしてアンヌの方から間違いを起こそうと――」


「してません!」


「ムキになる所が余計に――」


「違います!

明日の事ですよ」


「明日?」


「そうです。

エルザは大丈夫なのですか?

相手は凄く強いんでしょ?」


「なんだ、心配してくれてるの?」


「当たり前です。

いつも危ない事ばかりで心配です」


「まあ、一応剣聖と言われてるからね」


アンヌが真剣な眼差しでエルザを見る。

その真っ直ぐな視線にエルザは照れ臭くなってしまった。


「ん?明日の事とヒカゲ君がなんか関係あるのかい?」


「ヒカゲ君は強くて賢い子です」


「そうだね」


「だからです」


「ん?ごめん。

わからない」


思いっきり頬を膨らませたアンヌにエルザはたじろぐ。

それでもわからない物はわからないので、苦笑いするしか無かった。


「わからないならいいです」


「拗ねるなよ」


「私は弟も妹も危ない事に首を突っ込んで欲しくありません」


「うんうん、それは分かるよ」


「なのにあなたときたら、シンシアとヒナタちゃんを巻き込んだでしょ!」


「な、なんでそれを……」


アンヌの指摘にエルザはドキッとした。

先日パジャマパーティーでうっかり明日の事を話してしまったのだ。

もちろん、あの二人が静観するはずも無かった。


「危ない事はしてはいけません!

怪我でもしたらどうするのですか!」


「ごめんって。

あの二人には大人しくしとく様に言っておくから」


「エルザもです!」


「え?私?」


「エルザも大人しくしといてください」


「いや、それは出来ないよ。

私は仕事だからさ」


「なら絶対に怪我をしないでください」


「戦うのにそれは約束出来ない……わかったわかった、善処するよ」


また一段と頬を膨らませて泣きそうな目で見るアンヌにエルザは慌てて言い直す。

だけどアンヌは納得しない。


「善処だけでは駄目です。

約束してください」


「それは難しいって」


「や・く・そ・く」


「……約束します」


「はい、いい子です」


アンヌはにっこり微笑んでエルザの頭を撫でた。


「ねえ、アンヌは私を何歳だと思ってるんだい?

君よりも6つも歳上なんだよ」


「関係ありません。

エルザはシンシア達と精神年齢一緒じゃないですか」


「それは否定出来ないけど……」


果たして自分の精神年齢が低いのか。

はたまたアンヌの精神年齢が高いのか。

エルザには追求する度胸は無かった。



グラハム訓練場で剣を構えて立っていた。


彼は一度対峙したナイトメアをイメージの中で作り出す。

短く息を吐いたグラハムが動く。

目にも止まらぬ速さで剣が空を切った。


その剣はイメージの中のナイトメアを捉えていた。

肩で息をしながら剣を収める。


パチパチパチ


訓練場の入り口で拍手が聞こえた。


「相変わらずの腕前だな」


拍手の主はタイガ・カットバー伯爵。

ダイナの父だ。


「どうした?

こんな所に顔を出すなんて珍しい」


「お前の事だから、明日の事で根詰めてると思ってな」


グラハムとカットバー伯爵は騎士団入団の同期だ。

身分は違えど、同じ正義を志して語り合った友人だ。


伯爵は任務中の怪我が原因で退役を余儀なくされたが、今でも親交が深い。


「うちの馬鹿息子が参加出来なくてすまないな」


「ダイナは良くやってくれている。

今回は偶々怪我をしていただけだ。

あまり無理をさせてお前の二の舞にさせたくは無い」


「確かにな」


グラハムの言葉に伯爵は、少しぎこちない動きのする自分の左手でメガネの位置を直した。


当時に今程の医療技術があれば、伯爵はまだ現役でいられたかもしれなかった。


「でもいくら休養中とはいえ、アイビーちゃんとデートはいかがな物かと……」


「いいじゃないか。

ダイナはお前と一緒で浮いた噂一つ無かった堅物だ。

こう言う時ぐらい羽を伸ばさせてやれ」


「お前の娘だぞ?

何か間違いがあったら申し訳無い」


「ダイナなら大丈夫だろ。

それにアイビーもダイナを好いている。

どこの馬の骨とも分からん奴より全然いいさ」


「お前は寛容過ぎるんだ」


「お前は堅物過ぎるんだよ」


お互い笑いあう。

二人共、昔から変わらぬこの空気感が心地よかった。


「今回の件が片付いたら少しは休暇が取れるのだろ?

一緒に一杯やろう」


「それはいいな。

久しぶりにお前と朝まで語り合うか」


伯爵の提案にグラハムは頷いた。


「グラハム。

ここだけの話どうなんだ?」


「何がだ?」


「惚けるなよ。

明日の相手だよ。

勝てるのか?」


「ああ、勝てる」


グラハムは言い切った後で渇いた笑みを漏らす。


「と言いたい所だが、正直厳しい」


「お前がそう言うという事は相当だな」


いつもは弱気な事を殆ど言わないグラハムから出た弱音に、伯爵の顔にも緊張が走る。


「ナイトメア・ルミナスの噂は最近ちらほら聞く。

そのどれもが誇張された絵空事のような内容だ」


「どんな噂だ?」


「空を自由に飛べる。

言葉だけで相手を死に至らしめる。

突然現れて、突然消える。

など、まるで信じられない事ばかりだ」


「その殆どが本当だと思った方がいいな」


「まさか」


伯爵は冗談を言っていると笑い飛ばそうとしたが、グラハムの顔を見て辞めた。


「グラハム。

本当に大丈夫なのか?」


「今までに無い過酷な闘いになるかもしれん。

だが勝つさ。

いや、勝たねばならない。

それが私達の責務だ」


グラハムは正義の心を奮い立たせる。

熱い炎を心に秘めて。



喫茶店の扉が開き、カランカランと音を鳴らしながらネズカンが入店する。


「いらっしゃいませ。

いつもありがとうございます。

予約の席は奥に用事しています」


「相変わらず可愛いウェイトレス姿じゃな」


ネズカンはいつものウェイトレス姿のサラを褒めるのを忘れない。

だけど、サラは営業スマイルで返す。


「ありがとうございます。

ご注文はいつものでいいですね。

ではごゆっくりどうぞ」


軽くあしらわれる事に一切動じずに、奥の個室へと入った。

そこにはスミレが待ち構えていた。


「待っていたわ」


「美人に待たれるとは、儂もまだまだ現役じゃの」


「あなたにやって貰いたい事がある」


スミレはネズカンの言葉を無視して話を進める。


「つれないの〜。

まあよい。

美人のお願いを無条件で引き受けるのは色男の必須条件だからの」


「繋いで欲しい人がいるの」


「ほう?

それは誰かの?」


ネズカンがなんか嬉しいそうに尋ねる。

スミレが一息置いてから言った。


「あなたに私達の依頼を託して来た奴よ」


「ガハハハハ。

もうそれしきの事では驚かんぞ。

それで、受けてくれるのか?」


「依頼内容は?」


「もうご存知なんたろ?」


「差異があるといけないでしょ?」


「違いない」


ネズカンは大笑いをして話を続ける。


「セキトバ遺跡の神殿に隠された財宝への謎の解明。

そして、その財宝を王国に渡して欲しい」


「約束出来ないわね。

彼次第。

まあ、彼は大いなる力なんて物には興味ないでしょうけど」


「なら例の彼が必要無いと思った時だけでいい。

他に渡らないように王国に渡して欲しい。

受けてくれるか?」


「前に言ったでしょ?

報酬次第よ」


「ロビンコレクションを渡してもいい」


ネズカンの提案にスミレは鼻で笑った。


「それに何の価値があるの?

渡して頂かなくても勝手に奪うわ」


「やっぱりそうなるか」


この答えを予想していたネズカンは苦笑いを浮かべる。


「なら何ならいい?」


どうせ金貨を並べても意味がないとわかっている以上、素直に聞くしか無かった。

それが足元を見られる行為だとわかっていてもだ。


「そうね……

大した依頼じゃないから安くしとくわ。

報酬は――」


「!?」


スミレの提示した報酬に、今日は何があっても驚かんと決めていたネズカンも驚きを隠せなかった。


「それに何の意味がある?

むしろ君達にとってはマイナスではないのか?」


「彼が望む事だからよ。

だから決してマイナスなんかじゃないわ」


「本当にそんな事でいいのか?」


「言ったでしょ?

安くしとくって」


「……わかった」


ネズカンは何か裏が無いかと考えた。

だけど、すぐに無駄だと気付く。


彼女達にはそんな小細工する必要がない程圧倒的な力がある事を理解していたからだ。


「しっかり依頼主の弟に伝えてね。

ヴァン・ホロン」


「ああ、国王陛下には伝えておくよ。

友人のネズカンとしてな」

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