第10話
僕の知ってるクレープ屋って、公園にあるキッチンカーみたいなの。
あの目の前で焼いてくれるの美味しいよね。
僕は断然アイスが乗ってるのが好き。
だけど、僕が連れて来られたのは想像と全然違った。
まず店構えが違う。
制服でいいって言われたけど、逆に制服で良かった。
私服だとドレスコードで弾かれるよ。
そして値段にびっくり。
0が二つぐらい違う。
一体どんなクレープが出てくるのか想像もつかない。
「ここはクレープ専門店なんですよ。
お好きなクレープを召し上がってくださいな」
「こんなにあると迷っちゃうね。
5つは決まったんだけどね」
「5つも食べるんですか!?」
ルナが驚いて口に手をあてる。
「大丈夫大丈夫。
お金なら足りるから」
「いえ、お支払いは私がしますが……」
「え?奢ってくれるの?
なら20個ぐらい食べようかな」
「ここのクレープはボリュームありますよ」
「そっか〜
なら、とりあえず5つ食べてから考えるね」
僕はルナが止めるのを無視して5種類のクレープを注文した。
ちなみに僕が食べ切れないって事はありえない。
何故なら僕はやろうと思えば一瞬で消化して力に変換出来る。
こういう珍しい物を食べる時に、お腹いっぱいで食べれないって事があったら悲しいから身につけた技だ。
「楽しみだな〜」
注文を終えた後もメニューに釘付け。
聞いた事無いクレープが沢山ある。
こんな店、今の僕一人では入れない。
しっかり堪能しないと。
「そんなに喜んで頂けたなら、連れて来てよかったですわ」
「こんな高級店、縁が無いからね。
本当に奢ってくれるの?」
「ええ、今日はお礼ですから」
「お礼?」
「遅くなって大変申し訳無いのですが、セキトバ遺跡で助けて頂いたお礼です」
僕は分からず首を傾げる。
一体なんの事だろう?
全然心当たりが無い。
「覚えて無いのですか?」
ルナが信じられない目で見る。
そんな目で見られても心当たりがないものは無い。
「ドーントレスに捕まった時の事ですよ。
リリーナと一緒に助けて頂きました。
それにロビンコレクションも回収して頂きました」
「ああ、あれね。
そういやルナも居たね」
巨大ガーゴイルとの戦闘しか記憶に無かったよ。
あれは楽しかったな。
「ヒカゲ君はなんだかんだでリリーナの事が好きなのですね」
「ん?なんでそんな話になるの?」
「だってリリーナを助けた事しか覚えて無かったのでしょ?」
「違うよ。
リリーナを助けた事すら忘れてたよ」
「照れなくていいですわよ。
リリーナには言いませんから。
だって負けたみたいですし」
なんか途轍も無い勘違いしてるっぽいけど、目の前に出されたクレープの豪華さにどうでも良くなった。
一口食べて感動したね。
これはいつも食べてるクレープとは別物だね。
これなら他のクレープも楽しみだ。
「これはルナ王女。
こんな所でお目にかかれるとは光栄です」
僕がクレープを食べていると、ダンディなおじさんがルナに声をかけた。
「ご機嫌よう。
アカイト館長。
今日は美術館の方はよろしいのですか?」
「さっきまでここで商談がありまして、これも立派な仕事ですよ」
「それは失礼いたしました」
リリーナに負けず劣らない猫被り。
疲れるのに凄いね。
「こちらの男性は?
まさかボーイフレンドですか?」
「こちらはリリーナ嬢の婚約者ですわ。
大きな恩がありまして、お礼にお食事にお誘いしたのです」
「ルナ王女のお誘いなんて羨ましい限りですね」
「相変わらず口がお上手ね」
ああ、めんどくさい会話。
僕には真似出来ないよ。
「ちなみ彼が私の絵を褒めてくれた人です。
あの絵は彼に差し上げるつもりです。
そのように段取りお願いしますね」
「もちろん構いませんが、本当によろしいのですか?
高値で買い取りたいと言う方がいましたが」
「構いません。
先にお渡しする約束をしていましたので」
「わかりました」
館長は露骨に残念そうに了承してから店を後にした。
「いいの?
値段ついたんだろ?」
「いいのですよ。
私は画家ではありません。
それに、どうせ王女の絵だから欲しいだけですよ」
「なら遠慮なく貰うね」
「はい、そうしてください。
後日届けさせますね」
やったね。
あの絵は部屋に飾るんだ。
正規で手に入れた絵だから、堂々と飾れるぞ。
「さっきのは美術館の館長?」
「そうですわ」
「なんかやり取りが硬いね。
毎シーズンの展示に関わっているんでしょ?」
「ええ。
彼はビジネスパートナーとしては優秀ですわ。
でも、人間性に関しては……
なんと言うか、裏に恐ろしい顔が見え隠れしているみたいで」
確かにそれは僕も思った。
あいつは間違いなく裏の顔がある。
だけどそれはあれだ。
「同族嫌悪だね」
「やはり発言に気をつけた方がいいのはヒカゲ君の方ですね」
「なら僕に関わらない方がいいよ」
「それは出来ません」
なんでだよ。
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