少女と花柄の傘
その日は朝から雨が降っていた。
夕方の六時過ぎ。
私は勤めを終え、いつも降りる駅から自分の住むマンションへと歩いていた。
その帰り道の途中。
高架道路下の線路わきの歩道を歩いているときだった。
背後からゴォーと大きな音が鳴り響き、電車が私を追い抜き始めると同時に、傘を持つ手に傘以上の重さが伝わってきた。
それは何かが、傘の上にのしかかってくるという感覚だった。
――えっ、何で?
あわてて傘に目をやったが、傘の上に何かが乗っているようなことはなかった。
だったら電車からの風?
電車の車体が巻き起こす風圧かとも思った。
でも何度もここで電車と遭遇しているが、これまでこんなことは一度も感じたことがなかった。
依然として、傘の上から強く押されるような感覚が続く。
電車の最後尾の車両が私の横を走り抜けた。
するとそのとたんに傘は一気に軽くなり、もとの重さに戻っていたのだった。
――どういうこと?
私は頭が混乱するとともに身体がすくんで、しばらくその場から動けないでいた。
数日後。
高架道路下であった不思議なことを親しい友人に話して聞かせると、友人はこれは自分もひとから聞いた話だと言って、あの高架下のことを話してくれた。
それは……。
あの場所にまだ踏切があった頃。
ある雨の降る日の夕方、一人の少女がその踏切で事故に遭って亡くなった。
風で飛ばされたお気に入りの傘を拾おうと線路敷に入り、そのとき背後から走ってきた電車に気づかなかったらしい。
それ以来。
その踏切では事故が頻繁に起こるようになり、何人もの人が犠牲になった。しかも犠牲者はなぜかみな若い女性だったという。
それで踏切のあった場所の道路が高架になった。
そして……。
今も雨の日は、あの高架下を電車が通ると、線路わきの歩道を歩く女性がさしている傘が重くなる。それもどうしてか、花柄模様の傘をさしているときに限ってだという。
実際、あの日。
私は買ったばかりの花柄の傘をさしていた。
あの高架下。
今も少女の霊がいるのだという。
ただそれはいるだけで、花柄の傘を見ると自分の傘だと思って寄ってくるだけだともいう。