話題のカールトン商会へ行く
あけましておめでとうございます!
話は相変わらずのんびり進んでいますが、今年もよろしくお願いします
アリッサ嬢がカールトン商会へよく行っていると聞いたため、ウィリアムに頼み込んで街へ降りた。
髪の色を変えて変装する。商会へ行くのは初めてなので、それだけでわくわくしてくる。僕もアリッサ嬢に染まってきたかも知れない。
「寄るのはカールトン商会だけですよ。他は駄目ですからね」
ウィリアムがしつこく念を押す。ウィリアム以外にも護衛は付いているのに、心配性な奴だ。
───カールトン商会は賑わっていた。
様々な調味料やお茶、お菓子、ドライフルーツ、ジャムなどが売られていて面白い。店で買い物をしたことがないので、商品がたくさん並ぶ棚を見るだけで圧倒される。この中から、自分が好むもの、欲しいものを探すなんて大変ではないだろうか。でも楽しいだろうな、とも思う。
それにしても……こういう食料品関係は、普通は料理人が買いに行くものだから、王都の繁華街で店をしても、と思っていたのだが、案に相違して客層は貴族階級ばかりに見えた。
「……オススメなんです」
アリッサ嬢の声が聞こえたので、そちらを覗いてみる。
店員と同じ黒のお仕着せを着たアリッサ嬢が、初老の男性を前に瓶詰めの説明をしていた。
???
アリッサ嬢が売り子をしているように見えるのだが、見間違いだろうか?
ウィリアムも目をぱちぱちさせる。
「この秋の目玉新商品なのに……」
アリッサ嬢が口を尖らせながら何か言い、相手は楽しそうに笑った。
その様子はとても親密そうだ。なんだかモヤモヤする。僕は、今まで彼女とあんな風な雰囲気で会話したことがないのに。
「アリッサ嬢」
呼び掛けたら、彼女は振り返って目を丸くした。すぐにニッコリ笑う。
「いらっしゃいませ、すこし おまちくださいませ」
……店員ぶりが板に付きすぎていないか?
アリッサ嬢が実は平民で商人だと言われても納得できるくらいじゃないか。火龍公爵、自由にさせすぎでは。
アリッサ嬢は先ほどの男性に向かい、さっと商談をまとめて他にも指示を出したあと(完全にベテラン店員だ)、僕とウィリアムの元にやって来た。
何故、店員をしているのか聞いてみたら……「どうして、公爵家のむすめが店員をしてはダメなのですか」と真顔で返された。
……うん、確かにやってはいけないという話はない。ない、けど。
アリッサ嬢が僕より一つ年下が信じられなくなってきた。考え方も行動も、そこらの大人より先へ行っているじゃないか。
僕が唖然としている間に、ウィリアムがアリッサ嬢と話し出して、ジャムの試食をすることになる。
試食という手法は、商品購入で迷っている際、とても参考になる方法だ。やはりというべきか、アリッサ嬢が提案して始めたものらしい。
「こういう食料品は料理人が買いに来るものだと思っていましたが、そうでもないんですね」
ウィリアムがジャムを乗せた一口サイズのパンを頬張りながら、僕と同じ疑問を口に出す。アリッサ嬢は頷いた。
「もともと当店は、ぞうとう用の外国のめずらしいお菓子やドライフルーツからはじめました。食にこだわりのある方をターゲットにしていますので、家令にまかせず、侯爵さまや伯爵さまご自身で商品をみにくることが多いんですよ」
「なるほどぉ」
こだわっているだけあって、どのジャムも美味しかった。勧められたものを全部買ってしまったが……今後、定期購入してもいいかも知れない。季節ごとに商品の入れ替えがあるし、店頭のみ販売の限定品もあるらしいので、また買いに来てしまいそうな予感がする。見事にアリッサ嬢の策略にはまってるなぁ。




