火龍公爵といろいろ話した
特別な話展開もなく、平常運転で年越しです。
皆様、良いお年を!
登城していた火龍公爵をうまく捕まえることが出来たので、アリッサ嬢を怖がらせてしまった話をして、謝罪した。
だが、火龍公爵は驚いたように目を見張った。
「ほう。あれは、怖い話を怖がりましたか」
「……どういう意味です?」
「以前、領の森へ勝手に行かぬよう、人を喰う魔物の話をしたのです。そうしたら、ぜひ見たいと言い出し……それがもう、止めるのが本当に大変でして……」
「そ、そうなんですか」
なんだろう、目を輝かせて森へ走ってゆく様子が簡単に思い浮かんでしまう。
「ふむ、幽霊は怖いんですな。有益な情報をありがとうございます、殿下」
「いえ、あの、本当に怯えていましたから……」
「王城を勝手にうろつこうとしたんでしょう?少しくらい、怯えていればいいんです。そもそも、王城から帰ってきてもケロリとしていましたよ。もっと怖がらせて頂いて良かったんですが」
厳しいな、火龍公爵……。
そうは言いながらも、彼の目には隠し切れない愛情が溢れている。火龍公爵の家族愛が深いのは割りとよく知られているので、この厳しさもアリッサ嬢に対する愛ゆえだろう。
「今週いっぱい、あれは王都にいる予定です。恐らく、商会の方へ日参していることでしょう。もう少し大人しくしてくれると安心なんですがね」
「大人しいアリッサ嬢は、アリッサ嬢じゃない気がしますよ。でも、なんだかんだと言いながら、閣下はアリッサ嬢を自由にさせておられる」
「まあ、思うところもありまして、あれにはあまりあれこれ制限をしておりません」
へえ?あの自由っぷりは、火龍公爵公認なのか。まあ、公爵家の娘としてはだいぶ規格外な感じなので、火龍公爵が目を瞑ってないと、ああはならないよな……。
「殿下には、これまで非常にご無礼な点が多々あったかと。本当に失礼いたしました。……王子妃のような大役、アリッサにはとても務まりませんでしょう?」
顎を押さえながら、意味ありげな視線で低く火龍公爵が言う。僕は首を振った。
「アリッサ嬢との婚約の話は、母が言っているだけです。四大公爵のバランスを考えれば、その話は進めない方が良いと思っています」
「……殿下は無欲ですな」
「そうでもないですよ。責任を負いたくない臆病者ですから」
あまりこういう話を王城ではしたくない。さらっと流そうとしたら、火龍公爵の、アリッサ嬢と同じ力強い光を放つ金色の瞳が僕を真っ直ぐ射抜いた。
「殿下が望まぬと仰られても、先走る者もおりましょう?殿下はご自身の価値を分かっておられない」
「買い被りです。もし、そんな馬鹿げたことを言う者がいるなら、そのときは閣下にすぐお知らせします。我が国の平和のために、愚か者は目を覚ましてもらわなくては困りますから」
公爵は目を細めた。
「ほう?娘は不要だが、私は信用してくださるのですか」
「閣下はこの国を支える四大公爵が一人、信用せずしてどうします。……それと、アリッサ嬢とは良い友人になりたいと望んでいますよ。僕は情けない姿を散々彼女に晒しているので、友人になってもらえるか微妙だと思っていますが」
自虐的に言って肩をすくめたら、公爵はくつくつと笑った。
「殿下は心が広い。娘を不敬だと罰せず、友人に望んでくださるとは。……良いでしょう、このマクシミリアンも殿下の信頼に足る臣下をお約束しますよ。親子ともども、よろしくお願い申し上げる」
火龍公爵の信頼を本当に得られたとは思わない。
母とコーデリア様の仲があっての、リップサービスだ。だけどまあ、この人とは良い関係を築いていけるよう、努力しなければならないだろう。




