変わってみよう、と思う
折れた足は王城へ戻るなりすぐに治されたが、僕の折れた心はすぐに治らなかった。
何でも簡単にこなせると思っていたけど、思い上がりもいいところだ。惨めだった。
ウィリアムもブランドンも、珍しく何も言わず、ただ日々だけが平坦に過ぎてゆく。
そんなある日、母上が「アリッサ嬢を城へ招きたいのだけど」と言い出した。
「お会いになりたければ、ご自由に会われれば良いでしょう。僕は会いませんが」
「あまり大袈裟にしないため、アリッサ嬢しか招けないのよ。小さな女の子が、たった一人で城へ来るなんて不安に思うでしょう?アルは二回も彼女と会っているから、同席してくれない?顔見知りがいれば、少しはマシだと思うの」
情けないこれまでの経緯を知っているはずなのに、母上はひどいことを言う。
僕は返事せずにそっぽを向いた。
母上の溜息が洩れる。
「アリッサ嬢はとても努力家なのですって。たくさんの勉強に加えて商会のお手伝いもするし、護身術まで習っているとか。そしてね、それは全部、彼女がやりたいと言って始めたことなのよ。アルは……自分でやりたいと言ってやったことは何かあるかしら?わたくし、アルにアリッサ嬢の好奇心や行動力を見習って欲しいの」
「…………」
母上に言われて、僕ははっとした。
確かに……これまで僕は、自分から何かをしようとしたことがないかも知れない。
「それとアリッサ嬢と婚約しろとか、友達になれとか、そんなことを言うつもりはないわ。コーデリアと決めているから。あなた達の意に沿わぬことはしないって。ただね、どうしても一度はアリッサ嬢には会ってみたくて。わたくしは火龍公爵家に行けないから、少しだけ、協力してくれないかしら?」
母上はずるい。こんな言い方をされて、駄々っ子みたいに振る舞えるはずもない。
僕は渋々、承諾した。
その夜、僕は一つの決意をした。
アリッサ嬢は護身術を習っているという。だからだろう、木に登ったとき、最後はいとも簡単に自身の体を持ち上げていた。僕は、彼女みたいに腕の力だけで体は持ち上がらない。
そう、すでに基礎の部分で僕は年下の少女に負けているのだ。
剣術をやっているといっても、形だけ。先生も、僕が怪我をしない程度に手加減している。これでは駄目だ。アリッサ嬢は、きっとそんな生温い訓練はしていない。
───ウィリアムを呼び出す。
「どうしたんです、殿下」
「明日から、僕もウィルと一緒に騎士や護衛の訓練をする」
ウィリアムは、何故か騎士の訓練と護衛の訓練二つをこなしている。必要とされる動きが全く違うので、両方を修めているらしい。
「へ?殿下が?必要ないでしょう」
「必要か必要でないかは関係ない。僕が強くなりたいんだ」
「…………なるほど」
意味深な目付きでウィリアムが頷く。何か軽口でも叩くかと思ったが、驚くほど明るい笑顔になって僕の頭を撫でた。
「じゃ、明日から一緒に鍛えましょう!男はやっぱり強い方が格好良いですからね!」
「こら、撫でるな!」




