人生最大の汚点…
文字量多めです~。
火龍公爵家の末娘の誕生日パーティーへ行くよう、母から言われた。
(ああ、婚約者候補として、顔合わせをさせる気だな)
と、すぐに気付いた。母は、火龍公爵家のコーデリア様と懇意だ。二人の間でどのようなやり取りがあったものか、やたら婚約の話を匂わされている。気付くなという方が無理だろう。正直なところ、全然気乗りがしない。
母は僕の立場が弱いことを心配している。だけど、僕は王位に全く興味がない。それなら、このまま後ろ楯を作らない方が波風を立てないのではないかと思う。それなのにもし、火龍公爵などと縁付けば……僕を王太子に!と色付く一派が出てきてもおかしくない。
が、まだ正式な話もない段階で、たかが誕生日パーティーへ行くのを渋るのも、子供じみている。せめて、相手の顔くらい見ておくのもいいだろう。
会場に入って一番に目を惹いたのは、檀上で居並ぶ客人に挨拶する小さな少女だった。
鮮やかな、深紅の髪。こんなにも綺麗な紅い色を見たことがない。照明の光を受けているからか、まるで燃え盛る炎のようだ。
近くへ行き挨拶すれば、その瞳にも釘付けになった。意志の強そうなきらきら輝く大きな瞳が真っ直ぐにこちらを見つめている。なんだか心の奥底まで見透かされそうな、神秘的な金色の瞳……。
だけれど話してみれば、他のご令嬢と特に変わりはなく、僕はすぐに軽い失望を感じた。
とりあえず、ありきたりな挨拶をして。
その後、コーデリア様の提案で彼女と庭を散策。当たり障りのない会話をお互いに交わし、僕はどうやって切り上げて帰るか、そんなことばかり考えていた。
そのとき。
彼女が急に足を止め、何かをつまみ上げる。
「あ!王子、見てください!とっても可愛いカエルがいました!」
目の前に、緑色の気持ち悪い物体が差し出された。
身構える隙もなく差し出されたソイツに、僕は一瞬で意識を失った。
「あーはははははははっ!!!」
部屋に大爆笑が響く。絶対に無視すると決めていたけれど、僕は堪えきれず怒鳴った。
「仕方ないだろ!いきなりカエルが目の前に出されたんだから!」
「いや、それでもそのまま卒倒って、ご令嬢じゃないんだからさ~」
「カエルをつまみ上げるご令嬢がおかしい!!」
「あはははははっ!!」
「ウィル!」
目に涙を浮かべて笑い転げる従兄に、僕は本気の怒声をあげた。
僕は、昆虫や爬虫類が本当に本当に大嫌いだ。それを突然、目の前に出されて、気を失って何が悪い?
「ご、ごめん、ごめん。そうだね、殿下はああいうの、苦手だもんな。笑ったらダメだよな」
ウィルが───ウィリアムが必死に呼吸を整えながら謝る。
「マーカス殿下だっけ?君を物置きに閉じ込めてカエルやクモ攻めしたのって」
「…………」
「そのマーカス殿下だって、自分の侍従に命じて集めさせただけらしいから……躊躇わずに素手で掴んじゃう火龍公爵家のお嬢様、スゴいなぁ」
……あんなことを平然と出来る女が、“お嬢様”な訳がない。そして、そんな女と婚約なんか断じて御免だ。
「いやぁ、殿下はそつなく何でもこなすと思ってたけど、まさか年下の女の子にこれほど見事に負かされるとはね。ああ、今日の護衛は僕が付いて行くべきだった~!勿体無いのを見逃しちゃった」
「見世物じゃない」
ウィリアムは、父の兄(伯父)の息子だ。だが、伯父は全てを捨て、平民になった。そのため、ウィリアムも平民なのだが……様々な能力が高いため、そのまま市井に埋もれさせるのは惜しいと王家に引っ張り上げられた。新たに爵位も与える予定だったが、それを蹴って酔狂なことに僕の護衛兼側近に収まり、本人はいたく満足している。
とても有能で頼りになるし、従兄だから他の護衛と違って気安いのだが……遠慮なく言いたいことを言うのは勘弁して欲しい。
「ウィリアム様、殿下をいじめるのも、ほどほどでお願いします。ヘソを曲げられると後が大変でしてな」
「ブランドン……」
また面倒なのが口を出してきた。
いつの間に部屋に入ってきたのか、執事のブランドンが紅茶を持って立っている。
「いじめているつもりはないけど……まあ、女の子にあっさり負けたことをあまり突つかれるのもイヤだよね。うん、もう言わないよ」
「そうでございます。何ごとも優秀な殿下が、たかがカエルで気を失うなど。それも可愛らしいご令嬢の前で。こんな軟弱な王子は御免だと縁談が一つも来なくなったら、どうするんですか」
「ああ、本当だ!庭を散策中にカエルが飛び出した途端、悲鳴をあげて逃げ出されたら、百年の恋も冷めちゃうよね~」
「で、ございましょう?これは国家機密にしなければならぬ案件です。殿下の弱点がカエルなど」
「…………いい加減に止めろ。いつまで当てこするつもりだ」
思ったよりも低い声が出た。
ウィリアムとブランドンの口がぴたりと閉じる。それでも、二人の目に浮かぶ楽しそうな色に、僕はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「カエルなんか、別に怖くない!ブランドン、すぐにここへカエルを持ってくるんだ!」
───そして僕は、二人の挑発に乗るんじゃなかったとすぐに後悔した。
僕の弱点を克服する良い機会だ!とか何とか言いながら、カエルが掴めるようになるまで地獄の特訓をさせられたのだから。
アリッサ・カールトン。
絶対に許さない。
始まりました、アルフレッド王子視点です。
アリッサと絡む分だけをメインに書いているのですが……結構、たっぷりな量になりそうです。
マシューとかクローディアの視点も書いてみたかったけど、この調子では無理かしらん……。




