スキを見て逃げ出そう
…………必死にたくさん話したけれど、結局、ムダだった。
小屋の外から大人の男の人が少年を呼び、彼は再び私に猿ぐつわをして出て行ってしまった。
ああ……。普通に命乞いすれば良かったのかな?
説得じゃなくて、もっと子供らしく怖がってみせれば、罪悪感を抱いてくれたのだろうか?
単純に、人を害するのが楽しい人だったら、何を言っても意味ないよね。
せっかくのチャンスを活かせなかったことに落ち込んでいたら、アルがゆっくりと身を起こした。
そうだ。アル、お腹を蹴られたんだった!
慌ててアルの方へ這う。
すると、アルが静かに……というように人差指を口元に立てた。
あれ?猿ぐつわは……手も縛られていなかったっけ?
アルの手が伸びて、私の猿ぐつわを取ってくれた。続いて手の縄が取れ、足も自由になる。アルの手には、私が贈った守り刀があった。身に着けていてくれたんだ!
「これは本当に守り刀だね。さ、時間がない。逃げるよ」
小さく、小さく耳元で囁かれ、私は無言で頷いた。今は無駄なことを話している時間はない。
少年が出て行った外への扉ではなく、奥の扉の方へ。
扉の先は雑多な物置き部屋だった。食料も置いてあるが、斧や草刈り鎌みたいなものが多く置いてあるから、ここは森の木々の管理をするための小屋なんだろう。
有り難いことに、物置き部屋から外へ出る扉がある。
「外に……見張りがいるようだ」
扉にくっついて、外の音に耳を澄ませたアルが言う。私の耳にも草を踏むひそかな足音が聞こえた。
「僕が見張りを倒すから、アリッサはすぐに走って」
「仲間が何人いるか分からないのに、そんな作戦、無謀だよ!」
「大丈夫、3~4人なら足留め出来る」
アルが落ち着いた口調で断言する。その青い瞳は凪いでいて、自棄になっているわけではなく、きちんと策がありそうだった。
だけど、大人相手だよ?
どういう策か分からないけれど、絶対、無茶だ。それにアルは王族。私より、アルの安全を優先しなくては。
私は首を振ったけど、アルは決意を秘めた目で扉に手を掛けた。
「ダメだよ、アリッサ。ためらってる時間がない。最初に派手な目眩ましを仕掛けるから、君は目を瞑って。そして僕が走れと言ったら何も考えず走るんだ。すぐ、離宮から人が来る。大丈夫だからね」
ああ、アルは自分を盾にするつもりだ。
そんなのイヤだ、出来ない……。アルを置いて、私だけ逃げるなんて!
───咄嗟に小屋の中を見渡した。さっき、アレがあった。アレを使ってみたら、敵を撹乱できるんじゃない?
考えている間に、隣の部屋の外に繋がる扉が開く音。
それを聞いて、アルは躊躇わず手に掛けていた扉の取っ手を回した。
「アリッサ!」
私は、急いで棚に置かれていた袋を掴む。
袋の口を開け、二つ、三つと勢いよく天井に向けて投げた。
「アル!一緒に!」
何を……と言い掛けたアルの腕を引っ張って外へ飛び出す。
小屋から少し離れたところにいた男が慌ててこちらに駆け付けようとして、何故か突然、盛り上がった土に足を捕られて動けなくなった。
え、今のは?
ビックリしたけど、考えてるヒマはない。
私は白い粉が舞う物置き部屋を振り返る。
「───」
粉に向けて、小さな火の初級魔法を飛ばす。
そして大きな木の影へ。
───ドッカーン!!
小屋が凄まじい轟音とともに大爆発した。
小屋がドッカーンと爆発したのは、いわずと知れた(?)粉塵爆発の結果です。
小屋に都合よく小麦粉があるかー!とか、そんなに爆発するか?というのは、物語なので大目に見てくださいませ……。
普通にアリッサの魔法で吹っ飛ばせばいいじゃんと思われるかも知れませんが、アリッサもまだ物を吹っ飛ばしたことがないので、確実性の高い方法を取りました。あと、魔法が使えることは周囲には秘密ですので。こそっと初級魔法を飛ばしただけだから、アルには気付かれなかったはず……?




