初乗馬体験は思ったより怖かった
ランチのあと、さっそく乗馬服に着替えて馬小屋へ。
この世界に来てから、初めてのズボンかな?動きやすくていいわ~。編上げのブーツもカッコいい!
たまに、部屋ではジャージでくつろぎたいって思うんだけど、ジャージがないならせめてこの乗馬服……ではムリだよね~。
「急に触ると、馬も驚きますでな。まずは挨拶して、ゆっくりと撫でてあげてくだされ」
人の好さそうな馬番のお爺さんが、一頭の白い馬を引き出してくれた。
お、大きい!
私がまだ子供で小さいとはいえ、この背に乗ったらすごく高さがあって怖そうだな……。
馬に詳しくはないけど、前世のサラブレッドに比べたら、脚がだいぶ太い気がする。でも、目は穏やかな若草色で、優しそうだ。
「スウェインという名前なんだ」
アルが手を伸ばしてそっと首を撫でてあげると、スウェインは嬉しそうに目を細めて鼻面をアルにすり寄せた。
「こんにちは。アリッサといいます。よろしくね、スウェイン」
ドキドキしながら声をかけて、私もそっと首に触れる。
ふわ~、手に感じる体温が生々しい~。
スウェインは、アルから私に視線を移し……ふん!と鼻息を吹きかけてきた。
「きゃあ!」
「はは、アリッサ、気に入られたね」
「ウソ?!嫌われたんじゃないですか、今の!!」
「スウェインは気に入らなかったら、かじる」
「ええっ?!」
「大嫌いな人間は、蹴りますな」
「ひええ……」
蹴られたら死ぬって。
アルの後ろからしがみつく形でスウェインに乗った。
「た、たかい……」
「ちゃんと僕に掴まっていたら、大丈夫」
「ア、アルの乗馬の腕は、大丈夫なんですか?」
「失礼だなあ。アリッサを危険な目に遭わせる腕なら、最初っから誘わないよ」
妙に楽しそうに言いながら、アルはしがみついている私の手を撫でる。
「手!手を、手綱から離さないでください!」
「大丈夫だってば」
「ふわっはっは、お嬢様、安心召され。殿下はこの半年ほどで驚くほど腕を上げられましたでな。それにスウェインも賢い子で、無茶なことはせんですよ」
「は、はい……」
馬に乗ってみたかったけど……こんなに高いとは思わなかった。
しかも動き出したら、お尻が跳ねるじゃん!なんか、思っていたより安定感がないような……。
「高い木に上るのは平気なのに、この高さは怖いの?」
ゆっくりとスウェインの歩を進めながら、アルが聞いてきた。
「うーん、木は、自分の手足で安全確保しながら上ってるから平気ですけど……馬って、馬の機嫌次第で振り落とされそうな怖さがあるというか」
「なるほど。僕の腕も不安だし?」
「…………いえ、そんな、アルに不安なんてないですよ?」
「棒読みだなー。よし、じゃあ、少し僕の腕を披露しよう」
言うなり、アルは軽くスウェインを蹴った。
その瞬間。
スウェインは軽快に走り始め…………ぎゃー、お尻がもっとポンポン跳ねだしたぁぁぁ!い、痛い?!
「ちょ、アル、景色!景色を楽しみながらゆっくり行きましょう!!」
「向こうに、もっといい景色のところがあるんだ。早く行こう!」
「きゃーーーーっっっ!」
きっと仕返しだ。
前にカエルで脅かしたり、無理矢理に木を上らせた仕返しなんだ。
ようやく馬から下り、痛むお尻を押さえて、私は恨めしい気持ちでアルをじっとり見つめた。
……最初の“怖い”という気持ちは、スウェインが走り出したら吹っ飛んだ。だって、もうホントにお尻が痛いんだもの!馬の鞍には絶対、クッションをつけるべきだと思う。
「おかしいなあ、あんまり楽しくなかった?」
「……お尻が痛いです」
「痛い?……アリッサ、力が入りすぎてない?足の力は抜いて、スウェインの動きに合わせるんだ」
「ええ?馬の動きに合わせる?予測もつかないのに難しいですよー……てか、アルはお尻痛くないの?馬に乗りすぎて岩みたいにガチガチのお尻になってるでしょ」
痛くないなんて、おかしい。
私が口を尖らせて訴えたら、アルはくすくす笑う。
「触ってみる?」
それ、セクハラ。いや、本人がOKなら、問題ないのか?
「お尻にさわる趣味はありません!」
「僕も触られる趣味はないけどね」
楽しそうに言って、アルは後ろを指差した。
「とりあえず、この景色を見せたかったんだ。機嫌、直してくれないかな?」
彼の背後は……木立が途切れ、色とりどりの花が咲き乱れる夢のような景色が広がっていた。そのあまりの絶景に、お尻の痛みを忘れて私は歓声をあげた。
誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
たくさんありました……お手数をお掛けしました。
数字は元々は漢字を使っていたのですが、読みやすさを考慮してアラビア数字に変えたものの、変え忘れたり、大文字小文字が点在したりしまして……ご指摘、感謝です。
頭の1字空けに関しては、スマホからPCに移す際、互換性の問題か勝手に詰まります(言い訳?)。なるべく見直しているのですが……結構、抜けていましたね……。
その他、「出来る」「言う」の部分に関しては、本来ならすべて漢字か平仮名に統一した方がいいと思うのですが、前後に漢字が多くて読みにくいかな?と感じた場合、平仮名を採用しています。反対に、平仮名に囲まれていたら漢字。これはもう、感覚でして。
全部統一しないと気持ち悪い!と思われたら、申し訳ありません。
おかげで、どこまで漢字にするか平仮名にするか、毎回悩んでいます~…。漢字の方が読みやすいときもあるし、平仮名の方が柔らかい雰囲気になる場合もあるし。同じく、擬音語も平仮名か片仮名か悩みます。この変換も、書いたときの感覚……。
アリッサの台詞も、すっかり漢字が多くなってきました。この頃、幼女の真似を忘れつつあります。




